13-3.同。~迎えに行ったら修羅場ってる~
~~~~あまり目にしないが、メリアは結構、ストックに甘い。
それからしばらく。
我々は、興奮冷めやらぬ様子だった、リコとオリーブを下宿に返したわけだが。
着替えなどを済ませてから、改めて彼女たちの迎えに向かっている。
付き添いは、ストック、メリア、スノーだ。
ギンナはウィスタリアとリィンジアを船に送りつつ、その後はまた共和国。
頼んだこともあるし、例のメザイヤ・タールのこともあるようだ。
ベルねぇの親戚の、タール家とお話合いかな?
クレッセントとの結びつきが考えられるし、切り離せるならそれに越したことはない。
高等部はまだ授業があり、教師陣はお仕事中。
皆、そちらに戻っていった。
で。迎えはボクとストックで……ともちょっと思ったんだが。
こう彼女、ずっとぽーっとしてて、まずそうなので。
改めて、メリアとスノーに声をかけた。
調子に乗るからだ、あほの子め。
五分間、しっかり愛でてやった。
ほんとストックは、ボクが好きだよな……。
なんでこんなに好かれてるんだか。
いやそりゃ、好きなとこも知ってるし、何ならしっかり好かれるように振舞ってはいる。
淑やかに、しかし苛烈に生きる様を、彼女がとても好んでいるのは分かっているし。
どういうわけかボクの腰回りがとてもお好きなのも、よく知ってる。
そうして何年も……もう八年くらいは一緒にいるわけで、その気持ちに疑いはないのだけど。
そもそも何でここまで気に入ったのか?って部分は、あんまり掘り下げて聞いてないんだよな……。
前の時間で、彼女と王都で激突した際。ボクはこれを制し、ストックを押し留めた。
己の命が燃え尽きようとも、自分を頼ってくれた弱き人々のためにあろうとした彼女は、止まった。
後に、その時救われたのだ、と教えてくれた。
ただ……ボクも数年後、似たような体験をするわけだが。
あれは恋愛に結び付くものとは、少々違うように思う。
学園に入って早々目をつけられてはいたし、多少は好まれていたのだろうけれども。
未練たっぷりに時間を遡り、周りを巻き込んで聖国に浚われていたボクを救おうとし。
再会した夜に、思わず気持ちを白状する……こんな前のめりな感情だったとは、思えない。
こう、ストックの生の感情と、ボクの知る彼女の経験に、差があるというか。
ストックは、前の時間にボクがコンクパールで結晶になってから、七年生きている。
その間にボクの体を結晶から蘇らせたが、現れたのはボク……ハイディではなく、ウィスタリアだった。
神器・聖人の作成には三年を要したそうだから。
二人が一緒だったのは四年ほど。
だがどうも、本気でウィスタリアには、何の興味もないようだ。
その間に、ボクへの気持ちが醸造する要素なんて、ないと思うのだがなぁ。
考えられるところが一つあるけど……どうしようかね。
今度、さらっと聞いてみるか。
考え事をしているうちに、学園北の門まで着いた。
四人、北門を抜けて出る。
出るときに身分証を、門番の方にお見せして。
初等部一年は、下宿に住む子以外は、ここ行き来できないからね。
ボクは教授身分なのでおっけー。あとの三人を引率する身ということだ。
便利なもんだな。取っといてよかった。
学園下宿町は、学園の北側に扇状に広がっている。
外壁に囲まれており、下宿町から王都へ出ることはできない。
通用門くらいはあるがね。学生は通してもらえない。
町という名にふさわしく、下宿が並ぶだけではなく、各種商店もある。
学生向けの、安いけど利用しやすい店が多い。
貴族の子弟向けのものを扱ってるところも、あったはず。
確か、貴族向けのスペースを用意した飲食店も何件かあったと思う。
基本、下宿は平民が利用するものだが、貴族が絶対来ないわけではない。
寮は割とお高めなので、経済的な事情でここから通う子。
そして、単に遊びに来る子。
外国人の場合、基本的に王都には出られないからね。
そういう者たちや、彼らと縁のある王国人は、ここに遊びに来る。
整備された石畳の道を、四人でてくてく進む。
エイミーに聞いた住所は、そう遠いところではない。
というか、この町では比較的いいとこだったはず。
まぁリコはお金あるはずだし。
オリーブの父は、パンドラが今も支援しているカワーク社の社長。
そりゃいいとこには住める。
むしろ、なぜリコは下宿なんだ。
ドーンの巫女を目指してる子って設定に、合わせてるのか?
「ここだったかの?」
「ん。合ってるよ」
二階建てのアパートメント。
レンガ造りで、しっかりした建物だ。
安いとこだと、木造なんだよね。
外に階段がついていて……確か二人とも二階。
階段上がってすぐの部屋の、お隣同士。
下宿は仲介が手配するが、科が同じだと配慮されるらしい。
四人、階段を登り……あれ?
「部屋の中から、何か音がするね……」
上の角部屋、つまりリコの部屋だが。
「ほんとだわ……って姉上、動くの早いわね。
ストック!?」
慎重にさささっと上がろうとしたボクの横を――ストックが駆け抜けた。
「誰か取っ組み合ってる。突入する」
は?
いやいやまってまってだとしても――
「……鍵が開いてる。後詰めを頼む」
不穏な気配はまったくないんだけど。
ストックがドアを開けて、中に入っちゃった。
「二人、とも……」
念のためボクは一瞬瞠目、袖を咥えて息をし、魔素を散らせながら階段を登る。
そして部屋の前までささっと移動し、開いたドアから中を除く。
そう広くない部屋。ドアからほぼ全貌が見える。
意外にファンシーな配色のものが好きだな?リコ。
生活感があり、飾りではなくそういうのが好みだとわかる。
君が押し倒しているのが、隣の部屋にいるはずのオリーブだという点は
不幸中の幸いだったな。
次の投稿に続きます。




