12-2.同。~ほんの少しの怒りを、新たな友のために捧ぐ~
~~~~そういう茶番は、身内だけでやっていただきたい。出てくんなし。
きっと皇子のこと、みんなそう思ってても黙ってるだけだと思うんだけど。
あの態度は美形だから、様になるだけなんだよねぇ。
そういうのとは、笑顔でそっと距離をとるものだと思うのだが。
律儀な子だ。
「のんびりしてると、次々後から来て轢かれるぞ?」
皇子が言われて反射的に下がると、確かに続々と生徒が出て来た。
内容は嘲るようだが、口調はそうでもないし、意外に気遣っての言動か?
奇特すぎる。
お、二人こっち来た。メリアとギンナだ。
動きやすい、ツナギのような服を着ている。
実習などの運動用の指定服だ。
先の少年を始め、出てくる子はみなそうだけど。
ボクらも着替えないといかんな。
個室の更衣室が用意されているから、そこを使う。
これだけもう出てきているとなれば、もう空き始めているとは思うが。
入学者全員対象だから、三桁いるわけで……まだ並んでないといいが。
制服から運動服に着替えるだけでも、女のそれは少々かかる。
ボクなんかだと、この長い髪を動かないようにしないといけない。
その点、あの黒髪の少年は……そもそも、動く気がないのかもな。
「実技」と言われたときの視点が、魔導に集中しているのだろう。
動けない魔導師なんて、ただの的だけど。
「ハイディ、まだ余裕はあるが、時間は迫ってるぞ」
「ん。ありがとうメリア。ギンナ?」
「ええ。もう大丈夫だから」
おう。それは頼もしい。
「助かりましたわ。アシャード殿」
リィンジアが、黒髪の少年にお礼を述べてる。
「お名前を覚えていただけているとは光栄だ、リィンジア嬢。
まぁ魔力なしの方には実技は関係ない。ゆるりと来られるといい」
丁寧なのかと思ったら、慇懃無礼な奴だった。
不敬が滲み出てる。
確か……聖国の法術師、ウォン子爵の令息だ。
大層な法術の大家らしく、実力はあるが爵位は低いのだとか。
だからおそらく、そこにプライドを持っている。
彼女の前では、そんなもの欠片も役に立たないと思うけどね……。
なお顔は知らなかったが、この子も「攻略対象」だ。
魔導……法術こそ力と信じて、疑わない人物らしい。
そこをヒロインが世界を広げてあげる、らしいが。
もちろん、ボクはお断りだ。
ウィスタリアだって、やりたかねぇだろうな。
今も興味なさそうにしてるし。いや、リィンジア見てにっこにこになってるし。
…………その笑顔、刀出そうなやつじゃない??何が引っかかったの?
リィンジアが男と話すのも許せないの???
「フン。弱い奴は滑稽だな」
ぼそっと声が、少し上の方から聞こえた。
おっと、後方死角に大柄な子が。皇子の取り巻きよりでかい。
……魔都のオーガ族だな。角が一本ある。
ボクがチェックしてる範囲だと、魔都から学園に来てるのは数名。
その中でも初等部に入学したオーガ族は、デケイル・オヌという子だけだったはずだ。
確か魔都の伯爵令息だったかと。
この子は別に「攻略対象」ではない。
あと三人は確か、入学……それも初等部からいるわけじゃなくて。
物語の途中に、様々な理由で学園にやってくる口だったはずだ。
「…………それは僕に向けて言ったのか?魔族」
おい。オーガの子、眉根がめっちゃ寄ったぞ。
魔都の人を魔族呼ばわりは、禁句だ。
でも彼は怒りださない……割と紳士だな。
「そうだとも。
アレを知って魔力なしだと侮るのなら、なお滑稽だが」
オーガの子がちらりとリィンジアと、ウィスタリアの方を見た。
あー……決闘を見た口か。そりゃそう思うよな。
「なんだと」
法術師の子、手の中に何か札が。あ、魔力光放ってるし。
オーガの子もそれを見て、半身に構えてる。
そして二人の動きが止まった。
「貴様ら。私を無視するとはいい度胸だ」
ラース皇子だ。シルフで介入したか?
めんとくせぇやつらだ。
リィンジアがビーム構えようとしたので、手で制す。
しょうがねぇ。
君とウィスタリアのこと、ボクは結構気に入り始めてるんだ。
君たちの意思は、強さは、確かに本物だった。
ボクはこれでも、君を馬鹿にされて、結構怒ってるんだ。
メリアとギンナが下がる。ストックも身を引いた。
別にオーガの子は悪かないので、彼の前。
三人の間に、立つ。
「なんだ貴様は。ああ……モンストンの令嬢の取り巻きか。
貴族に媚び諂う魔力なしの女。
なんだ、この私にも媚びようというのか?ん?」
皇子がよくわからん基準で煽ってくる。
魔力なし、という語に反応したのか、動けないアシャードの視線にも少し侮りが混じる。
後ろの子は……大人しくしてる。
ひょっとして、気配に敏感なのかな?
ごめんね、あまり怖がらせたくはないのだけど。
ボクはほんの少しだけ、気配を抑えるのをやめた。
圧力が広がり。
空気が、悲鳴を上げるように震えた。
次の投稿に続きます。




