12-5.同。~君の知る「王」とは。その答え、今はなく~
~~~~パンドラにも、ボクの人生にもあまり関わりはない。でも……会ってみたかったんだよね。
正直、イオ嬢について興味が尽きない。
初対面で、先のこともあって悪いが、絡ませてもらおう。
「不躾ながら、聖国の法術の大家ウォン子爵と。
共和国の魔道具技師の家系であるニップ家。
ご縁があるようには見受けられませんが」
「フン。本当に不躾な奴だ。
当家の小間使いのようなものだ」
そんなわけあるかい。
外国人やぞ。共和国は諜報をがっつり受けてる影響で、その辺厳しい。
少なくとも、聖国の宗教家ならともかく、子爵ごときで乗り越えられる壁ではない。
何かあるな。
あの一家が姿を消したことに、直接ではないかもしれないが、関係しているかもしれない。
しかも法術師。
呪いとの複合で、人を間諜に仕立て上げることもできていたわけで。
何らかのものを、ニオ嬢に施していないとも限らない。
「行くぞニオ」
去るというのでこれ幸いにと、改めて軽く礼をとりながら。
目を伏し目がちにし、頭の中の撃鉄を起こす。
口元を隠すふりをしながら、紫電雷獣を起動。魔素を拡散。
さらに、右手の赤い腕輪についている玉を、いくつか回す。
これでよし。ボクの感覚をセンサーにして、情報収集を行う。
後で分析しよう。
どうせ測定の合間とか、暇はたくさんあるしな。
ある意味、暇つぶしの宛てができたと喜ぶべきかね。
……あれ?
ニオ嬢は……なんでまだボクを見ているんだろう?
アシャードは、もう結構先に行ってしまったのに。
彼女の深紅の瞳が、ボクをじっと見つめている。
目が、合って――――
「おい!」
アシャードが少し声を荒げると、何かニオ嬢に仄かな赤い光が走った。
これは……よりにもよって。
一瞬彼女は顔をしかめると、頭を下げ、ボクの横を通り過ぎ……行ってしまった。
通りすがりに、少しの呟きを残して。
――――王様だ。
……スノーを見て言った、わけじゃなさそうだけど。
どういうことだろう。
いや、それよりも。
「ギンナ」
「不穏ね……クレッセント絡みでは、ないと思うけど。
調べてみるわ」
「お願い。場合によっては、探偵にも頼んで。リコ」
「はい」
やっぱり近くにいた。
相変わらず、気配を消すのがうまい。
でも、隣にオリーブがいたら、さすがにわかる。
いつの間にか、契約を終えたらしいリコとオリーブが来ていた。
あまり裏の仕事を、匂わせるものではないけれど。
きっとオリーブには適当にごまかすだろうし、頼らせてもらうか。
ちゃんとご褒美はこの後、あげるわけだしね。
「ちょっとギンナの仕事を手伝ってあげて」
「はい。心残りな仕事でございました。
果たさせて、いただきます」
そうか。
君が追跡まで進言してくるとは、ちょっと意外だとは思っていたけど。
「ありがとう。頼むよ」
で、二人いるわけですし。
実にちょうどいい。
「あと。オリーブもだけど、放課後何か予定ある?」
「え、え?いえ、私は特に」
「私もありません」
んむ。結構。
じゃあ学内だと悪目立ちするし。
「ん。校内だと探しにくいし、下宿戻っててくれるかな。
パンドラ見学会だ。話は聞いてる?」
「あ、はい聞いてます!やったぁ」
「よろしくお願いしますね、ハイディ」
ふふ。思ったより二人とも嬉しそうだ。
でもリコはその、やっとおそばにいられますみたいなねっとりとした視線、やめよう?
「よし。じゃあ二人とも行っといで。
ボクらは待機だから」
「「「え?」」」
あれ。オリーブだけじゃなくって、ウィスタリアとリィンジアにも返された。
視線を向けたが……おいパンドラ女子ども、なぜ微妙に視線を逸らす。
誰か説明したげてよ。
「パンドラ組は、ゆえあって後回しなんだ。
わかりやすく言うが……あー。オリーブは先日の決闘、見てた?」
「はい、見てました。あー……わかりました」
そういうことだ。
4年余り前、ダリア、ベルねぇ、マリーが学園に入ったわけだが。
ダリアがはっちゃけた。
なので先の隠蔽禁止の件の折、パンドラの人員については先に資料提出の上。
基本的に後回し、場合によっては計測見送りにしてもらうように、学園にお願いした。
他の子のやる気を、削いでしまうからだ。
ダリアが他科にも顔がきいてしまうのは、そのやらかしで伝説になってるからなんだよね……。
彼女の面倒見のいい気質ゆえ、いい方に転んだとも言えるが。
やはり、やりすぎはよくない。
マドカたちはまぁ大丈夫だったんだがね……ちょっとアリサが派手だったけど。
クエルとシフォリアは三味線引いてたわけで、問題なかった。
そして今年だ。
スノー、ギンナ、メリア、ボク、ストック。さらにウィスタリアとリィンジアまでいる。
計測可能な力は、隠蔽禁止なので隠せない。全員がやらかす。
武術は計測に引っかからないから、自己申告なんだけどね。
いろいろお願い聞いてもらったパンドラとしては、ここは見せなくてはならない。
スノーはめっちゃ鍛えているので、体力測定がアレなことになる。
ストックの本気は出るし、ウィスタリアとリィンジアも決闘の再来となる。
ギンナ、メリアは精霊王の召喚が待ってる。戦略級魔導の使用者なので、がっつり計られる。
そしてボクだ。
盛大にやらかすのが目に見えている。そのために配慮してもらった。
せっかく配慮してもらったのだから――――派手にやってやろうかね。
次の投稿に続きます。




