15.パンドラ。休園につき、大事な話を進める。
――――ボクは君を諦めない。ストック。
その後。
リコ、オリーブは満足したのか寝に行ったので、ボクとストックは残って朝飯を作ることにした。
イオは、料理はできないというので、配膳を手伝ってもらっている。
意外にきびきび動ける子だ。第一印象では、もっと鈍そうだと感じたのだが。
そうこうしてるうち、教師組と初等部組が起きて来て。
欠食高等部組が、食べにくる時間になって。
ビオラ様が帰ってきた。早いな。
学園の、正式な休園の知らせを持ってこられた。
「なぜ」という部分まで、隠さず公表されるのだそうだ。
学費と学ぶ機会の保証はされるものの、期限を切らずに休園になるという。
寮は当然追い出され、国元に返される。
神器船経由で通いの子らには、すでに転送路で人づてに急ぎの連絡がいってるらしい。
もちろん、下宿町にも伝えられるとのこと。
下宿は、追い出すとちょっといろいろ拗れそうな気もするが。
たぶん、王国肝いりの何かでやることになったんだろうからな……補填がされるんだろう。
元々、下宿町だって国の運営だしね。半官半民だ。
ま、良家の子女が入る寮に、監視の魔道具仕掛けられちゃな。
現物も押さえられており、ぐぅの音も出ない形だ。
そらここまで徹底してやるしかない。
なお魔道具各種は、監視とはいうが遠隔ではなく、記録をとって後で回収する形のものだ。
魔道具の利点はここだな。魔法や魔術、法術は基本的に、視線が外れると効力を失うが。
魔道具は起動までできれば、魔力が尽きるまで効果が続行する。
十分記録を取ったところで、回収するつもりだったのだろう。
「…………ぇ?きゅうえん??」
最後に起きて来たエイミーが、きょとんとしている。
否、まだ半分寝ている。
エイミーの襟元とかを直して上げていたマリエッタも、手が止まった。
彼女はもっと早く起きて食事は済ませていて、その後にエイミーを連れて来てくれた。
「急……いえ。監視の魔道具が出たんでしたっけ。
それでですか?」
「そ「なになになにが出たの!?帝国で新型が出たって聞いたんだけど!!」」
どこ情報だよエイミー。しかも新発売情報じゃねぇよ。
「ゲーリー2はまだ先だろ。その出たじゃなくて、仕掛けられてたって意味だよ。
女子寮に」
「うっわ引く……」
すごい勢いで目が覚めたね君。
両手で自分の二の腕を抱くようにして、身を震わせている。
ただこれ……ちょっと気になるんだよね。
ラース皇子たちが仕掛けたにしては、『早すぎる』。
少なくとも、実行犯はもっと早くから仕掛け始めてないと無理な量だった。
彼らが寮に入ったのは、つい先日の入学式の日からだ。
自分たちではもちろんのこと、仮に令嬢を使った……としてもだ。
いくらなんでも、無理がある。
強力な精神作用の魔導は、入学時の契約で禁じがかかってる。
弱い魔導で抜けられないとまでは、言えないが。
入学式の日にその存在に気付いた様子の彼が、そこまで周到にできるとは、ちょっと思えない。
となると、犯行を行った可能性が高いのは、むしろ在校生。
裏のつながりはともかく、実行犯はそうだろう。
しかしこの状況、犯人は野放しになってしまう、わけだが。
王国がこの休園を仕掛けたというなら、何かあるのだろう。
父上やお義父様は、まーた何考えてるんだか。
……先日のかーちゃんの対応を思えば。
相手は聖国……否。呪いの信奉者たち、だな。
ならば自然、これまで得た情報から、ある程度は推察できる。
ウィスタリアとリィンジアの騒ぎのとき、たまたま生徒会所属の上級生がいたこと。
魔道具が、リィンジアの部屋にばかり仕掛けられていたこと。
そして。
…………『聖女リィンジア』。
クレッセントが彼女を作り、送り出したことを知って。
自分たちが求める、本物の「呪いの」聖女かどうかを、確かめようとした。
決闘で彼女は、その身に備わる星の力を発揮している。
その後は我々が完全に確保しているから、手は出されていないわけだが。
測定会の感じだと……様子を伺われていた、というところか?
不穏過ぎる。
そのリィンジアは、優雅に食後のお茶に洒落込んでる……つもりのようだ。
音めっちゃ立ってるぞ君。淑女力はこれからに期待だな。
やっぱり作法は、彼女の前でまだ食べているウィスタリアに適わないな。
だが綺麗にしっかり食べてる。
食事に満足はしてもらえてるようで、何よりだ。
ウィスタリアは美しい食べ方なんだが、量がドン引きだ。ボクを見ているかのようだ。
早くはないが、ずっと食べ続けてる。
なおリィンジアも大層食べた。
ほんと、王国並みの農産物が算出する神器船でよかったよ……。
でなきゃ食費で破産するだろ、ここ。
「どうしたのかしら?ハイディ」
…………?
あ、今のリィンジアじゃねぇ、ウィスタリアだ!?
なんか声が違うと思ったら!
なんですごい落ち着いちゃってるんだよ。
淑女みはどこから拾って来た?
「君こそどうしたウィスタリア。
なんだ、もしかして前はおなか減ってたのか?」
ずいぶん淑女らしく振舞うようになって。別人か。
「……………………」
なんだねその長い沈黙は。
否定できないってところか?まぁわかるよ。
次の投稿に続きます。
#本話は計13回(26000字↑)の投稿です。




