10.魔都近郊魔境内ダンジョン。結晶と魔物、そして精霊王。
――――すっごいもふもふ出て来た。
…………しばらくの浮遊感の後。
真っ暗なところに降り立った。
瞑目し、脳の魔素を起動。
少し拡散させ、状況を調べる。
…………天然洞窟だな。
天井は結構高い。7mくらい?
我ながら、何も見えてないのにそこから落ちて、よく普通に着地できるよな。
周りには何もない。
その7m上の天井、にも。
門に落とされた、とは思うんだが……何も見当たらないな。
特定の場所に飛ばす、一時展開できる門、か?
不特定なら、普通生きられない場所に直行だろうしな。
いや……そういうとこに直行させるものがないとも限らない。油断できんなこれは。
けど門が壁の中とかにつながっていることは、無いと聞くし。
そういうもんでもないんかねぇ。
さらに周囲を調べる。
魔素を広げていく。
壁や床、天井に魔素が当たると、その先に行かない。
ダンジョンだな……そっから向こうは空間が断絶してるんだ。
建物なら貫通できるんだが。これは困ったな。現在位置が把握できない。
広いからネフティスは呼べる。
帰るだけなら……手段はある。
けどここは、少し、気になるな。
調べたほうがいい。
ただの勘だが……まぁ外してはいなかろ。
場所を覚えながら、進み始める。
基本的に、左手壁伝いに沿って。
…………あれ?何か、聞こえる。
道は……覚えてる。大丈夫だな。
ちょっとルート外れるけど、向かおう。状況確認が大事だ。
犬の、吠えるような声。
たまに、人の声も。
あと明らかな、戦闘音。
……犬、がわからないけど。
この音、特にぶつかる感じの、やつ。
たぶん結晶と……鉄骨のような、重い何か。
あいつ、かなぁ?
足音。
こちらに近づいてくる。
向こうは見えてるかわからんし、先に声かけるか。
通路を曲がって。
その向こうに、一人と一匹?四足獣の影が見える。
魔物のように、大きいのじゃない。でも大人の腹くらいまでの背丈があるな。
犬?の方が、こちらに警戒を示し、少し唸り声を上げている。
『サク、どうし――――』
間違いない。あの結晶の少年。全身が漆黒の結晶に包まれている。
前のとき、ボクの目の前で石になりやがった、カール・シーボルト。
またの名を。
「ようクラソー。変なところで会うな」
会うのはだいぶ久しぶりだな。
四年ぶり?
『……………………』
……そこ黙るとこか?
「名前忘れたとは言わせねーぞ?
覚えるって言ったの、君だからな」
『覚えている。ハイディ。なぜここにいる』
当然の疑問か。
「第六皇子の取り巻きの持ってる魔道具に、門を開けるのがあったみたいで。
それでここに落とされた」
『多少の事情の察しはつくが、だからといってこうはならんだろう……』
なっとるんだよ。ボクのせいじゃねぇ。
「で。向こうに敵がまだいるんだろ?どんくらい?」
『100は下らん』
よく逃げてこれたな??
特に接近されてる感じはない……向こうの性質が特殊なのかもしれんが。
もしあの洞窟で遭った奴らなら、魂の相手でなければ、特に興味がないのかもしれん。
ああでも、魔物は貪り食ってたか。ありゃ何でだろうなぁ。生態が謎だ。
で、気になるのは。
なんで逃げて来たし。
「敵は君の剣で破壊できる程度の結晶強度で、ディックには及ばないと見るが。
合っているか?」
『…………合っている』
「もう一つ。人を取り込んでいるか、わかるか?」
『いない』
やっぱり。敵自体は最近見たあいつらか。
なんでこんなとこいるのか?はわからんが。
しかし、クラソーにも情報は伝わってるようだな。
こいつたぶん、スノーと仕事してるんだと思うんだけど。
今何やってるんだろうな。そのまんま、魔晶人の調査か?
まぁいいや。
荷物を、ちょっと隅に置いてっと。
さすがに素手では分が悪かろう。
加えて、一人しかいない場合、アウラの力は借りられない。
phase3は使っても、あの鎧は起動しない。これはフェーズを進めても同じだ。
天井を改めてみる。
左右を見渡す。
よし。広さ十分だな。
ならば。
あれで行こう。
「ん。じゃボクがやるから。休んでな。
まぁ……イスターンで危機を教えてくれた、借りを返すってやつで」
『……好きにしろ』
クラソーは納得したのか、壁にもたれかかって休み始めた。
やはり、敵はちゃんと撒くと追ってこないってことかね。
ではお許しもいただいたことで。
派手にやってやろう。
次の投稿に続きます。
#本話は計5回(10000字↑)の投稿です。




