14-3.同。~休暇の急報、来る~
~~~~信じる、なんて言わない。君の視線は、ボクのものだ。必ず勝ち取る。待ってろ。
翌日。
まだ暗い時刻から、動き出す。
寝ぼけ気味のストックと、支度し合って。
研究情報は公開原則なパンドラだが、多少の機密はある。
ストックは、王国にいくつかあるロイド家の屋敷に帰ればお嬢様だが。
ここにはあんまり使用人を入れるわけにもいかないので、貴族令嬢も自分で生活する。
お世話し合ってるのは、ただの趣味だ。
ボクは、ストックを世話すること自体が好きで。
ストックは、ボクを着飾ることを好む。
……さした見てくれには、ならないと思うのだが。
ストック好みにされてるのだから、悪い気はしない。
とはいえ、今日も弄れるところは多くない。制服着るからね。
朝は忙しいから、行くまでは平民向けのデザインの服を、ずぼっと着て働くけど。
王国は綿や麻が引くほど生産されており、服飾は工業化が進んでいる。
王国所縁のパンドラでも、服は安く手に入りやすい。
前の時間では、この辺りも大変だったんだよな……。
クレッセントは王国所属の船じゃないし、布は他の国じゃそこまで入手容易じゃない。
古びた布をリメイクして、なんとか着ていたものだ。
考え事をしながら、お互いの髪を整えて。
まずは一路、食堂へ。部屋から出て、廊下を往く。
何をするにも、朝飯が片付かんとなぁ。
人数が急に四人ほど増えたし。
ああ、イオの様子も見に行きたいところだ。
早めに済ませておかないと。
ようやく眠気がとれて、隣を歩くストックは……見たところ普通だ。
そも、この子が眠そうという時点で異常だが。
肉体的な疲労は昨日とった。ストレスも癒せた、と思う。
となると、悩み事、だな。
…………そこ、解決してあげたいけど。
今回に限っては、君から言い出さないのが悪いということで。
もちろん、ちゃんと対処はするよ?でも今しばし、悶えるがいい。
いつだって、ボクらは一緒だ。
さみしいのも。
悩んじゃうのも。
幸せになるのだって。
「おや、叔母上?」
ん?ほんとだ。ビオラ様が急ぎ足でやってくる。
「おはよう二人とも。ちょっと緊急通報が来たから、私すぐに出るわ」
「通報?どこからです?」
「学園よ。内容は……しばし休園の連絡」
「は?」
む。イオ絡み、じゃないなこれ。
たぶん、先にリィンジアやウィスタリアの寮の部屋で見つかった、監視系魔道具――――
「全寮……いや、敷地全検査ですか。
新王都スピリッティアの学園に、素早くあれだけ仕掛けられた以上。
場合によっては、王都全体でも少し警戒を強めたほうがいい」
「あたり」
「ですが」
ではなく。それを建前にした、何か。
「展開が早すぎる。
これ、予定されてたでしょう?ビオラ様」
「ふふ。私は知らされてないわよ?」
「でも知ってはいると。
王都か王家側の動きですか」
上司殿が薄く笑っておられる。
言わないってことは、情報源はスノーだな。
あれ、となるとこれ……対クレッセント、および神主絡みか。
この人が行ってくるのは、ある種の手続きだな。
パンドラも噛んで、我々で情報共有。対処を始めるためだろう。
「相変わらず、そつなく仕事される上司で安心です」
「部下に後を任せられるし、私の動きを適切に評価してくれるからよ。
委細、あなたに頼むから。ハイディ」
そういうところだぞ所長。
「はい。ああ――ただ、この流れで野暮をいいますが。
もしイオが起きて、人形確保ができるようなら、それを優先します」
「構わないわ。それも重要事項だと認識しました。
資料を上げて頂戴」
「ええ。時間をとって、今日のうちに」
僅かに見上げるボクと、ビオラ様の視線が少し、交錯し。
少し頷き合って。
彼女は、パンドラの転送路へ。
ボクは……すぐそこの、戦場の扉を開いた。
よし。今日は久々に米食でそろえて――――
「ふぉうふぁま!!」
そこには元気にパンや肉や握り飯や麺や甘味を頬張る、イオ嬢の姿が!
君も欠食令嬢かよ!?
身の上が身の上だから、礼については問わないが……。
すごい食べっぷりだな。
「ご、ごめんなさいハイディさん。勝手にキッチン使って……」
昨日良い啖呵を切ったオリーブが、慌しく配膳している。
ということは、作ってるのはリコか?
キッチンは、食堂入ってすぐじゃ見えないのよな。だが、誰か調理してるのは分かる。
そういやあの子、牛鳥料亭の娘だもんな。
娘ってか、女将みたいな感じだったが。
「いいんだよ。ちなみに誰に許可をもらった?」
「私。じゃ、行ってくるから」
もう行ったと思った上司の声が、後ろから。
振り返ると、にやりとしてやがる。
そして今度こそ行ってしまった。
……さてはこれ、起きたの知ってるだけじゃなく、イオに話も聞いたな?
ほんと、仕事が早くて助かるな。
いやまって。まだ夜も明けない時間なのに、君たち活動するの早すぎない??
ボクも人のこと言えないけど、どうなってるのさ。
次の投稿に続きます。




