12-9.同。~星に手を届かせる者~
~~~~別に魔導に憧れがあったわけじゃない。でもすべての道が、縁が、ボクをここに導いた。
深く、深く息をする。
瞠目し、袖を咥え……脳の魔素と呪いを叩き起こす。
十分に練り上げた魔素を――――外へ。
会場中に、紫の魔素が高濃度で散らばっていく。
防御膜のこちら側が、幾人かにだけ見える、紫の空間になっていく。
この技は四年前に至った、我が武の極み。
だがその時は、魔素量が足りていなかった。
どうしてもある程度拡散してしまうため、密度が足りなかったんだ。
四年かけ、練り上げた。
ストックとギンナが、辺りを見回しているのが分かる。
こう……藤棚ってあるだろう?綺麗な奴。
彼女たちからは、さながらそのように見えているだろう。
呼吸を続ける。
魔素を生産し、さらに色濃く。
完成された魔物へと至りつつある、我が奥義を見せよう。
目を開き。
右手を前に差し出し。
親指と中指を合わせ。
パチン、と強く鳴らした。
ボクの手先から、火花のような小さな光が発せられ。
そのほんの少しの光が、あっという間に空間に伝播していく。
紫の魔素が、緑の光になっていく。
眩くも、暖かな光。
そう。単純な話だった。
魔素が魔力にならないのは、ボクの体内の話。
外に出してしまえば、魔力にする方法は、ある。
そして。
━━━━『星空よ、ここに』
ボクのこれは、詠唱ではない。
アウラとの対話を経て、波長を解析しきった「精霊語」。
そして……この弱電の広がる空間でなら。
電気でもって、彼らの言葉を再現できる。
その言葉は十分な魔力と共に伝われば、彼らを顕現させるのだ。
ビリオンから、君の声が聞こえたように。
ボクが君たちに、言葉を届けよう。
光が端から、象られていく。
魔力によって、精霊が姿を現していく。
シルフ、ノーム、シャドウ、サンドマン。
そしてここにはあまりいないはずの、サラマンダー、ウンディーネ、ドライアド。
来てくれたんだね。ありがとう。
緑の光がすべて精霊に変わり。
彼らに少しの緊張が走る。
ボクの後ろから……赤服の紳士が現れたからだろう。
ボクが唯一契約している、サンドマンの新しき王。サンディ四世。
━━━━『指揮は 君が 執れ』
━━━━『御意。我が君』
それは大仰じゃないかね、四世。
彼らの言葉は、名前以外はノイズのように聞こえるが。
そのノイズ自体も、解析済みだ。内容はちゃんとわかる。
彼はボクの前に進み出ると、手を数度叩いた。
精霊たちが、砂の紳士に注目する。
彼が両腕を緩やかに振るうと。
精霊たちが、舞い始めた。
幻想的で、蠱惑的な光景。
その中で削れていく、岩。
熱せられ、風化させられ、抉られ、静かに消えていく。
「馬鹿な、魔石が!?」
上の方から声がした。特等席の誰かだな?
だが残念。精霊魔法は、彼らの力を借りるだけだが。
これは、彼らに力を与えているんだ。
精霊が己が力を振るうとは……こういうものなのだよ。
サンライトビリオンが本当に不壊なのは、よりにもよって巨大魔石の中に金の精霊がいるから。
大きさによってその硬度が変わる魔石、その巨大な一つ岩だとしても。
世界に否と言われたら、消えるしかない。
三節忌み名……精霊王の召喚も、これと同系統の力だ。
だから強いんだよね、忌み名持ちは。
必ずしも、何でも壊せるわけじゃないけど。
アリサとマドカは、この精霊の力が歪んで表れている体質だった。
極まれば、本当に精霊に等しい力が振るえるようになるだろう。
見ているね?二人とも。
きっと君たちも、ここに辿り着く。
精霊たちの舞が続く。
ゆっくりゆっくりと岩が細り。
一方で、使命を果たした精霊たちは帰っていく。
精霊がいなくなり、岩が一本の棒のようになったところで。
紳士が振り返り、ボクを見た。
ボクは頷く。
彼は帽子をとって。
一陣の嵐となった。
赤砂の嵐は、岩を飲み込み、すり潰し。
風と砂が晴れた後には。
何も残らなかった。
――――終幕だ。
スカートじゃないのが。不服だが。
ボクは、左足を大きく回すように引き。
裾をつまむように、両手を添え。
深く深く、頭を垂れた。
…………おや。
意外に大きな、拍手が聞こえる。
精霊語。
精霊を顕現させる具体的方法。
新たな魔力の抽出手段と、魔導行使方法。
スポンサーの皆々様。
パンドラ謹製の、新しい魔法の姿。
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