15-3.同。~我らが船を、東国へ向けて~
~~~~パンケーキ。好んでくれるのは嬉しいが、量が、その……ね。甘味づくりは戦争だ。
「ハイディ、ちょっと」
片付けも終わって、さてどうしようかとストックと話していたところ。
キッチンに顔を出したビオラ様に呼ばれた。
「あー……ひょっとしてこれの話ですか?」
作業台の隅に、メモ置きを用意してあるのだが。
そこにおいといた紙束をとって、上司殿に渡す。
必要になるだろうと、昨夜のうちに書いておいたものだ。
まさか翌日に休園になって、すぐ使えるとは思わなかったが。
何事も備えておくものだな。
「航路変更申請……もう書いておいたのね」
今パンドラがいるのは、王国の北北東くらい。
このまま、王国の東側をぐるっと南まで行く予定だった。
それを、東の共和国と、その北の魔都の間を通りつつ。
共和国自体を一周し、予定の航路に戻るという申請をしようと考えている。
途中、魔都そばを通るので、一時寄港はすることになるだろうな。
あそこ出身の人が多いし、余裕さえあれば多少の里帰りだ。
今回、どうにも敵が多い気配がある。
クレッセントが出てくるかもしれない。
パンドラから小型神器船エルピスや、クルマで遠征にとするよりは。
もう総出で行った方が良いと見た。
目的はもちろん、自動人形フィラの回収だが。
どうにもきな臭い共和国への、介入サポートでもある。
休園になった以上、ミスティ、ベルねぇ、ギンナはあちらにかかりたいだろうし。
共和国内でパンドラと転送路が繋がっているのは、西端の街ロードⅩⅢのロール家だけ。
そこ以東なら、街道ではなく郊外をクルマ移動となる。
あそこの街道は馬車用で、クルマが走るには許可がいるからだ。
だったらもう、パンドラを国の外で移動させつつ、拠点にしたほうがいい。
もちろん、出入りについては別途共和国に申請する。
これは、常任議員と評議員殿にやってもらおう。
「共和国を周回するルートを追加です。
幸い、共和国所有の聖域の内周を行くところが空いていたので、ここを使います。
話は通す必要がありますが、折衝はいらないでしょう。
まぁ申請受理に時間が要るので、動き出すのはその後ですね」
どっちみち、フィラ回収に動く人間はだいたい外国人だ。
ボクらは王国のひも付きだし、今日行ってすぐ入れるものでもない。
……その間に、敵に回収される危険性もあるわけだが。
これについては、考えてもしょうがない。
向こうは壊せないんだから、何度でも奪還のアプローチをするつもりでいよう。
「……問題なさそうね。
話は私の方で通しておくから」
「お願いします。
あ、それから一つだけ」
「何かしら?」
「割と近いところまで行くので。
先に寄り道して、彼女に、会いに行こうかと思って。
どうします?」
「いく」
言うと思ったよ。
隠し立てするようなことでもないから、言ってしまうが。
魔都南東にある小さな魔境。
比率の関係で、地上で唯一魔界となっている場所。
そこにいるドラゴンに、会いに行こうと思うのだ。
ビオラ様には、以前ちらっとこの話はしておいた。
この方の論文の、生き証人……証竜なのだ。
だが、ビオラ様を連れて行くとなると、ボク・ストック・ビオラ様の三人の管理者がいなくなる。
操作権限を持たせているのは、他にもいるけど。
「パンドラは誰に任せます?」
「…………エイミーね。
スノーは置いていけないし」
置いてってもくっついてくるでしょ。
エイミーなら、戦力上は特に問題ないかな?
あの子は、超過駆動魔導を非常に高精度で使いこなす。
単独戦闘能力は高くはないが、神器車や神器船を使えば対応力が跳ね上がる。
エルピスやパンドラでの戦闘なら、あのマリーを抜いてビオラ様の次だ。
何かあっても撃退してくれるだろう。
「あの子、単独でLevel3まで起動したわ。
一人で任せて大丈夫よ」
なんやと?
パンドラのカラミティコールは、激重だ。
一人でコールレベルを2以上に上げられるのは、マリーとビオラ様だけだったのに。
「問題しかない。いつやったし」
「昨年。会議で言わなかったかしら……?
ああ、ハイディが知らないなら、言ってないのね。
ごめんなさい」
ボクは聞いたなら忘れないしな。
共有漏れはたまにあるから、まぁそこはしょうがない。
システマチックにしても、人為ミスはなくせないからねぇ。
「いえ、それエイミーが報告すべきところでしょうに……。
その様子だとたぶん、誰かには言ったけど、ちゃんと共有されてないことがまだありますね。
今度本人をつついてみます」
勝手な改造とか、やらかしてないといいけど……。
ボクはマリーたちとの研究に、かかりっきりだったし。
その間、マリエッタはこっちだったわけだし。
エイミーの監督者がいなかったんだなぁ。
失念していた。
もちろん通常の管理は、しているんだが。
その範疇外のことでもやらかすのが、エイミーだ。
「そうしてちょうだい。
今更だけど、誰か専属でつけたほうがいいかしら?」
「本当はマリエッタ、手すきならマドカなんですけどね。
ああいや……三人つけましょう。ちょうどいいのがいる」
リコ、オリーブ、イオは魔道具科だ。
しばらくエイミーの手伝いをさせつつ、勉強してもらおう。
次の投稿に続きます。




