13-6.同。~過去が人形を通じて、今に繋がる~
~~~~言っちゃなんだが、時を遡ったこと自体が、君に何かあるのを示している。
もう一度そっと袖口を咥え、脳の魔素と呪いを起こす。
密かに腕輪も回し、魔素を拡散。計測を開始。
……………………今のところ、反応はないな。
この子におかしな魔の手は、伸びていない。
「大丈夫だ。今生でそれが話されても、影響はない。
前の時は、喋ると伝わる呪いでもかけられてたんじゃないか?」
「!そ、そうです。
えっと、今は、大丈夫、なんでしょうか……?」
うげぇ、ほんとにそうだったのかよ……。
相当なことに、巻き込まれたと見える。
「聖国はそのような呪いを用いるとは、聞いていますが。
本当にオリーブにも?ハイディ様」
落ち着けいきり立つなリコ座ってろ。
「今は何の呪いもないよ。パンドラ謹製の計測法だ。間違いない。
魔導、魔道具もない。大丈夫だ、オリーブ」
念のため探っていくが、さすがリコの部屋。
変なものは仕掛けられてなさそうだ。
隣のオリーブの部屋も、同様。
…………まさか君がチェックしたんじゃあるまいな、リコ。
「その……じゃあ。
フィラって子を、起こしたんです」
ボクは、息を、飲んだ。
こんなところで、つながるなんて。
その名はかつて読んだ記録に、確かにあった。
「共和国で、技師をしてたお父さ……父の手伝いをしてて。
動かない、魔道具と思しき人形があるって話を、聞いて。
父が動かそうとしても、動かなくて」
……人形を起こしたのは、魔道具技師となっていたが。
その方の名は、記されていなかった。
様々なことが、隠蔽されていたのか。
「偉い人?に、怒られてて。
でも父は、もう動いてるから動かない、って言ってて」
すでに起動状態だったが、動かない?
まさか。
単純な機構だったという、その人形。
魔導の使用には人の複雑性が必要だという、理論。
……動いたら壊れるから、眠ったふりをしていた、ということか?
「私が、なんとかしなきゃって、話しかけたら。
その、声が、して」
その話が。
自分の開発した技術、彼女がさせられていたことと――繋がる。
「精霊の、囁きか……」
かつての時間で作られた、自動人形・フィラ。
彼女には、何らかの精霊が宿っていた。
そう考えると、辻褄が合う。
そして、だから「人に精霊を宿させる」なんて実験用に、浚われたんだ。
おそらく、すでに亡くなっている人形制作者の……代替を期待されて。
「そう、なんですかね……?
他の人には、聞こえなかったみたいで。
それで、私がいろいろ、お話して」
オリーブは過魔力化症。この様子だと、精霊適性も高い。
過魔力化症の一般的な症例だと、その魔力値は高位の精霊魔法使い並みに達する。
つまり……精霊と契約している、王国貴族に匹敵する。
そして、彼女の「話」の内容と、その末路は。想像がつく。
資料の残す、フィラを起動した「魔道具技師」が、オリーブのことなら。
「…………答えたんだな?彼女を作った主人が、どうなったか」
「っ。はい」
……なんてこった。
「経緯がよくわかりませんが……」
「リコ。前の時間では、自分の意思で動いたという、自動人形があったんだ。
ただ動いたといっても、起動後すぐ、自害したと記録されている」
「!それが、オリーブの起こした、人形?」
「ちなみに作者の名は――――」
告げようとしたその時。
何か俄かに、外が騒がしくなった。
魔素を広げ、表の音を拾う。
『こ、ここに入るのは見たんです!
おうさ……ハイディさんに会わせてください!
はやく、早くしないと……』
…………次々と舞い込んでくるなぁ。
おそらくはスノーの前でそういうってことは。
ボクのこと、なんだろうけど……。
王様って、どういうことだろうなぁ。
「その作者が来たよ。
ちょっと出迎えるから」
「「え?」」
もう一人の気配は……ない。
はやく、というのは。そういうことなのだろう。
危険を承知で、なんとか撒いてきたのだ。
彼女の計測結果は、もう出ている。
いくつか、悪辣な処置が施されていた。
ほぼ、隷属させられていたといっていい。
ならせっかくの機会だ。
今、やってしまおう。
大仕事になるが、リコもいるし、外には相棒たちもいる。
オリーブもこの手のに経験があるというから、頼らせてもらうかな。
まずは身柄の確保と、隠蔽だ。
ボクは深く息をし、紫の魔素で部屋中を濃厚に満たす。
俄かに、雷光が走り始める。
後ろのドアをあけて。
「――――ハイディさん!」
扉の前に、彼女がいる。
一瞬、その瞳の紅と視線が交わる。
何か伝わった気がして……彼女が、頷いた。
躊躇いなく、間合いを詰め。
全霊を込め、72の要所を突いた。
次の投稿に続きます。




