11-2.同。~知りたいならば、自己紹介をしよう~
~~~~ストック搭載で真面目な話をするのは、ちょっと大変。まさぐるな。
学園長は教育者・研究者として、一流の方だと、ボクは思っている。
そして同時に淑女だ。
貴族当主でもあったし、礼や配慮は欠かさない。
そのせいかだね。
この人、怒ってる時ほど努めて冷静であろうと、人に見せるような笑顔をするんだよ……。
とてもぞわぞわします。
もちろん、ボクに怒ってるわけじゃない。
学園長は女性を貶めたり、脅かす輩にとても厳しいのだ。
前の時間のとき、大変お世話になった。
きっと、今も変わらず……女性の味方であらせられるのだ。
御立場があるのは確かだが。
信頼できる。
さて。じゃあ例の子に会って黙らせて、魔素を抜いて操りを解くかね。
もうはよ帰りたいし。
「では……」
「あー、その前に。
すごいどうでもいいことなんですが、気になって」
ウィスタリアが手を挙げている。
「どうぞ、ウィスタリア」
「ありがとうございます、学園長。
…………ハイディは何者なんです?
学園長ともその、普通にやりとりしてるというか。
明らかに以前からの知り合い、みたいで」
気になっちゃうか。
だが知らぬ方が身のためだぞぅ。
学園長の方を見ると、目元で笑った。
好きにしろということか。
「ウィスタリア。君、自分の成績には自信あるほうか?」
「はぁ?そりゃあるわよ。
これでも首席入学だもの」
これは本当だ。
今年の入学者でいうと、うちの面々のうちメリアやギンナは成績が普通だ。
前の分があるから、そりゃそれなりに高い得点を記録しているが、忘れてるものも結構あるからね。
ウィスタリアは900点代をマークしたので、前回試験を受けての入学者ではダントツである。
ボクやストックが最後の試験を受けたのは、一昨年なんだよね……。
成績が十分に優秀なら、直近の結果ではなくても入学くらいは可能だ。
なおストックはマリーが最後に受けた試験より、点が高かった。
つまり一発講師合格である。
「…………ちょっと待って。
さすがに私、少しは察しがついたんだけども」
「そう。じゃあボクが何者か、聞きたいかどうかは君が決めるといい。
なお、パンドラで過ごすとたぶん、どっかではどのみち聞くことになる」
学園長は、完全にこちらを向き直って楽しそうにしてらっさる。
ん……そういやボクが永世とったとき、すごい喜んでくれたんだよな。
「本当は隠したくなどないのだけれど」と前置きした上で、ボクの立場を学園としてお隠しになった。
それがお望みとあらば、言うしかあるまいな。
…………服の下に背中に回してる手を入れようとしてるストックを、引き剥がした。
周りから見えないからってなにすんだ。自重しろ。
あとで好きにさせてあげ……ようとするとダメなんだよなぁ。
めんどくさかわいい子め。
「私は聞いてみたいわね、ハイディ。
なに?もう卒業できてしまったりするの?」
リィンジアが意外に興味を示している。
そういう入学者は数年に一度の単位だが、いるにはいる。
まぁボクみたいなアホは、二度と出ないだろうけど。
「っぐ!今ここで!聞かせなさい!」
そんなに覚悟決めるようなことだったの?
まぁもったいつけるものでもないしなぁ。いいかぁ。
「君ら、船に入ったらゆるく機密保持の契約結んでもらうんだけど。
これ、その中の一つだから。喋っちゃだめだよ」
「「は?」」
ちょっと釘をさす。
「ボクは昨年の試験は受けていない。
その前、三年連続で受けさせていただいて、その成績で入学水準をクリアしてるからだ。
だから、君が首席入学者なのは間違いないよ。ウィスタリア」
「?なんで三回も試験を?そんなに落ちたの?ハイディ」
「ああああああああああ!!ち、違いますリィンジア様!?」
ウィスタリアはがっくりと膝をつき、色の抜けた表情になった。
「何よウィスタリア、急に大きな声出して」
「さんねん、れんぞく……えい、えいせ」
「ではいい加減、自己紹介をしておこうか」
改めて、軽く――貴族の礼をとって。
「本学永世教授。エングレイブ王国南西領領主。
ハイディ・シルバでございます」
ふふ。
ボクのカーテシーは、君に負けてないだろう?
淑女の始祖よ。
「がふ」
ウィスタリアが撃沈した。
膝立ちから、そのまま床に倒れ込んだ。
「ちょ、ウィスタリア!?
この子、痙攣して……目を開けなさい!
ビーム撃つわよ!?」
それはやめて差し上げて?リィンジア。
次の投稿に続きます。




