7-2.同。~百合がまた咲く予感しかしない~
~~~~やる気があって素晴らしい。だら淑女先生は見習え。
エイミーが出て来た。
この子、朝弱いんだよね。
いつもはマリエッタが連れてくる。
「まりえったぁ。おちゃ」
マリエッタはさっき食べ終わって、もう工房に行ったぞ?
とりあえず、コップに冷たいお茶をさっと次いで出してやる。
「おはようエイミー。マリエッタはもう工房だよ。
今日から新しい鋼の生成に入るって、聞いてたでしょうに」
「ありがとうハイディ。そだっけ……」
頭はいいのに、たまにエイミーの記憶はざるだ。
なお教師陣だと、ベルねぇとマリーはとっくに出勤済み。
ミスティはメリアを鑑賞している。手伝え。
他の大人……クルーの人たちは、だいたい別のとこ。
いくらか専門の料理人を雇ってるから、食堂も増やしててね。
ああ、あと。大人と言えば。
ビオラ様はすぐそこで、スノーの相手だ。
……まぁこの二人は、休日にお仕事だったしな。
今日はギリギリまでいちゃつくがいい。
パンドラの雑務を一手に引き受けてくださってるエリアル様も、配膳や片づけて忙しそうだ。
調理はこっちでやることにしてるんだけど、とにかく他のあれこれも多いからね……。
一人で回すの大変じゃねーかな?と思うんだけど。仕事はいつの間にか片付いている。
さてそんな大人たちとは違う、だる淑女のエイミー。
椅子に座り、テーブルに顎を乗せ、猫のように伸びている。
やる気がまったくなさそうだ。
エイミー当人は、1曜日は午後からしか授業がない。
学生の登園時間には行くが、朝一で学園にいるほどの必要はない。
これに関しては、ミスティも一緒だ。
「で。何でそんなにだるそうなのさ」
お茶をあっという間に飲み切ったので、改めてあったかいのを淹れにかかる。
湯が沸くのを待つ間、髪の跳ねを少し直し、曲がった襟を整え、ついでにボタンの掛け違えを直す。
お化粧乗りもよさそうだ。不摂生はしてないな。よしよし。
ちょっとエイミーの顔が赤くなり、目がしゃっきりしてきた。
「ん……ありがとう、ハイディ。
えっとね。昨日学園長に呼び出されちゃって」
いつの間に。
お茶を注ぎながら考えるが……。
「君、学園の研究室では爆発させてないだろ?」
「そーなのよー!何かと思って行ったらさぁ」
「あの二人をパンドラにぜひ、って?」
「うん」
やっぱり来たかぁ。
一昨日、二人の評価をまとめておいてよかった。
「所長?」
「いいわよ」
「はやっ!?いいのビオラ様」
「ハイディの評価はよかったもの。
学習状況、本人の資質、積極性。
背景も含めて、特に問題ないわ。
個人的な面倒を見るか、というところまでは保留ね」
この「個人的な面倒」とは、面倒ごとになったとき我々がフォローするか?という話。
まぁ言っちゃなんだがオリーブに関しては問題ないんだよ。
この場合は、リコを指してるわけで。
別にあの子、まだ常任議員辞めてるわけじゃないんだよね……。
パンドラに招き入れるのは、表の身分を加味するととても問題がある。
他国のひも付きになってしまうからだ。
違うって言い分を、王国や共和国に納得させられない。
連邦の場合はそも、王国とは友好的かつ、パンドラは共同開発の船。
だから問題がなかったわけだけど。
なお、ベルねぇも共和国の評議員だが、あっちはパンドラの職員だったのが先だからね。
むしろ帰化にあたって、よく問題にならなかったよな……。
ただ、リコが表向き学生として名乗っている身分が、元ドーンの神学校生。
これを公式に使っているということは、ロイド家が噛んでいる。
正直それなら、直接向こうから紹介が来てもいいような気もするけど。
厳密にはモンストン侯爵ヴァイオレット・ロイド様は、うちのスポンサーの一人で、上ってわけじゃない。
パンドラは王国所属なので、いきなりロイドから人をねじ込むのはNGだ。
だからまぁ、学園を通じて……というところなのかなぁ。
そういうあたり、ヴァイオレット様はきっちりしてる。
ま、リコもオリーブのこともビオラ様が知ってたから。
とっくに情報共有はしてたんだろうけどね。大人の仕事が細やかで、楽でいい。
で。面倒……といっても。
実際のところ、内部的にはそれで問題が起こるわけじゃない。
ちゃんとパンドラに来れるのなら、リコには預けた名……目帚を返してもらうつもりだ。
かつての時間でもらった、ボクが彼ら箒衆の主人であると示すもの。
こちらで再会したとき、一時彼女に返上した。
がっつり共和国の中枢に噛んでる、しかも諜報能力を持つ彼女を。
国の研究機関に招き入れるわけには、いかなかったから。
そばにおけないのに、主人も何もあったものではない。
だから、ここの条件がクリアできたなら、よしとするつもりでいた。
だが……思ったより早かったな。
もっとかかると思っていたから。
ん?あれ。これそれだけじゃなくて、ひょっとして。
面倒って。
「二人がくっつくかもって話ですか?」
まぁその場合、どちらも同性婚を認めてる国同士の婚姻になるから、いいんだけど。
いやいいのか?よくわかんねぇな。
「そ。まぁ……さすがにそうほいほいくっつかないとは思うけど。
これまでのことを鑑みるとねぇ」
エイミーはお茶吹かない。
ん。服は汚してないな。ちょいちょいと布で拭きとって、新しくお茶を注ぐ。
しかし、くっつくねぇ……。
娘二人が結ばれたのを見たばかりだし。
リコはともかく、オリーブは何かこう、リコに対して特別な感情がありそうだし。
リコはああいう……ボクみたいな、平ための体型がお好きだし。
…………これ、もう無理では?
次の投稿に続きます。




