12-7.同。~迫る披露の時を待つ~
~~~~やつら、誤ってこっちの航路に飛び込んだりしないかしら。そうすりゃ楽なのに。
とはいえ、この場は少しフォローをしておこうか。
魔境航行の常識なんか、12の子は知らんしな。
「この学園においては、どちらが安全かというのは――――。
よりよしみを結んでいる方で、ご判断いただければ。
先の隠蔽禁止契約は当船からの進言で、実現したもの。
あちらの魔力計測は、機器がパンドラ製です」
ま、うちは王国所属だから、そもそもがこの国はうち寄りだ。
正しいって意味じゃないが。
だからその点は、外国人のデケイルには言わないでおく。
「あの契約は、なにゆえに?」
「過去、力を隠して入学し、問題を起こす者が多かったのです。
記録を整理させていただき、そこから対策が必要と進言いたしました。
逆に魔力計測については、魔力なしと誤認される子がいますので。
埋もれた才を見出すために、提供しております」
そう。言っちゃ悪いが、ラース皇子みたいなのはよくいる。
学園も無策なわけではないが、効果的な対策が打てるかというと、そういう専門家はいなかった。
今やっているのはかつて、ボクがクレッセントでやってた締め付けの応用である。
まぁあの頃は精霊なんて使えなかったから、もっとえぐいやり方してたけどね。
船内にある種の経済圏を作ったんだが、つまり金で言うことを聞かせるようにしたわけである。
問題を起こすと、とにかく金が減る。飯に直結するので、誰も逆らわない。
金は現物ではなく、データで管理していたので、簡単に奪える。
データ防御に関しては、まぁそれなりに工夫した。
おかげで、突破されたことはなかった。
パンドラはそれに比べると天国だわ……。みんないい人過ぎる。
「なるほど。興味深い。
おっと、ひょっとしてあちらは」
お。後ろの方でストックが誰かと話してる。
もう呼びにきたかな?これは。
目立ちにくいところ……健診とかから、少しずつ案内されるはずだ。
「ああ、呼び出しのようです。
パンドラ所属の者は、少々事情がありまして。
派手なところは後回しなのです」
「後学のためにも、可能なら見せていただきたいところですが」
おお。向上心があるのはいいことだ。
ならお誘いしておこう。
「確か14時頃からになるはずです。
みなさんは終わって、帰り始めるころですね」
「ありがとうございます。では私はこれで」
一礼し、のっしのっしと歩いていった。
そうそう。魔都の貴族やその子弟は、礼儀正しいんだよなぁ。
あそこはある種の研究都市だからか、インテリな人が多い。
帝国と聖国のは見習ったほうがいい。ほんとに。
「ハイディ……あなた男性ともまともに話せたのね」
「おうリィンジア。
確かにパンドラは女の園染みてるが、普通に男性職員もいるぞ??
ボクは何だと思われていたんだ」
「刃」
誰とも話せねぇじゃねぇか。
「その例えは秀逸だの、リィンジア。
だがそろそろいくぞハイディ。
まずは順当に健診からだそうだ。
ストックが待っておる」
「ん。クールダウンしながらいきますかー」
あれ?これ体あっためた意味、なくない??
◇ ◇ ◇
各種測定・検診は滞りなく終了。
ボクとストック、ウィスタリアとリィンジアは魔力なし判定だ。
魔力がちゃんと備わってるのは、スノーだけ。
ギンナとメリアも低魔力分類。
精霊王は、魔力ほとんどいらないんだよね……。
あるいは、魔素から変化した魔力のほとんどが、普段から吸われてるって考えもあるが。
そして実技。
各種体術で、みんなして大暴れ。
ボクも、呪法やスマッシュを見せた。
記録してた上級生の方々が、ドン引きしていた。
ギャラリーもそれなりにいて、やっぱり引いていた。
文字通り消えたので幾度か計測してもらい、光速移動だと説明したんだよね。
見えないし計測不能なので、さじを投げられた。
まぁしょうがない。
各種武器もあって、皆そっちも手を出していたが。
ボクはパス。
どうせそんななまくらじゃ、折れちゃうし。
見せられないこたぁないけど、奥の手はさすがに内緒にさせてほしいね。
そこまでやれって契約でもないし。
自己申告範疇なら、ここまででよかろ。
何せ次は、ちゃんと見せるんだから。
最後は魔導実技。
ストック、リィンジア、ウィスタリア、あとスノーはパス。
ギンナ、メリア、そして最後にボクがエントリーだ。
記録員の人には三度見されて、四度確認されたが、合ってる。
魔力なし判定が出たばかりで、魔導実技だもんねぇ。何事かと思うよな。
何かストックをはじめ、皆早くもドン引きしてるんだが、なぜだね?
ハイディならやりかねないってことかい?
ふふ。信頼が厚いねぇ。
なおこのボクの……成果は。一部の人しかしらない。
マリー、アリサ、マリエッタは知ってる。共同研究者だからだ。
ビオラ様は知ってるが、スノーは知らない。衝撃が大きいから伏せたらしい。
いや、この場でお披露目して度肝抜くの、返って不味いのでは??
まいっか。妹も、そろそろ慣れて来たろうしな。
なお、この計測で悪目立ちを避けたいから配慮してもらったわけでもあるが。
ボクのこれは、別だ。何せ、ある種の研究成果だからね。
パンドラのスポンサーに向けた、デモンストレーションを兼ねてる。
たぶんだが……学園長やビオラ様どころか、お父さまとお母さまあたりもお忍びで見に来る。
ふふん。ちょっと張り切っちゃうぞう。
次の投稿に続きます。




