13.王立魔導学園~下宿町アパートメント。因縁を振り切って。
――――精霊を軸に……事態が、少しずつ繋がっていく。
控室に戻ってきた。
起動状態だった赤い腕輪を、回して戻す。
「やっぱり種があったか、ハイディ」
控室の外側出入口に、ボクの大事な人の姿があった。
「ストック。その言い方は人聞きが悪いね」
腕輪を右手首にはめつつ、にやりと笑う。
彼女にも同じように笑い返された。
「魔素を魔力にする。この原理は解明できていない。
だがそれを可能にする、人体に並ぶ不思議なものを、我々は知っている」
「神器……まさか、完成してるのか!『ナノマシン』!」
「違う。『ピコマシン』だ」
「……ぴこ??」
ストックがとても不思議そうな顔をしている。
そういや極小神器を作るとは言ったが、単位は言ってなかったか。
マリー、マリエッタ、アリサの協力で十分できたから、ストックの手は借りなかったんだよね。
「pm単位の神器だよ。
ぎりぎり、ナノにかからない範囲で作成できた。
[Hr]元素を前提に、最小単位の神器を作成。
そうしないと、元素の影響で動きに差異ができてたんだよね」
で、そのピコマシンを、腕輪を起点に制御してる。
なくてもできないこともないが、負担が大きくなる。
腕輪を起動してないときは、待機状態だ。
インプットされた座標や対象の周囲に浮かんでる。
待機っていっても、座標維持のために一定以上の出力を発してるんだけどね。
そうしないと、どっか飛ばされちゃうし。
小さいけど一つ一つが結構複雑な機構で、しかも得られている力はそれなりにあるのだ。
今はこう、さらに工夫した形で、ボクが僅かに体外に魔素を出し、それにくっつけている。
体内にしまい込むといろいろ面倒なので、体の外での制御だ。
クラソーの連れていたサクラさんに供給したのは、こいつらの生成魔力。
ボクのじゃないんだよね。
「……精霊魔法を使うために、わざわざ?」
「んー……」
目的はいくつかあるんだよね。
一つは、先の元素研究のためでもあった。
もう一つは、ドーンや連邦の役喪失で、人々の認識がなくなってしまう問題の、対策。
あっちは認識阻害がおこらない、ということがわかったから、必要はなくなったけど。
精霊魔法の使用は、正直余禄だな。やったらできてしまった。
ボクの本当の目的は…………。
真っ直ぐに、ストックを見る。
「研究目的だよ。元素周りとか、いろいろとね。
証明のために、必要だった」
そしてうそぶいた。
「そうか……どうした?」
じっと見過ぎたか。
「いや。みんなは?」
「高等部のとエイミーは、授業に戻ったよ」
エイミー……まさか途中抜け出しとかしてないよな?
今確か、彼女が持ってる講義の時間だったと思うのだが。
もちろん、高等部の四人もだが。
クエルとシフォリアは、手伝いって言い張れるかも??
でもマドカとアリサはダメでしょ……。
まぁ、君たちに見せられたのは、ボクとしてはよかったけどね。
「上級生は一部が手伝いだけど、他は講義が普通にあるしな。
エイミーはともかく。
ボクらはこれで終わりだし、着替えて支度して、下宿町に行こうか」
あの二人を迎えに行かねばならない。
まぁ、今すぐそこにいるんだろうけどさぁ。
「リコとオリーブ……の迎えだよな?一緒に行ってはだめなのか?」
「今しがた、ボクは大層目立った後だ。
まだパンドラ職員でもない彼女たちと、一緒にいては影響が大きい」
何より、先の測定に人為が関わっているのなら。
ここは多少の警戒はして然るべきだ。
「なるほど」
「悪いけど、二人に言伝を頼める?
迎えに行くから、自宅にいてほしいと」
「ああ。迎えには、ほかにだれか連れてくのか?」
それ、当然自分は行くって計算だよね。
ふふ。ちょっとくすぐったい。
「そうだな。メリアとスノーは呼ぶか。
用がなければだけど」
「ギンナは?」
「たぶん共和国絡みで、用事があると思う」
さっき頼んだこともあるし。それに。
「……昨日のあいつ絡みで?」
そういうことだ。
本人とは話したろうけど、それで終わりではないだろう。
「ここですぐ片付くことじゃなかろ。
国元ともやりとりがあるはずだ。
ま、暇だったら誘おうか。
ついでに、下宿町の店を冷かしてもよかろ?」
「ああ。あそこに行くのも、久しぶりだ」
前の時間では、何度も行ったんだよね。
初等部一年の間だけ、下宿してる子以外は出入り禁止なんだ。
それ以上の、高等部とかの子なら普通に遊びに行ける。
ただ学園関係者以外は、基本立ち入り禁止だ。
で……今、行けるのかって?
ボクは教授だし。引率者がいれば、入れるのさ。
「そうだ……リィンジアとウィスタリアは、念のためパンドラに送っておこうか。
僅かな距離だけど、どこで生えてくるかわかったものじゃないし」
「そういえば連中、度肝を抜かれていたぞ。
皇子は腰を抜かしていたし。
子爵令息の彼は……まぁすごい顔だったとだけ」
あまり弄ってやるなよ?ストック。
皇子はともかく。
魔導師がそれで潰れられては、損失だろうしな。
「あとニオ嬢だったか……彼女は、妙な反応だったな」
妙とは。ちょっと気になるが。
「ん……特殊な感性の持ち主だろうしな」
「ギンナに何か頼んでいたが、知っているのか?」
あくまで同一人物だ、という点は未確認ではあるわけだが。
可能性を低いと見積もるには、少々重要人物過ぎる。
…………彼女に仕掛けられているものを考えても、ね。
「前の時間での有名人だよ。
本人は名が売れた頃には亡くなってて、遺作が一世を風靡したんだけど」
「芸術家か?」
「ある意味そうだね。作ったのは、人形だよ」
ストックの顔色が変わった。
次の投稿に続きます。
#本話は計9回(18000字↑)の投稿です。




