11-5.同。~皆のおかえりが、伝わる~
~~~~カツサンドはカイナさんの発案。ミルフィーユカツは、どうも専門店が共和国にあるらしい。
決闘もし、遅くまで起きてる二人は、まだ疲れた様子はないが。
今にも、おなかが鳴りそうなお顔はしてる。
リィンジアは一見澄ましているが、目を伏せがちにしてるのは匂いを辿ってるからだろうし。
ウィスタリアはもっと余裕がない。視線がキッチンの扉から離れてない。
…………クレッセントにいたから、ひょっとして飢えてるんじゃなかろうか。
「とりあえずカツを揚げたんだけど……って。
二人は聖国や王国、魔都あたりの食文化圏か。
学食にもないはずだし、食べた覚えはないかな?」
「ないわね」「私もないわ」
だろうなぁ。王国っていっても、二人が知ってるのは昔だが。
王国はそも、長く畜産は控えめだから、この辺の文化が元々薄い。
魔都は土地があまり豊かではないから、食は質素めだ。
文化圏としては、帝国と共和国の間くらい。
聖国よりは豊か、なんだけど。カツはなかったと思う。
「パン粉はわかるか?それをまぶして揚げたものだな。
とりあえず四足の肉でやってる。
そろそろ来るからまず一皿食べて……」
「姉上が揚げ物してると聞いて!」「来たわよ!」
「「「…………」」」
なぜ来た、次代の王家コンビ。
とりあえずお茶を出すと、すかさず座りに来た。
「あーもーおなか空いちゃって。
二人とも、ハイディのお料理はとってもおいしいの」
なじみに行くの早ぇな所長。
「揚げてんのボクじゃねぇけどな?マドカがやってる」
「マドカも、かなり腕を上げたではないですか。
良い香りに音……おなかが鳴りそうです」
「君らなぜご飯食べてないんだ」
「や。あんまり言いたかないんだけど、お通夜みたいになっちゃって」
「ごめんなさい」
「姉上が謝るところではないんだが」
「その……聞くのが怖いんだけど」
ウィスタリアがおずおずと手を挙げた。
「姉ってとこかい?」
「まぁ、そう」
「血縁関係にはあるんだよ。
ボクは生まれてすぐ、聖国に浚われてね。
王族籍の復帰もできるんだが、いろいろあって公爵になったから王族ではない」
元は死産扱いなので登録だけされて死亡、ということになってたようなんだが。
ここからの復籍も可能だった。
ただ、特例だし王族となると、その長……国王との面会が必須だったんだよね。
だからなかなか復帰できなくて。そうこうするうちに公爵になってしまった。
経緯を振り返ると、自分でもさっぱりよくわからない。
「さらっとすごいことが出て来たんだけど……。
浚われたって」
「ある意味解決済みさ。悪い奴らは、人を呪って、自分の墓穴を掘った。
――――もういない」
少しリィンジアが沈痛な面持ちになり、それをウィスタリアがそっと見ている。
「そういうところ、結局変わらないのね……」
「リィンジア様……」
変わらない、とは?昔この子たちが国を作った頃から、そうなのか??
何か聞こうかと思ったところに、ストックが皿を運んできた。
「…………?何か増えてるな。
とりあえずハイディからだ。
せっかくだから、もっともってこよう。
ハイディ、芋のマッシュ揚げも作るが」
「そうしてあげて」
「わかった」
ストックが次の皿を持ちに行った。
皿を置いてくれた席について。
おっと。一つだけ先に伺っておこう。
「あ、そうだビオラ様。今日のことは後でまとめますが」
「先寝てもいいのよ?」
「そうもいきません。それより明日、測定なんです。
例の、使っても?」
「お披露目ね?各所に話は通してあるから、思いっきりやってきなさい」
よっしゃ。
明日は、学園の合同授業。実技能力測定会なんだよ。
この四年の研鑽、見せてやろうとしようか。
では……遠慮なく。
この見るからにおいしそうなやつを。
「悪いけど、お先にいただくね」
「ど、どうぞ」
スノーのよだれを、脇からビオラ様が拭いてる。
手を合わせ。
「いただきます」
千切りの甘葉は食べにくいので、箸でいこうかな。
すでに適切な大きさに切られているカツを、箸で持ち。
うん。仄かに立つ湯気。わずかに踊るパン粉。
もうどこ行っても出せるくらい、上手になったね。マドカ。
一口。
あまり良い作法ではないが、さくり、という音が広がる。
…………生唾を飲む音がしたぞ。そっちは完全にアウトだろう。
食べ応えはある一方、噛みきるのに労がない。
しっとりとし、甘味すら感じる柔らかな脂。
香りもいい。ちょうどよく香ばしさを感じる。
ああ。四足といい、パン粉といい、最高のものだ。
それがよく調和し、完璧に揚げられている。
共和国でお会いして、今はパンドラで働いてくれている料理人のカイナさんも、唸らせることができるだろう。
しっとりと味わっていると、ストックが追加の皿を持ってきた。
待っていましたとばかりに歓声が上がり。
「「お母さまが揚げをしていると聞いて!」」
「おなかすいた」「夜食ください!」
「ここに来ればおなか一杯食べられると聞いて!」「カツください」
「しょうがないから手伝ってやろう」「甘いものないですか!?」
「「ただいま」」
増えた!?
一人天使が混ざっておる。
あといつの間にか現れたエリアル様が、てきぱきお茶を淹れ始めてる。
まったく。
帰ってきた二人はともかく、明らかに君たち、着替えた後があるぞ?
もうちょっと落ち着いて出て来なさいよ。
ボクはひとまずカツをしっかり食べさせていただき。
付け合わせの野菜も堪能し。
立ち上がった。
「よぅし欠食令嬢ども。体重増えるくらい、揚げを食わせてやる」
四足以外の肉もあったし、野菜もたんまりだ。
夜食でその身に肉を蓄えるがいい!
それが、ボクを心配して来てくれたみんなへの。
礼ってものだろう。
…………ありがとう。
ただいま。
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