15-2.同。~自ら立つ者。人に立てられる者~
~~~~学校が休みだろうと、仕事はなくならない。今日も忙しい。
ウィスタリアが長い沈黙のあと、ほぅっとため息を吐いた。
「今生でもあの船は、経営がどん底なのか。
謎の金の流れはあるが、何も生産してねぇしな」
彼女がいた神器船クレッセントは、登録上は不定魔境航行の研究所。
最悪の組み合わせだ。何の売り物も作れないだろうに、業務ばかりは大量に増える。
「そうなのよ!」
なんか火が付いたぞ。淑女みがすっ飛んで行った。
「わけのわかんない研究にお金突っ込んでて、全然食料入らないし!
学費と寮費は出してやるって言われて来てみたら、中の食費は自腹だし!!」
おい、しかもなんか泣き出したぞ。
「ぐす。ここは天国よぅ。私パンドラの子になるぅ……。
おいしい。卵食べられるなんて、夢みたい」
エイミーみたいなこと言い始めた。
そこの魔道具科教師は仲間!みたいな顔しないの。
ボクも今、丸羽信者ゲット!みたいな顔したけど。
「スクランブルエッグは、お気に召したか。
じゃあ今度、オムライスやプディングも作ろうか。
たんとお食べ」
追加の皿を置いたら、袖をひしっと掴まれた。
「あなたが、聖女様ですね?」
君だろ寝ぼけんな。
……まぁその勢いで手まで握ってこようとしなかったから、許してやろう。
「それを返上したら、君はラース皇子にリィンジアを取られるが?」
「かえして」
もらってねぇよ。
「さすがにそれは、私からお断りしたいわ……」
リィンジアが、ちょっとアンニュイになってる。
そらあれは嫌だろう。いい男に育てる気にも、ならんだろうな。
皇帝の血筋だからか、顔だけはいいわけだが……無理だろ。
そして自分の一存では、婚約の破棄などできない。
そうなったら、彼女が世話になった聖国ロイド家はどんな目に遭うか。
そうだ。
ミスティが話を通してるだろうけど、そちらにも一度はご挨拶にいかないとなぁ。
娘さん、お預かりしてるわけだし。
「ラースのこと話してるの?まだ子どもじゃない」
なんかエイミーが参戦してきた。
そういや君、あれが異母弟になるのか。
ちっちゃいメリアと知り合いだったくらいだから、知ってるのかな。
「どう思う?リィンジア」
「猶更いやよ……」
「そういうもの????」
エイミーは、どうもピンとこないようだ。
ウィスタリアはなぜ胸を張っている。
「リィンジア様には、相応しくないわよ」
「そういう問題じゃねぇなぁウィスタリア」
「どういう問題よ?」
「君は成長して大人になっても、相応しくはないって言いたいんだろう?」
「そうよ」
まぁ……君の時代にも『ラース・クレードル』はいただろうしな。
その時の印象から、そう思うのだろう。
「それ以前に、誰があいつを大人にするのか、って話だ。
勝手になってくれると思うか?」
「ああ、そういう……確かに、自分が買って出るのは嫌ね」
「ええっと……?」
「エイミー。君がイメージしてるのは、ソラン王子だろうが。
誰もがああやって、ちゃんと自立はしないんだよ。
子どものまま、年を重ねる者だっている。
それを自ら育てたいという趣味の人も、そりゃいるだろうがね。
他にやりたいことがある子が、そう思うことはなかろ」
「あぁ~……」
そのソラン王子を、人型魔道具作りたいから!で振った女も、納得したようだ。
ゲームのヒロインは、皇子を大人にする役だったわけだが。
最後には、他の女のところに行かれるわけで。
嫌すぎる。
「そういえば、ソラン様。無事結婚されるそうですよ?」
「なんじゃとマリエッタ。ダリアからは聞いておらんぞ?」
ソラン王子は、イスターン連邦ミクレス国の王子だ。
連邦の象徴、武王の後継と言われているが、まだ即位はしてない。
現武王がめっちゃ現役だからね。
で、王子の実の妹がダリアだ。
彼女はさっき出てったな……。
ダリアとマリーは食べる量が普通だから、食事にそんなに時間かからない。
話は今度聞くか。
「え。私のところには手紙がきましたよ?
夏だそうなので、式典にはいかなくては」
「めんどくさそう……」
「エイミーはついでにデクレス国行って、娘さんをください!ってやってこいや」
デクレス王国は連邦傘下の国の一つで、マリエッタの実家。彼女は王女だ。
デクレスは、マリエッタの弟の一人が王太子の指名を受け、王位を継ぐことが決まっている。
「ぐぇ~……」
エイミーが、すごい勢いでぐったりしだした。
マリエッタはそんな彼女を、謎の情緒を含んだえぐい笑顔で見ている。
「……お二人は結婚されるんですか?」
若干……いやかなり引きながら、それでも気になるのかリィンジアが口を開いた。
「します!よっしゃ夏だな気合い入れてやってくる!」
何も食べずにどこに行く気だ。
休園だから、開発に没頭するんだろうけど。
「馬鹿なこと言ってないで、朝飯食べてけ。
今朝は早かったから、死ぬほどパンを焼いたぞ」
「パンケーキと聞いて!」
「言ってねぇからミスティは座ってろ。焼いてくるから」
「「「わーい!」」」
期待の声多い……多くない?まだ食べるの??
ウィスタリアは静かに泣くのをやめろ。
メリア、クエル、シフォリアが席を立って。
マドカがそれに続いた。
キッチンに入れる人数的に、それが限界だな。
戦争の始まりだ。
台所に入ると、相棒がやっぱりな、という顔でこちらを見ていた。
次の投稿に続きます。




