13-8.同。~陽光の来歴~
~~~~まずは当人の無事。そして人形の確保。急がねば。
オリーブとリコにも、手伝ってもらって。
イオの体の中にある、いくつかの道具を慎重に無効化した後。
続きは、パンドラで作業を行うことにした。
あとはだいたい、切除するだけ、なんだが。
そもボクは医師免許持ってないので、執刀すると捕まる。
場合によってはそれを覚悟で……とも思ったが。
スノーの報せが、間に合ってくれた。
我が娘、シフォリアだ。何事もないうちに、異空間からこんにちわしてきた。
そうしてリコの部屋から、イオをパンドラに運び込んだ。
転送路を使ったわけでもないので、これで足取りは追えなくなる。
密室からの追跡不能の移動とか。ミステリー殺しだな。
この隙にイオの体を何とかし。
事情諸々には、ちょっと皆に手を貸してもらおう。
と思って。とりあえずスノーを連れ、ビオラ様に事情を説明している。
まだ、体に様々な機器を埋め込まれ、言動を縛られて監視されていた子を連れて来た、というくらいだが。
同席しているのは、関係があるオリーブ。同国人のリコ。
そしてストック。
イオ本人については、医師免許持ちが何人か、状態の確認にあたってる。
「事情は分かったけど。
ハイディがそこまで喫緊だと思った理由は、何?」
「彼女の作った人形が、つまりビリオンと同じものだからです」
「精霊を宿した、ということ?」
そう。先のとおり、自動人形フィラは、精霊を宿した人形だったと考えれば。
様々な状況と合致する。
ただ、そのこと自体が問題じゃないんだよね……。
ボク個人としては、是非にイオ嬢も人形フィラもお招きしたいけど。
「はい。前の時間の時系列を踏まえるに、すでに人形はできているはず。
この現物が、どこにあるのかはわかりませんが。
問題は製作者以外に、それを知っている者がいるようだ、ということ」
「でなきゃ、彼女に変な仕掛けをしない、か」
「そうです。
そしてオリーブが前の時間で体験したことが、これに重なる。
おそらくは、同じ勢力です。
オリーブは、そいつらが何者かは知ってるの?」
「いえ、その。聖教の関係者かな、くらいしか」
聖国なんだから当然みな聖教徒だが、そうではなく。
司教等、聖教中枢に身を置くいずれかではないか、ということか。
となると、オリーブが浚われた先はやはり聖都かな?
あの国の宗教家は、地方には住まないからね。
「宗教家なら、だいぶ綺麗になったんじゃなかったか?」
「ストック、呪いに関係してなかったら生きてるはずだよ。
さすがに全員じゃなかろ。
楽観はいかん」
宗教家ではない貴族……法術師の家系も、油断ならないと見るべきだ。
イオを確保していたウォン家は、貴族であって、宗教家ではない。
だが先日の大規模な呪い返しで、だいぶ少なくなったはずだし。
その点はマシだと考えるべきかね。
「実はね。ミスティやギンナから、ちょっと相談を受けてるの。
共和国の調略、思ったようにいかないんだって。
諜報とも違う、別の勢力の関与があるようでね。
協力者が突然手のひらを返したり、情報が寸断されたりしているようなの」
おおごとじゃねーかビオラ様よう。
というか、だからウィスタリアとリィンジアを聖女に担ぐなんて、派手な話になってるのか。
小技だと、ちょっと限界が見えてきているのだろう。
「その勢力が聖国の宗教関係のいずれか、ということですか?叔母上」
「元々そうだと睨んでいたのだけど。
妙な暗躍がある以上、警戒は必要ね。
とはいえ、ハイディの話とはちょっとつながらないけど」
「でもこう……引っかかるんですね?ビオラ様」
「そ。たぶん、同じ勢力で。その人形絡みは連中の中核だと思うわよ。
根拠ないけど」
先日の思い付きが、少し繋がってくる。
聖国が本当は何を信仰しているのか?という話だ。
聖女ウィスタリアだとすると、いろいろとおかしな点がある。
そして、リィンジアが最期に取り込まれた、という話からするに。
奴らが信じているのは。
もしかすると、そも聖女ですらなく。
「……呪いを信奉してるから、では」
呪いの根源と言われる、魔物がいる。
なおクストの根は、ボクに呪いをかけていた主ではあるが、呪い全体の祖ではない。
呪詛そのもの、みたいなやつだっただけ。あれは魔物ですらなかった。
呪いの始まりとなった何ものかが、他にいて。
それが聖女派聖教の経典が仄かに示す、『いと長く流れしもの』。
魔物も人も消し去る、記録から自らを消去する謎の魔物。
「ん?その話はこないだ聞いたけど……。
だとして、どうして精霊の人形に執着するの?」
……そこは、ボクもわからなかったが。
ビオラ様に言われて、閃いた。
「……ああ。やっとわかった。
誰がビリオンを作ったのか」
ビオラ様の眉根が寄る。
「……そういうこと」
「二人で納得しないでほしいんだが」
ストックが珍しくついてこない。
あれか、ボク絡みじゃないからか。
「ストック。呪いを信奉する連中にとって、精霊は敵だ。
ここは認識合ってるか?」
「ん。まぁそうだろうな」
ん。結構。
「では、アウラは何者かによって、サンライトビリオンに封じ込められたわけだが。
結果、どうなった?」
「そりゃ精霊アウラの魔法は使えなく……おい。
他の精霊種すべても、そうしようという魂胆か?」
なんとも壮大な計画だよな。
そもそもサンライトビリオンは、ボクらが聖国から乗った小型神器船にあった。
あれからして、おかしいんだよ。ただの民間の魔境渡航船だった、はずなのに。
しかも聖国の徴税隊が居合わせた。
もし、あのクルマをどこかで研究するため、秘密裏に運ぶ最中だったのなら。
徴税隊の奴らの、おかしな行動も全部結びつく。
自爆覚悟での、口封じだ。
あのクルマの存在は、絶対に漏れてはいけなかったんだろう。
非常に高い武力を持つエリアル様がいたから、その思惑通りにならなかっただけだ。
そして数年たって、王国でのシルバ領新生。アウラの復活。
そりゃ連中は蠢動して当然よな……。
その上でビリオンも、一緒にあったダークネスマイナも我々が確保済み。
なら後の手は。
「ビリオンと同等の魔石は、出土していない。
だが精霊人形が自前で作れるようになれば、いずれ同じことができるだろう」
彼女の人形を使い、精霊種を丸ごと封じ込め。その精霊魔法を使えなくする。
八属性すべてでそれを行われたら、王国は力を大きく失う。
…………まぁ、もう魔法に頼らない高度戦力は発明済だから、無駄なあがきだが。
だからこそ焦っている、ともとれるか?
宗教家が壊滅した事態を踏まえれば、そいつらはこれから大きく蠢きだすと考えがほうがいいだろう。
勘だが。
その影には、神主率いる神器船クレッセントも、あるのだろうな。
次投稿をもって、本話は完了です。




