14-4.同。~精霊人形を狙うもの~
~~~~上司殿もタフな方だが、それ昨日寝てないよね??
普段なら、キッチンに向かうところだが。
さすがにちょっと気になる。
「あー……」
ボクも話を聞きたいところ、だが。
ちらりとストックを見ると。
「オリーブ、代わってくれ。
ハイディに茶を出してあげてほしい」
「分かりました」
やっぱ君、ボクの心読んでるだろう?ストック。
イオは忙しそうだから、オリーブに情報を聞くのがよかろうとは思ったが。
大人しくイオの横、一つ席を空けたところに座る。
いや、すぐ隣だとこう、皿が多くてね……。
話しづらいと思って。
オリーブはストックと交代し、茶を淹れに行ったので。
その間に、イオに簡単に話をしておこうか。
「その様子だ、体調はもういいね?
ああ、頷くか首を振るだけでいい」
イオは頷いた。
「ん。ならいいよ。
いろいろ話は、ビオラ様としたと思うけど。
君の身柄は、このパンドラで預かる。
予後の観察も行うから、体に違和感を覚えたら言いなさい」
彼女は二度、首を縦に振った。
「あと、これだけ。
自動人形フィラは……もう作って、どこかにあるんだね?」
「ふぉふぇふぇふ!!」
慌てて喋るが、口の中のものは飛ばしたりしないのは、えらいな。
「ああいいから。オリーブには話したね?
あとはそっちから聞くよ。
しっかりお食べ」
イオはまた二回頷き、食事に戻っていった。
……みるみる大量な皿の上の食事が、消えていく。
ここまでの大食乙女は、さすがに見たことないな。
小柄なその体の、いったいどこにおさまってくんだね……。
オリーブがお茶を三つ持って戻ってきた。
ふふ。気の利く子だ。ちゃんと自分のも淹れて来た。
オーダーはお茶じゃなくて情報共有の方だと、理解しているのだろう。
「さて。イオは確認が必要な時だけ聞くから、そのまま食べてて。
返事はさっきと同じでいいし……ん。今はいいから。
で、オリーブ。イオから聞いた話を、聞かせてほしいんだ」
「あ、はい。えっと……」
「そうだな。人形フィラが現存するというのは、わかった。
その子の確保が必須だ。
そこの情報が一番肝心で、あとの経緯は追って聞くから。
教えてほしい」
オリーブは考えを整理するように、少し目を瞑り。
「フィラは、イオさんが共和国で元住んでいた家に、そのままあるそうです」
そう来たか。
イオが所在を知ってそうなところから、想像はついたが。
「そりゃあ、リコが心残りな仕事だったというわけだ。
調べたときに違和感はあったが、見つけられなかったのだな。
認識阻害かな?」
リコは、脳の魔素制御を得意とする。
ただ、ボクみたいに魔素を体外に飛ばせるわけじゃない。
多少センサーとしては優秀だとしても、隠れたものを見つけ出せるほどでは、ないのだ。
魔導で隠されていたら、まず見つけられない。
ご禁制の品だが……一度起動したら、かなり長い時間の隠ぺいを施す魔道具が、ある。
エイミー先生の、ありがたい魔道具蘊蓄講義で聞いた。
別に授業というわけではなく、パンドラでの雑談の流れでそうなったんだが。
「だけ、ではないみたいですが。
そこはイオさんでも、わからないみたいで」
何か、そのイオが首を縦にぶんぶん振ってる。
なるほど。
「封印処置をして、あそこにそのまま隠してる。
イオが知ってるのはそれだけ、と」
そんなに首振らなくても。食事に集中してええんやで?
「精霊をほんとに宿しているなら、原則不壊だ。
壊せないし、活用もできないなら、そりゃ置いとくしかない。
だがほかに見つかってはまずいし……となると、いかんな」
「え、何か……」
「ああいや、人形絡みというよりはね。
敵が権力者じゃない、とみられる点だよ。
地位があれば、人形一つくらい隠しておけるだろうに」
最悪、根無し草だ。国元に家の一つも持てないような。
信用もない。拠点もない。
その像は、宗教家……呪いを信奉する、一種狂信的な背景と、重なる。
だがこれ、クレッセントとは敵対的協力関係だな?
奴らと信用が結びついてるなら、それこそ神器船クレッセントに運べばいいだけだ。
クレッセント側だって、聞いたら黙ってない話だろう。
となるとそもそも、話してない。
その謎の連中と、クレッセント。関係性は、かなり悪いな。
ひょっとすると……。
おや、ちょうどいいところに。
追加の皿を、ストックではなくリコが持ってきた。
「リコ。忍、あるいはそれに近い集団で。
聖女リィンジアか、呪い、『いと長く流れしもの』を信奉し。
拠点を持たない、流浪の民のような者たちに心当たりは…………あるみたいだな」
お顔が引き攣ってらっしゃる。
「やはり、すぐにでも名を奏上したく思います……」
なんでや。
次投稿をもって、本話は完了です。




