10-5.同。~魔獣vs人魔~
~~~~そんなとこにまで百合が咲かなくてもええんやで???
15分ほど進み。
途中、何にも遭遇せず、そこまで来た。
魔力補充は、もう十分なようだ。よかった。
それで、だが。
変なのが、いる。
スロウポークを思わせるような……何か。
何か、としかこう、言い様がないと言うか、言いたくないと言うか。
いやだって。
丸太から丸太が五本生えてるような感じなんだもの。
いや、そのままにょきにょき生えてるんじゃなくって。
体、頭、あとは肘から先と、膝から先……そこが丸太。丸太?
あれで二本足で、どうやって立ってるんだろう。
3mくらいのそれは、不気味な印象で。
あまり硬いようには見えないけど。
でも……よく見ると、薄くキラキラした何かを、纏っている。
…………魔結晶か、あれ。あんなに、薄い。
ディックがかつてイスターンで見せたような、高密度のそれだろう。
布状ということも考えると、かなりの耐久力と考えるべきだ。
しかし動いてはこんな?
あいつの向こうにある門を、本当にただ守っているのか?
天然の魔物、ではないはずだ。聞いたことがない形状だし。
これがまさか、魔獣?
『ふふ。久方ぶりに、力が漲るようだ。
やれ、クラソー』
黒い人型の結晶が、少し肩を竦めて。
その鉄骨のような剣を。
サクラさんに、突き立てた。
『オーバードライブ。魔身融合』
彼らが合わさって――――大きな獣になっていく。
ボクの呪文や、祝いの獣ほどでかくはない、けど。
非常に滑らかで、整っていて、美しい……魔物となった。
結晶の光沢。魔物の硬皮の照り。そして溢れ出す宿業の赤い光。
こんな超過駆動、聞いたことないんだけど……。
魔物と、融合、とか。
原理がさっぱりわからない。
よく見ると、そのデカサクラさんの尾が。
あのクラソーの剣のようになっていて。
『『ガン・リロード』』
そこに、砲弾のようなものがいくつも詰まっていく。
シャッターのように、結晶が覆って。
ギンナの蛇腹の剣の如く、蠢きだした。
『『ファイア』』
その獣の姿が、霞む。
いくらかの赤い閃光が走り。
門番の丸太――右足部分が一つ砕け。
だが倒れず、そいつは右腕を、素早く振るった。
獣が芋虫の横を吹っ飛んで行った。
当たったのか!?なんで!!
そしてまた赤光が閃く。
左足、右腕の丸太が吹き飛び。
宙に浮いたまま、左腕が振るわれれて。
獣がまた、近くをかすめて吹っ飛んでいく。
そしてもう一度――接近し、何かに阻まれて獣が止まった。
こっ、結晶の膜が増えてる!?
これはいかん!
生成していた魔力の一部を用い。
ボクも急いでフラッシュスタートを行う。
『結晶、粉砕!!』
詠唱。精霊の身のうちにいるからには、それは即座に適う。
芋虫の突進が、膜を割る。
ガラスが砕けたような音がして――――
何か、こう、ガラスをひっかくような、音がっ。
こいつの鳴き声か!?
赤い光も見えるし、呪いだろうが、効かねぇよ!!
至近距離で再びアクセルから、シフトレバーを細やかに連続して切り替え。
ハンドルを回しつつ、車体全体を大きく振り回す。
そいつは壁に叩きつけられ――薄い皮膜がもう一枚、砕け散った。
見たところ、これで全部だ!
『でかした、ハイディ!クラソー』
『ああ』
爆発するような音が連続し、おそらくしっぽの砲弾が消費されていく。
獣の口腔に、赤い光が収束して――――
『『バースト』』
光が、溢れる。
奴ごと、飲み込まんばかりに炸裂した。
ちょ!ダンジョンだから崩れねぇけど、滅茶苦茶やるな!
ボクの獣の矢と相打ったやつじゃねーか!!
土埃が、徐々に晴れて。
…………いない。
再生の様子、呪いの発動、ともになさそうだ。
まださすがに警戒は解けないけど。
さすがにちょっと、肩の力が抜いていいかしら?これ。
ま、あの硬度にブレイクで対抗できるとわかったのは、収穫だったな。
普通に戦ったら……精霊込みのフェーズ4ならなんとかなるか。
フェーズ3の場合、丸太でこっちの鎧が砕かれそうだが。
やはりこれが、魔獣というやつだろうか。
こいつが量産できるなら……少しまずいな。
この情報は、早く持ち帰ろう。
他に敵もいなさそうだし。
『出られそう、だな。
あの門、どこに出るんだ?クラソー』
『魔都にほど近いところだ』
まじかよ。
『出よう。ボク急いでパンドラに帰らないと』
一応警戒しながら、大きな門をクルマでそのまま潜る。
まだらの空間の向こうは、少し小高い丘だった。
浅い魔境の、管理されてないダンジョンか。
暗いし……よくないな。さっさと帰ろう。
『じゃあボクは行くよ。
サクラさん、またね。
クラソーはエリアル様ほっとくなよ?』
『ああ、また会おう』
『余計なお世話だ……達者でな』
では。
「『災いよ、また箱の開く日まで』」
終了のコマンドを受け、ネフティスがただの神器車に戻っていく。
バックミラーに一瞬、帽子をとって礼をする紳士が見えた。
座席で一息つき。
改めて、シフトレバーとハンドルに手を置く。
「急いで帰らないとな……」
ボクはアクセルを吹かし。
景気よくロケットスタートで、飛び出した。
魔力が一気に減るけど、フラッシュスタートにした方がいいかなぁ。
まずパンドラに行って、ストックたちの所在確認。
それから――ああ。あの黒髪の少年はどうしたものかなぁ。
めんどくせぇ。
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