9-6.同。~しかし悪意はこびり付くように~
~~~~ビーム??え、悪役令嬢?????
「舐めるな女ァ!」
「ホリック!?」
制止も聞かず、大柄な少年が階段から飛び掛かってくる。
掴むように、両の手を構えて。
その身がリィンジアの左手の先を越え、彼女に近づいた瞬間。
彼女が左腕を、回すように跳ね上げ。
そのまま背後を向きながら、振り落とした。
少年が、その手に触れてすらいないのに、巻き込まれ――――
「 控 え ろ 」
地面に叩きつけられた。
足元が僅かに揺れる。音が響く。
…………倒れた少年は、白目を剥いて、明らかに意識がない。
「頭が高くてよ」
残心を解き。
リィンジアはスカートの埃を払った。
ウィスタリアが場違いに大喜びし、跳ねている。
いやまぁ、うん。ボクもストックがこれやったら、大喜びだわ。
かっこよすぎだろ。
邪魔がなくなって、堂々と寮に入って。
二人の部屋を、30分ずつくらい検めて。
リィンジアの部屋の小テーブルに並べたそれらを、見て。
「やっぱやつら斬るべきでは?」
まぁ気持ちは分かる。
10個くらいずつ、小物が出て来ちゃったからね。
「落ち着けウィスタリア。リィンジアも落ち着いてね」
「私は冷静です。
下に戻って踏みつぶしてきます」
「冷静じゃねぇだろ座ってろ。
とっくに運ばれてるだろうに」
「そうでした。
……どこの部屋か、虱潰しにしなくては」
「早く冷静さを拾え。男子寮だぞ、普通入れねぇよ。
ウィスタリア、手ぇ握ってあげて」
「よっしゃ!」
「ちょ、ウィスタリア!
ひ、ひとまえ、はれんちで、ちょっと絡めないで!?」
よし大人しくなったな。なったな?
「で。どうするんだハイディ。これは……」
「悩ましいところだね、ストック。
ダリア。いくつかは残滓の追跡ができるよね?」
小型の魔道具の数々を見て、ボクはついため息を漏らした。
「稼働中のものがあるから、好きなようにできるわよ」
「じゃあこっそり学園長のところに持ってった上で。
破棄してもらおう」
「「はぁ!?」」
ウィスタリアとリィンジアがおこだ。
気持ちはとってもよく分かる。
これらは監視系の魔道具だ。女子の部屋に隠していいものではない。
「ギリギリ、所持や使用が違法ではない代物だ。
使用者追跡はできるが、仕掛けたという証拠がない。
盗まれたか落としたものが使われたと言われたら、証明できない」
「なんとかなりませんの!?」
「だから君らはうちで引き取るって言ってるだろ?
学園長に知らせるのは、全寮検査してもらうためだよ。
その上で、犯人捜しはしない」
「なんでよっ」
「落ち着けウィスタリア刀出すな。
奴らを今学園から追い出したら、動きが追いにくくなる。
司法で捕まえられない敵で、かつ今は殺せない相手だ。
それを野放しにするのか?」
「「ぐ」」
ん。理性は働いているようだな。よしよし。
「あとさらに踏み込んで言うが。
何らかの手段で『実行犯にされて仕掛けた』子がいる可能性もある。
その子を捕まえて、満足か?」
「もやもやが募りそうですわね……」
「納得いかない……」
「ボクだって納得いかんわ。
これはその、実行犯……つまり何らかの術で操られた子を、見つけだすための対処でもあるんだ。
そしてこういうのは、いたちごっこでも、ひたすら穴をふさぐのが定石だ。
そいつらに目を向けるな。今と、未来の被害の可能性に、視野を広げろ。
ボクらより先の時代の子らを守るため、せいぜい奴らの悪事を使ってやれ」
「「…………」」
よし、落ち着いた……落ち着いた?なんか変な黙り方したな。
「あなた……」「歳いくつよ?ぜったい12じゃないでしょ?」
君らがそれを言うんかよ。
「中身はえーっと。ストック、いくつだっけ?」
「ちょうど30くらいだな」
「だって。呪いの子ってやつだ。一度時間を遡ってる。
ウィスタリアは察しがつくだろう?」
「ん……そういうこと。
ほんとにストック様の探し人なのね、あんたが」
「そうだよ」
やっぱりこやつが、石になったボクの後に現れた子か。
「はぁ……年の問題ですらない気がして来たわ」
「こいつ、話聞いた限りだと、ほんとに12くらいの頃からずっとこんなよ。
私が会ったのは13だったかしら?それから変わってないわね」
そうだっけか。
ダリアと会った時期は、確かにそのくらいだが。
何かリィンジアとウィスタリアにめっちゃ見られてる。
淑女がそんなに人をじっと見るなし。
「そういう子なのね……よくわかったわ」
「気にするだけ損ですね、リィンジア様」
「そうね」
どういう納得の仕方だこら。
まぁいいけどさ。よくそういう扱い受けるし、慣れたもんだ。
「呪いとかもなかったし、とりあえず調べるのはここまで。
あとは二人、少し持ち物整理してて。
ダリア、ストック。お願いできる?」
「「わかった」」
「あんたはどうするのよ?」
「そりゃあこいつを学園長のとこに持ってかなきゃ」
「ひとりで…………大丈夫そうね」
なんだその間は。
「ボクになんかあったら、ストックが絶対見つけてくれるし。
異次元からだって帰ってくるから、心配すんな」
「してないわよ。
いやちょっとまってなに異次元ってどういうこと?」
「実話。じゃああとよろしく。また戻ってくるから」
大きめの布に包んで、魔道具を全部持って、担ぐ。
そのままリィンジアの部屋を出て。
階段を下る。
一年の部屋は二階。学年が上がると、さらに上の階になる。
階段を下ると、共用部。浴場とか、食堂とか。
貴族は使わなそうなものだが……便利なので稼働率はいいらしい。
食堂脇を抜けて。
入り口を目指す。
そろそろ夕暮れかー。外の日差しが赤くなり始めてる。
ん?今、食堂から、テーブルを叩く音がした?
そして足音。走る、ような。
開けっ放しの扉から出てきたのは、黒い髪で、眼鏡の。
確かさっきの……共和国の子かな?
その子が、何か、棒……杖を持っていて。
その先がボクの足元に向いて。
魔力光が走った。
床があるはずなのに、足場がなくなった。
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