14.~1の月6の日、パンドラ。新たなクルーを迎える。
――――何か急に増えたな。いや増えすぎじゃろ???
夜半。
私室の椅子で、ぐったりしながら思い返す。
イオの手術は無事、終わった。
魔導での縫合も済んで、体力も直に戻る。
ボクが手伝ったのは、予定通り魔結晶の結合解除だけ。
夜のうちには、体力気力とも、問題なくなるそうな。
治癒の魔導すごい。
明日には動けるのだが――――学園には戻せないなぁ。
ここが頭の痛いところだ。
彼女を戻せないということは、ボクらも迂闊には出られない。
まぁ一方で、そろっていなくなれば、それはそれで不味いところ。
……堂々と出てって、しらばっくれるのがいいかな。
気づかれているなら、今晩中に動きがあるだろうし。
まぁあったとしても、物理的にパンドラまでくるのは、難しかろうが。
今この船は、王国の北東くらいの魔境を進んでる。
どの国から来るにしても、少々距離がある。
学園に戻せない、となると。
イオ向けのフォローとしてはまぁ、勉強を見てやるとするか。
多少のことは教えてあげられる。
本当はリコ、オリーブ。
それからウィスタリアとリィンジア向けに、デモンストレーションする予定だったんだけど。
この状況じゃ、ちょっと難しいな。
そこは後日落ち着いてからなぁ。
「悩み事か?ハイディ」
髪を拭きながら、ストックが一人、風呂から上がってきた。
いや……別に毎日一緒に入ってるわけでもないし、いちゃついてるわけでもないんだよ。
幸福ってのも、あれはあれで刺激。ストレスなんだ。
過ぎたれば身を亡ぼす。
脳内麻薬っていうだろ?あれが出る。そして、結構危ないんだ。
ボクはかつて、出し過ぎて危うかったことがある。
前の時間で、ちょっと忙しすぎた時期があってだね……。
それを何とかするためにこう、脳を活性化してやったんだが。
倒れはしなかったが、しばらく仕事量を減らす羽目になった。
ストックと毎日イチャイチャしてたら、ボクは死ぬ。比喩ではなく。
それで悩み事、だが。
「なんだよ。ボクが何考えてるかくらい、分かるんじゃない?君」
ストックとも、出逢ってから、もうそれなりに時間が経っている。
時間を戻る前は、だいたい二・三年の付き合いってとこだ。
そして戻ってから、もう八年が過ぎた。
こいつは対ボクなら、だいたいのことは分かってる感がある。
一方、ボクが絡まないと頭や勘が働いてないことが……結構ある。
最近、特にそうかもしれない。
ボク自身に関わる重大事が、減ったせいだと思う。
ボクと一緒に暮らすために、聖域ドーンの神職への推挙を取って来たり。
ボクと婚約するために、聖域一つをぽーんと作ったり。
さすがにこう……今はそこまでのことは、してないと思うんだよ。
最近は外出が多くて、たぶん魔境の主・邪魔を倒しまわってるんだろうけど。
あれは確かに、ボクらとしても懸念事項ではあるん……のだけど。
やるとすればどっちかっていうと、娘のためって向きが大きい。
奴らを倒しきることで、事件再現の可能性を減らし。
未来の破滅再現を抑える。
ボクとしてもそうなったほうが、当然にありがたくはあるんだけど。
こう……なんていうかな。それはいつもの、ストックらしくない、というか。
ボクにだけ向いてる、この子らしくない、というか……。
他に考えていることが、ある、ような。
それもたぶん、目論見というより。悩み。
察しはまぁ、ついているのだけど。なんで言ってはくれないのかねぇ。
「ふふ。ずいぶんと人のために腐心してるな、とは感じてる。
それも会ったばかりの、ウィスタリアやリィンジア。
以前からの知り合いとはいえ、オリーブとリコ。
それにイオ嬢、だったか」
「なんだ、やきもちか?珍しいじゃないか」
「違うさ。お前がいつも私を見ていることを、疑ったことはないよ」
ボクは今疑いましたすみません。
「構わんよ。
確かに最近私は、少々留守が多いからな」
ボク何も言わんかったやろ心読むなや。
ストックが……椅子に腰かけてるボクの横から、近づいて。
しっとりとしたその身を、寄せてくる。
…………おい。髪、タオルで巻こうよ。めっちゃ濡れてるやんけ。
お世話しようと、椅子から立ち上がろうとしたら。
その前に、柔らかく押さえ込まれた。
ちょ、さりげなく両手首握られてる!?逃がさない構えかっ。
ん……濡れた髪が、頬に、首筋に、かかる。
ちょっとくすぐったい。
「ごめん」
…………それは何に、謝ったの?ストック。
次の投稿に続きます。
#本話は計5回(約10000字)の投稿です。




