14-5.同。~彼らを巡る企み。そしてその「王」~
~~~~忍は本当は東方の武らしいのだが、共和国には結構流れ着いてるそうな。敵に回られるのは、正直厄介だな。
気持ちとしてはわからんでもないがね、リコ。
君たちは儀礼や手続きを重んじるだろうに。
「どうやってそう結論したし。それはちゃんとやろうよ。
箒衆集めてやらないと、ダメだろ?確か」
前の時間で、リコの『目帚』の名をもらった時、そうだった。
そして説明された中に、名を預けた後で返してもらう時の作法もあった。
軽んじていいものではないだろうし、そこはちゃんとしないと。
「はい。それで、ですね。
イオの話を聞いた時から、もしかしてとは思っていたのですが。
これまでのお話を総合するに、やはり自動人形を確保しているのは。
古くに箒衆から分かれた一派だという、『星箒』を名乗る連中に、違いありません」
なんと嫌な話だ。元箒衆の分派ということはだ。
魔素制御は標準装備。場合によっては、ボク並みのことができるやつが、出てくる。
人の体内魔素を乱す、要所点きも警戒したほうがいい。
あの技に抵抗力があるのは、ボクとストック。あと……リコもいけるだろうか。
そしてメリアだな。あとダリア、ミスティもボクの魔導破壊が効かなかったし。
ギンナだって、知ってるし対策法を持ってる。さらに技も磨いたろうしな。
ビオラ様も対抗策を持ってる。
マドカとアリサは、その力が精霊と同質のものだから、効かないはず。
ウィスタリア、シフォリアはあの謎の返し技で対抗してきそうだし。
リィンジア、クエルはそもそも効くのか疑問だ。
…………おい、効かない奴らが多すぎるぞ。ボクの得意技、弱すぎでは??
まぁ今は助かる。ある程度は確認が必要だが、もしもの時に動いてもらえる子は多そうだ。
学園が休園になるなら……ミスティ、メリア、ギンナ、ベルねぇ以外は大丈夫だな。
あの四人は、共和国絡みで動いているところだ。
こちらが動くときには、すぐに行動を合わせづらいだろう。
しかしこれ……あれだな。
万全を期すなら、彼女たちにはもう一人二人つけて動いてもらったほうがいい。
抵抗力を持たない子が、点かれて無力化されてしまった場合の、対策だ。
後で相談するか。
フィラ確保にはボクやストックで動けばいいが、その先を考えなくては。
「わかった。だがリコ。
あまり奴らと暗闘を演じるな。
こちらの機動力が削られては、かなわん。
対抗できそうな者たちをまとめ上げておこう。
場合によっては、そこから幾人か連れ、共同で当たれ」
「はっ。……ああいえ、その話、契約した内容ではないのですが」
ボクが名を返してもらったならともかく、今はそうじゃないしね。
そういうとこちゃんとしてて、君はとても信用できる。
「どうせ邪魔されてるんだろ?手続きはまた踏むよ。
報酬は十分用意できる。パンドラ所属になった以上、経費でもいいぞ?」
そういえば、正式所属についてはまだ聞いてはいないが。
ビオラ様と面談した上でここにいるのだから、所属については大丈夫だろう。
手続きは事務方に回ってるはずだ。
リコとオリーブについては、必要なものは先日ビオラ様と話したときに、準備済みだしな。
…………まて。
今更気づいた。この休園の流れが、予定済みのものなら。
この二人は理由があって、ここに逃がされてる。
共和国の忍にして常任議員の、リコは分かる。
だがオリーブは変だ。ただの一般生徒に過ぎない。
その上で、イオがここに来たタイミングでの『休園』。
監視の魔道具が寮から出たのは、一昨日。
昨日の合同測定会の裏で、休園の手配を整えていた、として。
否……前から準備していたのなら、昨日の合同授業から中止にしたはずだ。
となると。
「イオ。君をウォン子爵令息の元から逃がしたのは。
学園長か、その関係者だな?」
イオは少しためらった後。
口の中の物を飲み下し。
お茶を飲んでから。
「はい。その通りです。
学園長が、その。精霊の加護をくださって」
やっぱり……というか、ご本人かよ。
学園長はオニキス領の元領主。
つまり、闇の精霊シェイドの使い手。
隠蔽魔法なら、サンドマンよりよっぽど得意だろう。
その上で研究者。未発表の魔法くらい、いくらでも持ってるはずだ。
そんな方が、自ら逃亡を手助けした、ということはだ。
おのれ学園長め!
実は人形絡みのこと、最初から知ってやがったな!?
一昨日の別れ際の「彼女たちをよろしく」に、イオも入ってただろう!!
「手回しのいい大人たちだこって」
最初から、リコ、オリーブ、イオをパンドラに預けるつもりだったのだ。
前者二名は、うちに正式に頼むだけでいい。
ただイオは事情が別。彼女を逃がすための機会を、伺っていたのだろう。
合同授業が、その予定された機会の一つだった。
だから、監視の魔道具が見つかっても、開催されたんだ。
そして無事三人……いや、五人がパンドラに来たから。
休園に、踏み切った。
ウィスタリアとリィンジアも、この流れに無関係ではあるまい。
…………そういやあの子たちは割とほっといてるが。大丈夫かな?
仕事をもう一つ済ませたら、ちょっとお話でもしておこう。
三人から聞きたい情報は、だいたい聞けたかな。
経緯もわかったし。人形の在処、状況も概ね把握。
あとは現地に行って確認するしかない。
イオの知っていること自体は、そう多くはないだろう。
何かあるなら、それは追って深く掘り下げて聞いた方がいいな。
念のため。
「オリーブ、他には何か?」
「あ、いえ……あります」
ふふん。いい目をするようになったな、オリーブ。
リコも。そっと寄り添いおって。
昨日ほんとに寝たんだろうな?君たち。すっかり仲良しじゃないか。
「言ってみ給え」
「私を連れて行ってください。
フィラは、私が起こします」
そうでなくってはな。
来てもらう気ではあったが。
そこに、オリーブ本人の強い意思があるかないかは、きっと結果に影響する。
向こうの家は、どうせ監視されてるだろうしな。
一波乱、あるだろう。
「リコ。オリーブを頼むよ」
「はっ。箒衆も導入いたします」
「費用は後で回してほしい。
それからイオ。君も連れて行くから」
「いいんですか!?私、戦う力とかも、ないですけど」
「ボクが守るんじゃ、不満か?」
彼女の深紅の目が、髪の奥から真っ直ぐにこちらを見る。
「いえ……いいえ。
あなたは私たちの王。
信じております」
……このいろいろわかってしまう一言、聞かなかったことにしたい。
「え。イオ。どういう、こと?」
げ。リコが聞いちゃったよ!?
イオは意外に、華やかな笑顔を見せて。
「言えません」
軽やかに、唄うように言った。
……………………。
「自分からは言えない」制約。
精霊の器を作れる能力。
そして『王様』。
本当にほんとうに、聞かなかったことに、したい。
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