8-3.同。~情報共有、と見せかけて。趣味の話をする~
~~~~淑女たるもの、肌は見せない。しかしそれはそれとして、お世話はしたかった。君の髪、綺麗だし。
着ていたものは洗濯機に放り込んで、回す。
二人分だから少ないが、明日出るのだから綺麗にしておいた方がいい。
洗濯から乾燥までやってくれるやつみたいだ。楽でいい……いや高いやつ使ってんな??
風呂は確かに熱かったが、ボクはあんくらいが好みだな。
……もしかして、それを覚えててそうしてくれたんだろうか。あり得る。
汗と水気を拭きとり、脱衣所に持ち込んでた服に着替え部屋に戻る。
テーブルの上に、5本ほど中身の入ったボトルが追加されている。
ストックは一本をちびちび飲みながら、一人用ソファーに座ってだらけていた。
まだ髪濡れてるんだから、その状態でもたれかかるんじゃありません。
しょうのない令嬢め。タオルを追加で出し、彼女の髪を巻き込むように、丁寧に頭に巻く。
温風器が脱衣所にあったから、あとでそれも使ってあげよう。
ボトル買いに行ったときにまとったものだろう、薄手の上着が適当にベッドに放り投げられてる。
明日も着るだろうし、衣掛けにかけておく。
さて、あとは洗濯の終わりを待つ間、ボクもだらけるとしようか。
ボトルを一本開けて、もう一つソファーをテーブルのそばに引っ張ってきて座る。
空調もしっかり効いてる。外暑いからありがたい。でも高級宿過ぎませんかね?
魔道具はものにもよるが、普及品は充填式。ここなら、宿なりギルドの人なりが、あらかじめ魔力を補充してくれている。
我ら魔力なしでも使えて、楽でいい。
空調もあって、風呂も沸いて、洗濯もできて、髪も乾かせて、ついでに炭酸水も作れるんだから、いい時代だ。
ボクが前に泊ってたような宿は、やっぱりどう思い出してもこんな便利じゃなかったよ。
特に王国外はひどいもんだったなぁ。
……なるほど。いい時代じゃなくて、いい国か。
ボトルの中身をぐびぐび飲む。炭酸が効くわぁ。
「ハイディ」
「ん。なに?」
「……この世界は、ゲームとやらの、中なのか?」
そう来たか。
しかしやっぱりこいつ、青い結晶に知識を刷り込まれてたか。
ボクと同じだな。
あの結晶たちも、謎の代物だよな……。
「それで合ってるかもしれないけど、ボクの理解はちょっと違うよ。
この世界の情報というか伝説というか、そういうものが地球とやらに伝わって。
それをもとにゲームを作ったと考えてる。だいぶ違うところがあるから」
「ん……そういえば、ラリーアラウンドやクレッセントはないな。
この辺りが理由か?」
「うん。あと、ボクらの迎えた結末が、あのゲームにはないらしい。
恋愛を主軸にした乙女ゲーってジャンルらしいから、それにそぐわないものは表現してないんじゃない?」
「……十分血みどろだが」
RPG?とやらだからね。眷属は狩ったりするんだよ。
あとストーリー的に、飢饉やら革命やらが入るし。
「文句をつけるなら、そもそも主人公が必ず倒されるあたりじゃないか?」
「悪役令嬢も死んでるんだが」
「問題しかないね」
「まったくだ」
少し、笑い合う。
「話したかったのって、これの確認?」
「ん?んー、んー……」
どうした、珍しく歯切れが悪いな。
「……ハイディ、前の時に恋人がいたのか?」
なぜそう……いや、ゲームを踏まえてそういっているのか。
あれ、一応恋愛ゲームだものな。
恋人ではないが、甘い関係にはなるみたいだし。
なんだ、やきもちか何かで、もやもやしてんのか?
かわいいやつめ。
あれか。
ミスティみたいな、ボクがクレッセント時代に関係があった人が出て来て、気になり始めたのか。
君はクレッセントにはいなかったわけで、ボクの交友関係には明るくないからな。
「んにゃ?キラキラしたのがいたけど、好みじゃなくてね。
というか、仕事でそれどころじゃなかったし、ストックといる方が楽しかったよ」
残念……残念?ながら、そういう浮いた話はまったくなかった。
ボクが興味なくって、逃げ回っていたとも言う。
いや、美形に目が行くくらいには、ボクはその辺普通だと思うよ?
前も言及した通り、異性愛者……ストレートだろう。
クレッセントや学園でかかわった人たちは、悪い人たちでもなかったとは思う。うん。
魅力もあったんじゃないかな?たぶん。
ただボクが、致命的に苦手なんだよね。
「キラキラ……ああ、王子たちとか、か。
学園でも、割と仲はよさそうだったが?」
「そうかな?まぁ、彼らに限らず魅力のある男性は、いたと思うよ?
でもこう、ボクはああいうのがダメみたいでね……」
「はぁ。私はよくわからなかったが、それでもああいうのがモテる方なんだろう?
何がダメだったんだ?」
「何といったもんかなぁ。男性らしい魅力っての?そういうの出されるとダメみたいで。
俺についてこいとか、守ってやるとか。
こう……ふとしたときに弱みをみせるとか、繊細なところがあるとか。
そういうのにまったくときめかないんだよね……血の気が引くほど冷める」
「お、おう」
ああいうのをやられると、お前らいいから仕事しろって、現実のささやきがめっちゃ聞こえてくる。
当時のボクは、完全にワーカーホリックだった。
男らしさに付き合ってあげられる、女らしさというか、乙女力が湧いてこない。
乙女ゲーに全力で逆らう存在で、神様方には非常に申し訳ない。
こんなやつが主人公じゃ、さぞ萌えなかったろう。
だから自分の恋愛は成就せず、人に取られる結末なんだろうか?
興味ないから、ボクとしちゃあどうでもいいが。
というかそこ、ボクの友達らも彼らには興味ない感じだったな?
男性に興味がないわけではない。その好みで話が盛り上がったことも多々ある。
だが浮いた話は誰にもなかった。
情勢もあるが……キリエやカレンは、そういや在学中でも婚約者の話の一つもなかったな。
ミスティなんか、あの年で完全に独り身だった。
恋愛ゲームはどこいっちゃったんだ、これ。誰も恋愛しねぇ。
次の投稿に続きます。




