8-2.同。~すべての淑女の祖よ。女の希望よ。立て!~
~~~~言っちゃなんだが、同性愛にまともに悩んでる人、見たの久しぶり……スノー以来?
ボクは密かに嘆息する。
じれったいが、まぁ人の悩みは様々だ。
だがそれはそれとして――――そこで淑女の祖にうじうじされるのは。
気に食わない。
「ちなみにボクはストレート、ストックが同性愛者だ」
「は?」
「ストックを気持ち悪いなんて思ったこと、一度もない。
同性を性的に見てしまうことも含めて。
ああ、ストック以外は男性でもダメだ」
「なによ、それ」
「そういうもんだろ。君だって、女なら誰でもいいのかよ?」
「そんなわけないじゃないの!」
「その通りだ。好きな人以外ダメってのが、当たり前で。
性別の話は、その次だ。
逆に考えるな。
それともまさか君、ストックでもよかった、とか思ってるのか?」
「ち、ちがっ」
口滑らせてるし。余裕ねぇな。
「…………でも、こわい、のよ。あんたほど、割り切れない!」
「ボクだって怖いわボケェ。呑気なやつめ。
この半島では、一秒先に相手が死んでることがあるって、自覚足りないんじゃないか?」
「ッ!?」
顔が青ざめてる。
そのくらいの修羅場は、経験があるか。
「惚れた女がすぐそこにいんのに、怖いとか言ってる場合か。
あの子は君の望みを、その賭けを承服したんだぞ?
そばにいてもいいと言ってくれる相手に、何を迷う」
「でも!リィンジアは!私に、寄るな、と」
「そんなことは言っていない。
本心を隠し、秘密もりもりですり寄る君が鬱陶しいだけじゃないか」
「うっと!?」
「君が彼女を、性的に見ているのはあちらにはバレバレなんだよ。
で、それでもそばに寄るなと、一度でも言われたか?よく思い出せ」
「…………言われて、ないわ」
「あまつさえ、この決闘での景品はなんだ。
あんなの、そばにいていいって公言したようなもんだろうが」
嫌ならそもそも、賭けを承服しない。
もちろん、絶対勝つって驕りがあるとか。
そうしてでも秘密が知りたいっていうなら、話は別だが。
立会人として話したときのリィンジアは意外にも、怒ってるけど冷静で。
ボクの目には、そういう愚鈍には映らなかった。
もちろん、この点は介添え人として、リィンジアに確認済みだ。
本当にあの景品でいいのか、と。
勝てなかったら払うことになるが、それでもいいのか、と。
同性愛者が生理的に受け付けられない人だって、そりゃいるだろう。
そうだったら、非常につらいことになる。お互いにもっと傷つけあうことになる。
そう説明しても、彼女は「二言はない」と言い放った。
まだ会ってたった数日。
それでも別に、リィンジアはウィスタリアが嫌ではないのだ。
だが一方で、正直第三者から見ても、この子の態度は鬱陶しい。
そりゃあの調子であれこれ心配されたら、嫌な気分にもなろう。
ウィスタリアはちょっと、気持ちが先行しすぎてて、相手が何も知らないってことに考えが及ばないんじゃないかな。
きっと、寮でもあの調子だったんだろうしなぁ。
そりゃリィンジアは切れるだろうよ。
しょうがねぇなぁこいつは。
めんどくさいやつめ。
「ウィスタリア」
顔を上げる彼女の目が、迷っている。
ただただ、否定し、怯える色だったその瞳が。
光を求めている。
ならば。
星の輝きを見ろ。
ボクの宿業が、溢れ出る。
「一瞬だ」
「へ?」
「君にだって、技があるんだろう。
その必殺の一撃に、何秒も使うか?」
「いや、使わない、けど」
「ならばそれと同じ、刹那の時でいい。
怖いものに、立ち向かうのは。
勇気を、振り絞るのは」
「い、っしゅん……」
「身の上も、秘密も、何もかも忘れろ。
今そこに、あの子のそばにいるための、最高のチャンスがある。
集中しろ。
その怖さを打ち破るために、ありったけの勇気を振り絞るんだ」
彼女の目から、余計な光が消えていき――――。
その奥に、小さな炎が灯る。
「どうせ彼女しか目に入らないんだろ?
だったらこれは、いい機会だ。
決闘中は、どれだけ見たって怒られない。
気持ち悪いと、ののしられることもないだろう。
大事なものから、目を離すな。
君の情動すべてを集中し、息をしろ。
一瞬でいい、閃光のように――その業を研ぎ澄ませ」
ウィスタリアが立ち上がる。
彼女の呼吸が、深く深くなっていく。
赤い光が、静かに漏れ出す。
「あの……っ!?」
高等部とみられる方が、決闘場側の扉から現れ……ウィスタリアを見て引いた。
「呼び出しお疲れ様です。
行こう、ウィスタリア」
頷く彼女を、先導する。
ウィスタリアの後ろからは、なんかめっちゃ笑顔のシフォリア。
さぁ、聖女と謡われた女よ。
すべての淑女の始祖よ。
宿業が溢れるほどの、君の情念。
見せてみろ。
次の投稿に続きます。




