5-5.同。~美しきものに、祝福が降り注ぐ~
~~~~コンクパールは……最近になってようやくまた、好きな山になった。君と来るように、なってから。
「『あの山は生きている。
その山頂から見えるのは。
半島の遠い思い出、そのものだ』」
「もしかして、魔素の……?」
魔素は、情報を内包している。
人の魔素なんかは、それで様々なものを受け継いでいる。
「かもね。確かにここは地上にしては、魔力が濃い。
ダンジョン並みだという話もある」
定点的な計測が行われていないから、あくまでそういう話がある、くらいだが。
コンクパール公を始め、幾人もの人たちが実感としてここは生きていると、そう述べているらしい。
ボクにこの場所を教えたのはアっさんだが、彼も同じ意見だそうだ。
魔力が濃く、魔素が多いからといって、それに保存された情報が見えるかというとそうでもない。
そんなことになったら、ダンジョンは幻惑だらけで大変だ。
だから。
「ボクの見解だと、ここで見えるのは、見ているその人の思い出だ。
広く旅した人ほど、遠くまで見えるんじゃないかな」
「「…………」」
ボクの娘たちが、遠く遠くまでを見ようとしている。
いや、見えているのだろう。
物理的に見えないところまでは、無理なんだけど。
それでも本当に遠くまで……思い出とともに、見せてくれるんだよ。
「ボクが君たちを……未来を含めてここに連れてこなかったのは。
まぁそれが理由だ。まだ綺麗に見えないと思ったから。
あるいは、綺麗なものが見えないかもしれなかったから」
ボクの中にある彼女たちの10歳までの記憶では、この山に連れて来たことはない。
この子たちは、国の外には出ていなかったから。
たぶんボクらはその頃、パンドラお休みして、領に籠ってたんだと思う。
4年前に聞いた感じでは、彼女たちの10歳以降のそれぞれの未来では。
広くは旅しているものの、大層な地獄の様相だったようだから。
さすがにちょっとどうかなー?と思って、誘うのをやめていた。
でも、先ほどこの子たちが見せた技は。
その本当の力は。
ただ生き抜いたからと、身に着くものではない。
あれは。
地獄から天を向いて立ち上がった、尊い意思の証。
ボクの娘たちの、誇り。
ならばここから。
君たちが美しく見えるものが。
必ずあるはずだ。
「ただ、ここで綺麗に見えるのは、景色だけではない。
例えば――ボクはどう見えてる?」
「あ、えと。お母さまは……とてもお綺麗です」
「お母さまが綺麗なのは元からだけどね!」
そんな馬鹿な話があるかね。
君らちょっと美的感覚おかしくない?
まぁ振った手前、そう見えてもおかしくないかな?とは思ったけど。
…………照れる。
「ストックはどう見える?」
「「直視できない」」
そうか。君らもこんな綺麗な人を見れないとは、もったいないねぇ。
「ではそろそろ……聞かせてほしい。
君たちが、何のために戻ってきたのか」
二人がようやく。
お互いの顔を見た。
……まぁ、そうだろうねぇ。
時間を遡るほどの未練といえば。
君らの場合は、それぞれの未来で亡くなってしまった、姉妹に違いあるまいよ。
固まっちゃったから、しばらく待ってあげようかね。
夕日がとっても眩しいし。
その頬を流れるものは、見ないでおいてあげよう。
ストックはまぁ。
さっきからボクしか見てないし、心配いらない。
二人がこっちを見てないうちに。
そっとストックの手をとって、寄り添った。
寄り添って…………やばいものが見えた。
「おいストック、目を覚ませ。起きろ」
「んぅ……ハイディ」
甘えるなやかわいいか!娘の前だ自重しろ!
そしていいからボクから目を離して周りを見ろ!
ボクは今見えているものが幻覚なのかどうか、早く確かめたいんだ!
「ぁ……ルナ。久しぶり?」
「ソル。なんで?」
ぎやああああああああああああああああああああああああ!!
なんでや!!
君ら四年前に再会してから、こんなことなかったろ!?
なんだ、条件はなんだ!
スキンシップはとってたし、手ぇつないだからとかじゃねぇだろ!?
今何が芽生えた!ボクは何の地雷を踏んだんだ!!??
「祝ってくれるんだ」
「ありがとう……」
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
しょく、祝福だぁ!!大惨事だあああああ!!!!
誰か教えてくれ!
同じ時代に王の指名が二回あった場合!
何がどうなるんだ王国は!!
ご清覧ありがとうございます!
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