9-4.同。~結ばれた奇縁と、断りたい因縁~
~~~~魔導は確かにかかっていたが、ウィスタリアは素だった疑惑があるな……。
めんどくさい奴の説得を続ける。
「今あの皇子がいなくなると、かえってリィンジアが動きにくくなる。
今後の大事な展望に、支障を来すぞウィスタリア」
「…………仕方ありませんね」
大人しく座ってくれた。
リィンジアがほっとしてる。
……これ多分昔も、切れ散らかして大変なことになった口だな、ウィスタリア。
リィンジアは武闘派だがお嬢様できるくらいには落ち着いてるし、苦労したんじゃなかろうか。
ぱっと見、ウィスタリアが淑女の始祖たる聖女と言われても、信じられないけど。
礼は完璧だったし、こやつリィンジアには淑やかに尽くすんだろうなぁ……。
まぁ、物騒な逸話山盛りの、聖女様らしいといえば、らしい。
「さて、じゃああとはせっかくだし、ここの主要人員に紹介しておこう。
各人の核たる事情とかはまだ話せないから、そこはおいおいね。
それからアウラ寮の君たちの部屋、持ち物をチェックだ。
いいね?」
「わかったわ」「よろしく」
「じゃあまずボクだ。ウィスタリア」
「へ?」
手を、差し出す。
「普通のめんどくさい女だと思ったけど。
惚れた女に向かう君の目は、確かに美しかった。
よろしく」
「っ。何よそれ、口説いてるの?」
言いながらも、ウィスタリアは握手してくれた。
もう融合は起こらない。
「まさか。ボクはストック一筋だ。
君こそ……ボクのストックに、手を出していないだろうね?」
ちょっと手に力籠っちゃったけど、こんなの誤差だ誤差。
「ちょ、あんた力強っ!?だ、出してないわよ!!
顔がリィンジア様に似てるだけで、別人でしょうがっ」
「OKわかった。君が理性的な人間で何よりだ。
好みだからと見境ない女だと、さすがに付き合いづらい」
手を離す。
…………そんな痛そうにしなくても。強くは握ってないよ?ないって。
「……釘差しってこと。
せっかくだから、あんたの知らないストック様のこと、教えてあげましょうか?」
「趣味があわねーな。それをストックから聞き出すのが楽しいんだろ?」
ウィスタリアがなぜか意外そうな顔をして……笑った。
後ろで拭いてるストックは、後で尋問します。
「いいえ、気が合いそうね。よろしく、ハイディ」
こんな変態と気が合ったら大変だぞ聖女様。
…………なんでリィンジアは楽しそうなんだね?
◇ ◇ ◇
リィンジアとウィスタリアを引き連れて、アウラ寮にやってきた。
他の子はパンドラへお帰りだ。転送施設の方へ行った。
ああ、ストックとダリア大先生には、ついて来てもらってるけど。
寮はだいたい、その領地に縁のあるものが入る。
ランダムな振り分けとかはない。
一応、希望は聞いてもらえる。
国内の人間は、出身の領地と同じ精霊の寮に入る。
外国からの学生は、縁のある者を頼って、その寮に入ることが多い。
まったく縁のない希望者も入れるが……そもそも部屋数に限りがあるので、伝手のある者が優先なのだ。
縁のない外国人は、アウラ寮に押し込められるのが通例だった。
あるいは、自国の中型以上の神器船に住み、そこから転送で通う。
あとは、学園北側にある下宿町だな。
船や寮に入れるお貴族様だけが、学園に通っているわけではない。
平民もいる。そういう者たちが主に、学園北門と直結している、下宿町の宿に住んでいる。
寮はちょっとお高いからな。設備がいいけど。
ウィスタリアは、普通は船から通いか、下宿の方になるんだが。
なんか入寮希望だったので、アウラ寮に回されている。
クレッセントの商取引周りは追っているが、そんな余裕があるとは思えねぇなぁ。
やはり帝国か聖国から、かなりの資金が流れ込み続けていると見ていいだろう。
リィンジアも特に伝手のない外国人寮希望者なので、アウラ寮に入っている。
数に制限があるのに、すんなり入れるじゃないかって?
アウラ寮は人気ないんだよ。
最近までシルバ領が滅んでたせいで、どこの王国貴族とも縁ができないから。
むしろ外国人同士の集まりになって、却ってやりづらいんだとか。
それでも逞しく縁をつなごうとする者か、行く当てのない者がアウラに来ていたらしい。
シルバ領は今は復活してはいるわけだが。
当のシルバ公爵は表に出てこないし。
幾人かシルバ関係者はいるが、だいたい教師か、あるいは寮に入らない。
そんなわけで、今年も引き続き、アウラ寮は変わらず不人気で。
外国人のたまり場になっている。
そう……こいつらとか。
四人、少年が寮の入り口にたむろし、こちらを伺っている。
ラース・クレードル第六皇子と、その取り巻きだ。
改めて頭に入れた情報と照合する。
共和国、常任議員ロール家の縁戚、タール家子息のメザイヤ・タール。魔道具科。
黒髪黒目、しかも眼鏡は、ちょっと珍しい。ベルねぇの親戚にあたるが、タール家は議員輩出もなく、パッとしないとか。
なお共和国には貴族階級はないので、よその国から見ると、この子はただの平民である。
聖国、枢機卿も輩出していたロイド家縁戚の、ワード家令息ホリック・ワード。法術科。
ワード家自体は子爵位だったかな?本家筋があって、そっちがロイドと近い親戚のはず。
大柄、鳶色の目に茶髪の少年。法術より腕っぷしに自信がありそうに見える。
そして皇子と同じ帝国人、国の神器戦士職である騎士爵のブレン家子息、エリック・ブレン。魔術科。
帝国の騎士爵は他所と違って、一代爵位ではない。ちゃんと生き延びているなら、継承は可能だ。
しかし騎士の息子にしては、本人は派手な赤い髪と目に似合わず、気弱そうな印象だ。
…………こう、微妙なところが寄り集まって、一発逆転狙ってるような集団になっている。
しかも関係性が見えにくい。が……おそらくクレッセントとどこかでつながるのだろう。
寮の入り口には、数段ほど階段があるんだが。
そこを四人で塞いでる。
分かりやすい態度だなぁ。
だが相手を間違えてるだろう。
明日の朝まで眠ってもらうくらい、わけないんだが。
ただまだ肌寒いし、こんなとこで寝たら風邪は引くだろうな。
ストックと見合って、肩を竦めると。
リィンジアが、前に出た。
……興奮を促す魔導は解いたはずなんだが。
意外にこの子、喧嘩っ早い?
次の投稿に続きます。




