10-2.同。~御使いよ、我が元に来たれ~
~~~~しかしここ、何だろうな。謎だらけだ。
左手の緑の腕輪を、回して。
「『涅槃の彼方より、来たれ』!!」
暗闇にまだらの空間が現れ。
そこから蒼い神器車がやってくる。
荷物を持って、運転席のドアを開けて乗り込み。
まず、後部座席に布で包んだ魔道具を放り込み。
ベルトを締めて、ハンドルを右手で握り。
シフトレバーに左手を置いて。
深く息をする。
右手の、赤い腕輪を回す。
「極小神器機構、起動!」
車内の空気が俄かに紫になり、ついで緑がかっていく。
四年かけ、開発した新システム。
直接攻撃などに使えるわけではないが、エネルギー供給面での不安はなくなった。
こいつがあれば、かなりのことができる。
例えば。
ロザリオの端で親指の腹を少し切って。
ハンドル脇、奥のキーボックスへ押し付ける。
「『災いの 箱よ、開け』!!」
適切なカラミティコール。
呪装火砲。
重魔力収束鏡。そこまでの連続起動。
四年前なら、一人でできたのはここまでだった。
だが新たな力を得た今。
ボク一人でも、この先が見える。
「『救世の 獣よ。今こそ』――――」
一気に段階を飛ばし、phase4を開始。
蒼い魔力流がさらに濃くなっていく。
「『精霊 に、 至れ』!!」
収束鏡の歪みもあって、その身は悍ましい卵のようになった。
アウラの宿らないこのクルマでは、ただ魔力流が強くなるだけだ。
だが――――ここに精霊がいれば、話は別だ。
瞠目し、脳の撃鉄を起こす。
袖を咥え、呼吸をし、呪いの獣を起こす。
紫の魔素を叩きだし、緑の光に融合させていく。
仄かに、車内に電光がちらちらと走り出す。
「行くよ、四世」
━━━━『サンディ・ザ・フォース』。
どこからともなく、赤いスーツのすっとした紳士が現れ、後部座席に座る。
バックミラーに、彼の顔が映る。
その身は砂でできていて、口や目鼻などはない。
あるいはその性質上……そのすべてが目だと言ってもいいだろう。
車内の緑の光が、ごっそりと消える。
だが呼び水の役割は果たした。
サンライトビリオンは、ストックに取り上げられてしまったわけだが。
アウラとの対話を通し、どのようにして精霊があのクルマに取り込まれたのかは分かった。
そしてわかったからには……再現できる。
━━━━『その力 を 捧げよ』。
━━━━『仰せのままに。我が君』。
対話で解析しきった「精霊語」。
これを用いれば、魔力のないボクでも、精霊と会話ができる。
向こうが顕現してないとダメだから、どのみち魔力はいるんだけどね。
しかし。召喚は実験も重ねたのでもう幾度もしているが……毎度こうなのよな。
君の仕える主は、メリアではないんかね?
素直にお願い聞いてくれるのは、とてもありがたいんだけどね??
赤い紳士は融けるように砂となり、車体に浸透していく。
では仕上げだ。
シートに腰かけ直し。
最後のオーバードライブを、起動する。
「『災厄よ、箱より出でて――――。
魔王と化せ!
顕現、赤砂・眼霊・王魔』!!」
蒼い魔力流にひびが入り、割れる。
精霊が受肉し。
世界の卵が、孵る。
蒼黒い魔力流をばらばらに砕いて、いてはならない存在が降り立つ。
赤砂が象るその体は、巨大な芋虫。背に無数にある斑点は、黒い大きな瞳だ。
これは異物を追いかけ、逃さず粛清する、世界の白血球の一つ。
いろんな意味で過剰な存在だが。
ま、クラソーを撃退するあたり、甘い敵ではない。
これはこれでよかろ。
魔物が含まれているなら、ほぼ必殺だろうからな。
楽ができる。
『精霊……いや、精霊?魔物?お前、精霊使いだったのか?』
『なったんだよ。あとちゃんと精霊だ。
ま、知恵と技術の結晶ってやつさ』
窓は開けられないので、拡声と収音の魔導でやりとりする。
なお車内は別に変わってないのよな。
不思議な変形……変身?だよねぇ。
アクセルを踏むと、うねうねと動き出す。
これ、ボクと契約経由で連結があるのか、外のことわかるんだよね……。
正直最初は気持ち悪かったが、もう慣れた。
しかし……地味なお披露目になった。
この機能は、一人であれこれ試してはいるが、人に見せたのは初めてだ。
観客がいたのだから、まだマシかね?
一人で起動できて、かつあの魔晶人とやらを確実に倒せるのがこれしかないからなぁ。
しょうがあるまい。
では。
我が御使いとの、初陣だ。
次の投稿に続きます。




