8-4.同。~帰還せよ、我が契約者~
~~~~娘たちはもちろんだが、ボクは二人にも敵わない。……先を目指す必要が、ある。
ウィスタリアが椅子に座って、ぐったりしている。
控室まで戻ってきたところで、動けなくなった。
……これ、魔素の使いすぎだな。
かつてボクがなったほどひどくはないが、一時間はまともに動けないだろう。
「…………ありがとう、ハイディ」
「ボクはなんもしてないが」
「そうじゃないわよ。見たでしょ?
あれがリィンジア様。
私が腑抜けていたわ。
迷いなんてあったら、粉々にされていた」
「それについては、まったくもって同感だ。
無事で何よりだよ、ウィスタリア」
汗をタオルで拭いてやって、冷たいお茶の入ったボトルを差し出す。
「あの子何者?」
布の下でにっと笑った彼女は、ボトルを受け取って中身を喉に流し込んだ。
そして答える。
「星」
「は?」
「星という生き物。
地上最強の生物。
聖女リィンジア」
聖女怖い。
「それより、私が聞きたいのはそっち」
ウィスタリアの目が、シフォリアを見てる。
「私の奥の手が、完全に破られた。
自分を上回る不動剣の使い手は……初めて見たわ」
だからなんだよその不動剣って。
「ウィスタリアは動いてる。不動の域に達していない」
「こわっ。人間じゃないでしょシフォリア先輩」
「しっつれーな」
シフォリアはそうは言うが、とても楽しそうだ。
ウィスタリアから、飲み切ったボトルを受け取る。
「でもそうね。甘い技だった。温過ぎるわ。
クエル先輩も滅茶苦茶ね……。
リィンジア様が、普通に殴り倒されるなんて」
星を殴り倒す我が娘。どうなってるの。
さて……驚いてばかりはいられない。
ボクもちょっとは仕事しよう。
「ウィスタリア。君さ、今の君について喋るのを禁じられてるね?」
「…………答えられない」
「それ、呪いだろう。解けるけど」
「本当!?」
「本当。お手の物だ。うちくる?」
「…………お邪魔するわ。あ、敵情視察とか、しないから」
おや。素直か。
「大丈夫だよ。学園内でやるから」
「??????」
「シフォリア。パンドラ飛べる?
魔導師の誰か、学園に戻るように言って」
「はいはい。じゃ、やっぱダリアさん連れてくるのがいいっしょ」
シフォリアが虚空を一薙ぎすると、その向こうにパンドラの廊下が。
彼女が飛び込むと、裂け目はすぐに消えた。
「…………やっぱり人間辞めてるじゃない」
「ボクに言われても困るわ」
思わず顔を見合わせると。
変な心地になって、二人で噴出した。
「あーもう。あなた変な女ね」
「そうだね。君だってそうだろ」
「そうね」
うーん……ちょっと早いかもしれないけど。
「ウィスタリア」
「なに?」
「握手してもらえない?」
「っ、だめ」
やっぱりか。予想のうちの一つだ。
ほら。魔晶人が「自身の魂を追い求めて彷徨う」って言ったろう?
この子の場合、同じ『ウィスタリア』を求めるわけさ。
触れたらおそらく、融合する。
それも、ウィスタリアベースで。
それでゲームをなぞらせるというのが、狙いだろうな。
もうクストの根もいないのに、なんのつもりなんだか。
「ボクはそうしたらどうなるか分かって言っている」
「は?え、どういう……」
外の扉がノックされた。
「いいよストック」
ストックと、リィンジアが扉を開けて入ってきた。
「え、なんでわかったの今」
「わからいでか。君はリィンジアの接近がわからんのか?」
「わからないわよ……えぇ~」
なんで引くんや。君だって相当な変態だろうに。たぶん。
「何か随分仲良くなったな?」
「…………そうね。あなたとよりは」
ストックとウィスタリアが視線を交わしている。
「その話は今度詳しく聞きたいが。
ストック、そっちは?」
「説明はした。応諾された」
「え」
ウィスタリアが呆然としてる。
「ウィスタリア。あっちはやる。
だがはっきり言うが、両方やらないと、対処できない。
意味わかる?」
「脅しじゃないのそれ!!」
「でも君、彼女を人質にとられてるんだろ?
どうする」
「…………ひどい聞き方」
ウィスタリアが、深く息をし。
膝に力を入れ、なんとか立ち上がる。
「リィンジア様」
「なにかしら」
「決闘の賭けとは別に。
必ずお話します」
「儲けものね。たまには全力を尽くしてみるものだわ」
「私はもうごめんです。
……ハイディ、お願い」
よっしゃ。
ストックと二人、腕輪を回す。
「いくぞ」
「おうとも」
ボクはウィスタリアの手を取って。
ストックはリィンジアの手を取って。
融合しようとするその体を――――知恵をもって押さえつける。
やっぱり、か。
この子たちは、ボクとストックが体に取り込んだものと、同じ結晶で受肉した存在。
それと融合させることで、ボクらをゲームの存在に戻そうとした……それが敵の戦略。
読み通りってやつだ。
そして備えはばっちりだ。
『こんなこともあろうかと』!
「「『救世の 獣よ。今こそ』――――」」
中空にまだらの空間が現れ。
そこから蒼い神器車がやってくる。
前後の節で分かれたそれは、変形し、ボクらの体を包む。
「「『精霊 に、 至れ』!!」」
さぁ帰ってこい!
アウラ!!
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