8.学園決闘場。名誉より、己が存在を賭けて。
――――経典にもない、二人の聖女の、戦い。
決闘場は、敷地北西、魔道具棟と、ノーム寮の間にある。
結構広いんだよね。決闘場は俗称で、普段は実験場・実習場として使われている。
規模の大きい破壊を伴う場合、こちらが使われることが多いそうな。
また鍛錬場が別に北東にあって、魔導を伴う実習に使われるのがそっちだ。
ただ体を動かしたりするのにも使う。
違いは……周囲に対する防御機構がそこについてるか、ついてないかだな。
さてその決闘場。
コロセウムっていうやつ?ほんとあんな感じで。
観客席があって、決闘時は流れ弾が行かないように魔導で保護される。
確か決闘じゃなくて、武芸大会みたいなのここでやるんだっけ?
前の時間のときは、ボクが入学する前にご時世からか開催されなくなったそうだけど。
当時はドーンが滅び、王国は飢饉も始まってめっちゃくちゃだったからね。
ボクらが参加すると、大荒れになるからやめた方がいいだろうな……。
ギンナとメリアの大魔導師コンビ。
クエルとシフォリアの達人コンビ。
もうこれだけでおなかいっぱいだ。絶対出たくない。
ところで。
そろそろ現実に向き合いたいところ、だが。
ボクの意識がそんなところに飛んでいるのはだね。
その。
気まずい。
決闘する者それぞれに、控室があって。
ボクとシフォリアは、今ウィスタリアと一緒です。
怨念渦巻いてる女と一緒は、普通に気が重いです。
放課後。
それぞれの控室に入ってしばらく。
今は決闘場の防護魔導の準備待ちだ。
そこが整ったら、呼び出しが来るはず。
ちょっと時間かかってるみたいだ。
まぁ、年初早々の決闘だからねぇ……普通ないって。
しかも、初等部一年、戦略科の魔力なしで、女同士。
あほか。
思わずため息が出た。
「…………馬鹿々々しいって顔ね?」
「別に君のが、じゃないんだよ。
ボクは決闘が嫌いだ」
「何よ、したことなんてないでしょうに」
「それ、知ってて聞くんだ?」
「…………」
図星かよ。そこで黙るなし。
まぁボクの行動は、ゲームのそれからは逸脱しすぎている。
呪いの子って概念は、この半島では割と知られているらしいし。
当然神主連中も、ボクはそういうものだと思って行動していることだろう。
その神主・東宮が運営しているだろう、神器船クレッセントにいる、この子も。
ウィスタリアは今は寮住まいだが、その前はあの船にいたことは、調べがついている。
「……あなたいったい、何なのよ」
「ストックの旦那」
「はぁ?ストック様は女でしょうに」
「ストックが同性愛者だって、知ってるんでしょ?」
目を逸らした。腹芸下手か。
「ついでに、この国は同性婚OKだから」
「は?」
おや、こっちは食いついた。
「う、そ。私が、いた、ころは」
駄々洩れである。
「王が女性で、その伴侶たる王妃も女性ということは、歴史上割とある。
男性同士ということも。
国の元首が法に合わない状態になるのはまずいから、法を現実に合わせたんだよ。
君の時代にもあったはずだ。
聖暦元年にあたる、霊暦5914年。
その頃のエングレイブの王家は、アイラ王とシーラ王妃。
女性同士だ。知ってるよね?」
「っ」
霊暦っていうのは、王国固有の暦。
ただここ数百年は、聖暦を使う方が多いらしい。
聖暦は、聖教成立の年だ。つまり……聖女没年。
あとついでだから触れておくが。
女性の王は、女王とは呼ばれない。王は王だ。そこに性を求めない、そうな。
王妃の方についても、男性でも王配とは言わないらしい。なぜだ。
「………………あの子、たちは。特別、だった」
まぁ王と王妃だからな。精霊が認めるなら、法なんて関係ないのが王国だ。
それはそれとして、法はもっと早くに追随させるべきだったが。
何千年あったと思ってるんだよほんと。
しかしこの言い様、直接の知り合いだったんかなぁ。
「私たちは!そうじゃなかった!だから国を出たのに!」
「聖女リィンジアは、そういうつもりじゃなかったと」
「あんたに何がわかるのよ!」
「君こそ何を知ってるんだよ。振られたんだろ?」
「振られてなんて!!」
「……告りもしなかったのか」
すげー睨まれた。
「同性、同士、なんて。
そんなの、気持ち悪いって、おもわれる……」
「君それ王国で言ったら不敬だかんな?
同性王家は結構あるんだぞ??」
「私たちは王族じゃないっ」
「いや、王族が許されるんだから、民がやっても許されるだろ。
そういう文化記述は結構残ってるぞ。寛容だったって。
実際、法改正されて最初は様子見だったけど、今じゃ同性婚申請かなり来てるそうだぞ?
この国としては、とっくの昔に許容なんだよ。
1000年程度前なんて、同じだろ」
「…………でも」
黙ったってことは、そこ図星なんかよ。
前のボクの価値観だったらついてけんわ。先進的すぎんだろ王国。
次の投稿に続きます。
#本話は計4回(8000字↑)の投稿です。




