9-5.同。~幼き敵は、障害にすらならず~
~~~~おい、リィンジアまで脳筋かよ。大丈夫かこいつら。大丈夫だったのか??
「なんだ、リィンジア。それにウィスタリア」
「殿下。そちらで何かされているのでなければ、お退きいただきたいのですが」
「なぜだ」
「部屋に戻るからですが」
残りの少年たちが、それぞれに少し笑う。
「お疲れなのでしょう、殿下。何せ」
「派手に決闘して、介添え人に倒されて引き分けになったとか……」
「騒ぐだけ騒いで、だらしのない女どもだ」
こいつら、あの決闘見てなかったんだな……。
見てたら怖くて、そんなこと言えないだろ。
なお二人とも、もうぴんぴんしておる。
あれだけ大技連発しといて、信じられん。
魔素の回復早すぎんだろ。
「お前の指図を受ける謂れはない」
「指図ではなくお願いですが。それでもですか?」
「願うというなら恭しく頭を垂れ、未来の夫に忠節を示せ」
また薄く笑い声が。
何だこの茶番は。
リィンジアも……めんどくさそうにしている。
顔には出てないが、ため息をつきそうな雰囲気だ。
ウィスタリアはにっこりしているが。これ、危ないな。
いつ刀が出てもおかしくない。
静かにブチ切れている。
「どうした。俺の命が聞けないのか?人形」
む。後ろに回している手に、仄かに魔力光。
精霊が反応しないのは……先日使った、人間用の式じゃないからか。
だが、一手遅かったな。
クレッセントに繋がりがあるなら。
敵の女が一緒にいることを、もっと警戒しろ。馬鹿め。
「…………?」
皇子が首を傾げている。
当然、何も起こらない。リィンジアは平然としている。
さて。早速使ってくれるとは思わなかったが。
いくらか仕込ませてもらった魔導で、そいつは対策済みだ。
そして。
「ダリア、ど?」
「一致率92%。アウトよ」
さっすが大魔導師。ボクも同意見だ。
「あなたが魅了の魔法を使用したのは、二回目ですラース皇子。
精霊の検知範疇は下回っていますが。
あなたに学園が送りつけた警告文の、明文規定を上回っています」
「平民。出鱈目で俺を惑わそうというのか?」
何が出鱈目じゃボケェ。
「馬鹿ね。学園仕様の計測機器を使ってるに決まってるでしょ」
ダリアが手に持った、手のひらサイズの円盤をひらひら見せる。
魔導検出用の汎用的な魔道具だ。
一定以内の距離で使用された、魔導の検出・計測に使われる。
あらかじめ登録しておいた式に対してなら、比較して多少の解析もしてくれる。
うちが作って、学園に売った代物だ。
皇子の後ろの少年たちが身構えた。
大人しくする気はねぇかぁ。そうかぁ。
証拠抑えられたからって、暴れてどうにかなるもんじゃねぇんだけどな。
リィンジアが少しだけボクを見た。
ボクは目で頷く。
ここに風紀委員とかはいないので、第三者が取り押さえるのは基本NG。
だが、被害者の自力救済は認められている。
リィンジアが手を目の高さに掲げ、右目を隠す。
…………あれ?それさっき使ってたヤバイビームじゃないの??
「あー、えー、なんだったかしら。
面倒だわ」
――――『かなりの悪役令嬢ビーーーーーーーム!!』
目からビーム出た!?それで出んの???
皇子に思いっきり直撃し、爆発した。
謎の煙が立ち込める。
あんま煙くないけど、視界が悪い。
「おいリィンジア……」
「加減しましたわ」
「リィンジア様のビームは、活殺自在だから大丈夫よ」
なんだそれはウィスタリア。本当にビームか?
意味がわからないんだが???
ボクの獣の矢だってビームだが、そんな真似できんぞ????
いやそうじゃなく。
婚約者を、思いっきり成敗したわけだが?
「君、実家……」
「ミスティ先生とは、とても良いお話ができました」
「そうか。ならいうこたぁねぇや」
ミスティは詰めが甘いところがある。前の時間では、それで失敗することもあった。
けど今は、もう8年近く一緒にいる、最高の助手がついてるしな。
大丈夫だろう。
煙が晴れて。
後には、なんか服が多少焦げて、倒れ伏すラース皇子が。
「皇子!?」
「しっかりしてください皇子!」
「やりやがったな!」
いきり立つなめんどくさい。
「皇子はお疲れのご様子です。
お部屋にお連れして、休ませてあげてくださいな、あなたたち」
そうやり返すのかよ。ちょっと笑っちゃいそう。
「貴様ッ」
「抑えろホリック!皇子を運ぶのを手伝え」
「だが!」
「構いませんわよ」
「「「っ」」」
リィンジアが、両手を水平に広げると。
裂ぱくの気合いに押し出され、まだ僅かに飛んでる煙が散った。
悠然と構えをとり。
少年たちに向かって横半身となり。
左手を差し向けて。
「学園では、別に私闘は禁じられていません」
まぁ、その通りだ。
現場を押さえられれば仲裁も入るし、罰も与えられてるけど、禁止ではない。
決闘は、やるだけなら罰がないのと、賭けとその結果保証があるのが違いかなぁ。
「来なさい」
リィンジアが左の手のひらを上に向けて。
来い、というように煽った。
次投稿をもって、本話は完了です。




