15-5.同。~技師に一芸を求む~
~~~~そういやストックにご機嫌とられたことはないな?そういうとこも好き。
まず真っ先に、医務室に向かった。
目当てはイオ。
手術後の検査予定が入ってたから、捕まえられるかなと思って。
パンドラの医務室は、鍛冶職人ゴージさんの双子の弟の、ダッジさんが常に詰めてる。
魔都出身のオーク族の人で、黒光りしそうな肌のゴージさんと違い、白くて玉のようなお肌の方だ。
なおオークとは言っても、多少肥えやすいだけで豚面だったりはしない。
医師の資格持ちは他にもいるし、もちろん女性もいるがね。
彼らは、別のこともやってたりするので。
医務室は結構広くとってて、中にいくつか部屋が入ってる。
診察室やら手術室やらは、そら一緒にはできないからね。
奥から声がするし、こりゃイオは診察中かな。
「あれ、ハイディさん」
なぜかオリーブがいたけど??
待合に置いた長椅子に座って、所在なさげにしておる。
というか君、寝たの朝になってからやろ?起きて大丈夫なのか??
「君もどっか悪いのか?オリーブ」
「いえ、暇だから付き添いをと」
「そうか。寝不足で調子崩したのかと思ったよ」
「ちゃんと寝ましたよぅ。
リコはまだ寝てますけど」
あの子も脳の魔素制御の使い手なんだが……いろいろあって疲れたかね。
ストレスや疲労は、簡単に抜くことができるはずなんだけど。
とりあえず長椅子に座ってる彼女の隣に、腰かける。
何時間も立ちっぱなしだったからな。
ボクもちょっと休憩しておこう。
「眠れてるなら何よりだ。
そういや、君ら同じ学科だろう。
イオのことは、気づかなかったのか?」
自動人形フィラのことを、前の時間で起こしたのはオリーブだ。
当然、制作者のイオ・ニップのことは知ってるはずなんだが……。
「同名の別人かなって。
その、フィラを作った人が、私と同い年っていうの、知らなくて……」
なるほど。
年齢一桁の時にあの人形を作ったとは、思わないだろうしなぁ。
無理もないか。
資料には名前と性別、年齢は載っていたが。
そも資料化前に、オリーブは聖国に浚われたとみられる。
「信じられません。あれを作ったのが、そこで笑ってるイオちゃんだなんて……」
診察室からは、割と絶え間なく声がし、談笑の様子が伺える。
「あの子もボクみたいなもんだ。気にしたら、物作れなくなるぞ?」
「天才ってことですか?」
そんなわけあるかい。ボクに才能はねぇ。
「そりゃ外れだ。
あの子はおそらく、そこにいるフィラに合った形を作っただけ。
機構が単純すぎて動けなかったはずだから、別に技師として天才的なわけじゃない。
その仕組みだけを評価するなら、見習いくらいだよ。
芸術家として考えるなら、また話は別だがね。
オリーブは芸術作品を作りたいの?」
「それは……違います」
「ボクについては、リコと同じ技が使える。
見たこと、聞いたことは忘れないし。
今はピコ単位まで重さも長さも分かる。
その他センサーも完備。パンドラの機器より精度高いぞ?」
「えぇ!?」
ボクは頭を、指でちょっととんとんして。
「人間、そのくらいのことはできるのさ。
まぁ脳の魔素制御は、向き不向きがあってね。
誰でもってわけにゃいかないが。
ボクはあくまで、その一芸が他の分野にも使えてるだけだよ。
ボクやイオの作は、技師の腕とは関係ないところで出来てるんだ。
でも君は魔道具技師だろう?」
「それは……はい。まぁ」
「ボクやイオと、君は比較すべき対象じゃない。
ここで生粋の魔道具技師は、エイミーだな。次にマリエッタ」
あとはアリサだな。マドカも結構やってるが、あの子は他に向きがある。
意外に、人と話したり、話を聞いたりするのが得意みたいなんだよね。
ベースとなるゲームヒロイン気質が影響しているのか、人をまとめるのに向いてるかもしれない。
「エイミー、先生も……かなりすごいって聞きますけど」
「ん。だから比べるならあそこにしな。
あれこそ天才だ。
だからエイミーをよく見て。
あの子ができないことをし、作れないものを作るといい」
「あるんですか?そんなの」
「あるとも。そもそも、エイミーは魔力なしだし。
作るのに、弊害があるものの方が多い。
あと仕事は杜撰だ。本人を管理する人間が、別に必要なくらい。
エイミーにとっては、人型魔道具そのものが一芸とも言えるね」
彼女は人型魔道具の作成に、すべての情熱を燃やしている。
他のことは、そのための燃料だ。
「一芸……」
これは……そうだな。話しておくか。
「君、執刀はできるんだろ?」
「へ?はい。今やったら、捕まりますけど」
んむ。外科手術はそりゃできるか。
ならいけそうだな。
「それは人間相手だろ」
「…………え。どういうことです????」
考えてから疑問に思ったか。
説明が抜けてるしな。そりゃそうだが。
「フィラの状況は、君が前に見た時と変わらない。
その認識で、合ってるか?」
「あ、はい。イオちゃんに聞いた感じでは」
「ではまた動かないな?」
「え、でも前は動きましたよ?」
そうなんだが……違うんだよ、オリーブ。
「よく思い出せ。どんなふうに動いて。
どうなったか。
彼女はどうやって――――自死したかを」
「っ……それ、は」
オリーブは、息を、言葉を詰まらせた。
次の投稿に続きます。




