6-3.同。~共に生きるため、地獄より戻り~
~~~~君は中身がっつり女の子だし、普通に欲しがってたもんな。
ビオラ様が、顎に手を当て、思案されている。
「マドカとアリサね……あの子たちは念のため、もう少し様子を見たほうがいいと思うけど」
共有されている情報だと。
ゲーム『揺り籠から墓場まで』は、1,2,3の作中時間が8年おき。
つまり、ボクらが15・6の頃まで待ってマドカとアリサが残れば、問題ないとなる。
……あれ?そういや2のヒロインと悪役令嬢は、もう生まれててボクらの五つ下なんやが。
とっくに、ゲームと決定的に一致しない事項が存在するとみていいのか……。
ま、だからこそビオラ様も、念のため、というのだろうけど。
とはいえ。
「それを言い出したら、なぜ呪いの子は元の時代に帰らないのか?を考えないといけません」
「そこよねぇ。『帰らないもの』とするほうが、明らかに現実に即してる」
「どのみちボクらが子を設けるなら、18くらいからです。
何なら22前後までは待ちますけど」
「様子を見つつ、検討しましょう。
とにかく、精霊の祝福があった以上、二人の処遇は王国としてきちんとしないといけない。
あとは余談ね。おいおいやっていきましょう」
「ええ。旧王都領主にできそうか、二人が婚姻を結べそうか、確認をお願いします」
二人が頷く。
…………あれ?
この話、なんかそういえば、引っかかる、ような。
スノー、王家精霊、領主、叙爵、忠告――――
「姉上?」
「ああ、ごめん。後はないよ。
時間とってもらって、ありがとうね」
スノーがちょっと笑う。
……うん。この子は割と、善意の子。
そしてちょっと、心配性。
確証はないけど。
そこが繋がっていく。彼女の言動の、違和感と。
ボクが……何年もかけて準備してきた、危惧と。
あとその件で重要なのは、あれだな。
「その場にいること」だな。
忘れないようにしよう。機会を逃したくない。
もう絶対、失わないように。
「じゃあ、ボクは二人に、兄弟姉妹周りのことをもう少し聞いてきます。
明日にでも共有しますので。
では、お休みなさい」
これで大事な話は終わりだ。
席を立つ。
「ああ、ちょっと待ってハイディ」
「ん?なんです、ビオラ様」
ビオラ様は何か、思案してらっしゃる。
なんだろう。
「この6,7曜にお会いしたとき、アリシア様に言われたの。
あなたを見ておくように、と。
それから。
『祖に気をつけろ』って。精霊の囁きらしいんだけど」
「そ?」
「始祖、よ」
いや、そりゃ想像はつくが……。
「何の始祖だ、ビオラ」
「それが……アリシア様もよくわからないらしくて」
精霊の囁きだもんなぁ。具体的なところは、わからないこともあるらしいし。
だが。
「母上が言ったのだとすると……」
「呪いの祖、だろうね。普通に考えれば」
「クストの根は倒したでしょう、姉上」
「ありゃ呪いそのもので、魔物じゃないってだけで。
呪いの大元じゃなかろう?」
「それは……確かに」
「ハイディ。普通に考えない方、は何?」
「精霊の祖。
いれば、ですけど」
ビオラ様のお顔が、珍しく険しくなっていく。
「王ではなく、祖ですか。
過分にして、聞いたことはないですが」
「いえ、います。
今の周回では、失伝しているかもしれませんが。
かなり昔。それも、霊暦の浅い頃の資料にありました」
この世界は、何度も同じ歴史を繰り返している。
ただ完全に同じじゃなく、螺旋階段のようなもの……かな。
ビオラ様は、その周回を結構経験し、覚えている方だ。
霊暦というのは聖暦以前の暦で、王国固有のものだ。
今は霊暦7011年。
「呪いの祖と戦う旗印となったという、『祖霊』。
名や種族名は伝わっていませんが」
「それに気をつけろ、と?」
「呪いと精霊、どっちかは分からないけどね。
なら……備えておきましょう」
場合によっちゃ、両方かもしれないし。
「備えられるの姉上!?」
「その祖霊も、精霊ならば領分がある。
単純に考えれば……精霊そのものだろう。
なら呪いの力でも使って挑むさ」
「えぇぇぇぇぇ……できるもの、でしょうか」
「そりゃボクには他の手段があるもの。
精霊魔法使いだったら、諦めて膝を折る相手じゃないかね」
「でしょうね。だからこそ、あなた向けの警告なのかもしれないわ」
つまりその「気を付けて」は。
害の向く相手が、ボクではないかもしれない、ということだ。
ならやるしかない、か。
「あとは……ないですか?」
「ええ。引き留めて悪かったわね。
おやすみハイディ」
「お休み、姉上」
ボクは今度こそ、二人の私室を辞した。
◇ ◇ ◇
お部屋に戻ってきたら。
なんか娘二人が、ストックにめっちゃよしよしされてた。
なんでや。
「あぁ、おかえりハイディ」
「「お母さま……」」
何この空気。
二人、なんか目がうるうるしてるし。
ストックも沈痛な面持ちで。
あれか?未来の詳細でも聞いたか?
ボク今からこの中で、君たち好き合ってるの?とか聞くの?
新手の拷問?
まぁいいや。まず情報確認だ。
それから方針を伝え。
意思と、気持ちを聞こう。
何か言おうとするストックを手で制して。
「先に、こっちから確認させてもらいたいことがあるんだよ。
クエル、君の妹の髪の色は何色だ?」
「「っ」」
「シフォリアもね、お姉ちゃんのこと、教えて」
ストックはちゃんと言葉を飲み込んで、黙ってる。
えらい子。
「じゃあ先に答えやすい方。
二人とも、兄弟姉妹は全部で何人?」
二人が、顔を見合わせて。
「僕は、一人です。赤紫の髪で、赤い目の妹。シフォリアだけ」
「私も。クエルの髪は少し白の混ざった紫で、目は緑だった」
全然別やんけ。
「でも……僕の妹は、今もここにいるんです」
「私のお姉ちゃんも」
二人胸に手を当てて……おい。なんだそのえぐい話は。
特に飢えて死んだっつークエルの話は、容易に想像がつくぞ。
そしてシフォリアも同じかよ。地獄絵図過ぎんだろ。
「じゃあ君らの目の前の子は、多少似てるけど別人か」
「ん……まぁ」「そうです」
見つめ合って赤くなんなし。
「お姉ちゃんは、こんなかっこよくなかったかな……」
「妹はこんなに素直で、かわいい子じゃなかったです」
手を取り合って睦み合うな。親の前だろ。自重しろや。
これだから精霊愛され系は。
「君たち、王家精霊が同時に祝福する理由くらい、覚えてるね?」
「はい……」「まぁ、うん」
耳まで赤くなってく。
というか、申告に従うとこの子ら今、中身は20歳前後なんだが。
なんだこの、何。初々しすぎひん?
次の投稿に続きます。




