6-4.同。~姉は拳を極め、愛を誓った~
~~~~そうはいっても、10歳以降が凄惨な未来なら……やっと普通に生きられてるんだもんな。ボクの大事な娘たちは。
赤くなってる二人はそのままに、話を進める。
「まず、祝福を受けた理由は、ビオラ様が検討をつけてくれた。
王都が二つになったから」
「……それぞれの王都に、別々の王家が立つということか?」
二人が茹だっているので、ストックが参戦してきた。
「あくまで、王家精霊の契約者が二組になるだけ、だと思うけど。
精霊にとっては、国って枠組みは認識できないものらしいよ」
「そういうことか……」
「その上で、条件を満たしたから、祝福を受けた。
二人が出会っていること。
思いが通じ合っていること。
これがビオラ様の見解」
「「…………」」
指絡めんなし。君らお互いがめっちゃ好きやんけ。
「二人は元々、法的には姉妹としては登録されていない。
王家精霊は近親者同士は認めないそうだから、認めている以上、姉妹判定ではないとみなす。
なのでこのまま、婚姻を結んでもらう運びとなる」
「「ほんと!?」」
「ほんとだよ」
二人が見つめ合ったあと。
力が抜け、へたり込んだ。
…………ああ。姉妹だから結ばれない、って思ってたのね。
ボクだってそう思う。誰だってそう思う。
「いやさすがに納得いかんぞハイディ。
ああ、気持ちの問題ではなくてな。
姉妹ではない、という理屈だ」
「二人それぞれを設けた、ボクとストックが別人」
「ん?んー……ハイディの記憶はどうなる。
あ、いやいいわかった。それで髪の色とかを聞いたのか」
「そうだ。ボクの記憶ではいまだに、クエルもシフォリアもこの色だ。
でもクエルにとってのシフォリアは、紫髪赤目の妹。
シフォリアにとってのクエルは、紫髪緑目の姉。
ただ目の前に現れた二人で、ボクの記憶は都合よく混ざったんだと思う。
10歳までは、ほぼ細部まで一緒の未来なんじゃないかな」
あと……これは予想だが、もう一つ。
「それから、クエルはボクが、シフォリアはストックが未来から呼び寄せてる。
成型した魔素が別々のはずだ。
だから近親者という判定を受けないんじゃないかな。
ボクとストック、それぞれの魔素を使ったのだとしたら。
そりゃ別人だろう」
「記憶情報の上では、違う未来の子だから姉妹じゃない。
肉体的には、元となる魔素が通常の子と違い、父母両方のものではないから、姉妹ではない。
そういうことか」
「たぶんね」
なお、あのクストの根は魔素がなかったから、奴は関係なし。
魔素的には、ボクらの複製に近いのかもしれない。
中の魂が、全然違うけど。
「王国としては、祝福を受けた以上、二人を認めざるを得ない。
認める内容は、婚姻と王族としての扱いだな。
負わされる責任としては、旧王都の領主……これを契約省の補佐でやる可能性が高い。
その上で、なんだけど――――聞くまでもないかな?」
二人が、頷く。
「やります。シフォリアと一緒にいられるなら」
「領主くらい、完璧にこなすよ。クエルとは、離れたくない」
変に背中押しちゃったなぁ。
覚悟決まっちゃってもう。
しかしちょっと気になるんだが。
「二人とも、なんで今更になって急に好き合ったし?」
「「ん”!?」」
二人そろって言葉に詰まった。
ついストレートに聞いてしまった。
ストレート……と言えば。
「ボクが四年、見て来た感じじゃ、君ら女性には興味ないだろう。
これまでだって、互いに思慕を抱いているようには見えなかった。
そんなにコンクパールで見たお互いが、綺麗だったか?」
「えっとそれは、その……そうです」
クエルが思わずといったように口を開き……続ける。
「僕はずっと、こっち来てからシフォリアが妹だって思ってて。
髪が違うけど、そうなんだって……思い込もうとしてて。
でも、どこかでわかってたんです。違う子なんだって。
あの、喧嘩した日からずっと。
妹のシフォリアは、優しくて、自分は後回しにするような子で。
いい子なんですけど、僕はちょっと不満で」
たぶん、その妹の最期を思い出しているのだろう。
クエルの瞳が、揺れている。
「この子は――優しいけど、ちょっとわがままで。
強くて、意地があって。
ぜったい……僕を一人にしないって、信じられる。
もしも最期があるのなら、自分を犠牲にしたりしないで。
二人で立ってくれるって、希望が持てる。
それを、その、さっき。
直視してしまったと、言いますか。
目が逸らせなくなった、と言いますか」
君は……一緒に生きて欲しかったんだね。
わかるよ。大事な人に死なれるのは、とてもつらい。
その人が生きあがいてくれるのは、本当に心が救われたような気になる。
自分もって、立ち上がりたくなる。
「本当は……妹にもう一度会いたいって、頑張ってたんですけど。
会ってみたらシフォリアは別人で。
それが最初は悔しかったけど。
でも、今はどうでもよくなってしまいました。
僕の妹は、ちゃんと死んで。
僕も、それに、少し向き合えて」
四年という時間は、その死を受け入れるのに使われたのか。
「シフォリアは妹だけど、別の子。両方、受け入れなきゃいけない。
そうしないのは――――僕に会うために極めてくれた」
そっと、クエルがシフォリアの右手を、握りなおす。
甘い、光景に見えるのに。
彼女の熱量に、気圧されそう。
「この技に、失礼です」
次投稿をもって、本話は完了です。




