5-4.同。~娘たちよ。怨敵と向き合うならば、どうか共に~
~~~~ぅゎむすめっぉぃ。
しかし、二人が本当にこだわってるのは、別の奴じゃないんかね。
「ターゲットは東宮なんじゃろ?」
「「…………はい」」
ゲーム『揺り籠から墓場まで3』のプレイヤーの分身役、神主・東宮。
結晶を使い、キャラクターを強化することができたらしい。
『アルケミスト』だっけ?錬金術とは……皮肉か何かか?それは。
他の神主……中宮と西宮はスノーが倒したとのことなので、残りはこいつだけ。
隠れるのがうまいらしく、所在が掴めないのだそうだ。厄介な。
奴はクストの根によって、この時代に召喚された。
それから引きこもって、結晶を使った各種技術の研鑽をしていたと見られる。
以前に出て来た結晶兵や、ディックの結晶化もその成果だろう。
二人に以前聞いた、未来の話によれば。
単なる結晶化だけではなく、魔物の取り込みにも手を出しているそうだ。
一つが魔晶人。結晶と魔物、そして人の融合体。
作成時点では結晶と魔物による、ある種の人型の魔物。
流れは効かず、魔導も効かない兵隊。
これには、各自が「自身の魂を追い求めて彷徨う」という性質があるらしい。
魂の持ち主を取り込み、黒い本当の姿を取り戻す。
当人に成り代わったりはせず、ただ暴れるだけだそうだが。
「あ、これだけ先に聞かせて。
二人とも、ブレイクみたいに……取り込まれた人は助けられるんだね?」
「はい。というかそうでないと、僕たちもう精霊に罰せられてます」
なるほど、それは一安心だ。
娘たちが人を殺し、精霊に罰せられることはなさそうだな。
で、もう一つが魔獣。魔晶人が……呪いの結実を見たもの。
つまり、呪文の獣と同じだな。
あまり数はいないらしい。向こうの切り札なんだそうだ。
「結晶……魔晶人だっけ?あれの対処には他の人も巻き込みな。
あと魔獣ってのもいるんだっけ?」
「魔獣はちょっと、他の人には無理です。強力すぎます」
「わかった。魔獣と東宮は任す。あとは回しなさい」
「「はい」」
バックミラー向こうのシフォリアは、いい顔してて。
たぶん、クエルもだろう。
「ただ、魔獣は出現して暴れ、君たちが持て余すようなら、こちらでも対処する」
「無茶だよお母さま!いくらお母さまやお父さまだからって……」
「ボクらが、いくつ切り札用意してると思ってるんだよ。
あと、魔獣になるのはそれ、呪いだろ?門で魔獣状態が解ける」
「「あ」」
呪いの結実を見るというが、技術から考えるとそれは人ベースのもの。
大型の魔物や、邪魔クラスの呪いは、人では真似できない強度を持つ。
だがそれらには及ばないだろう。中の人間が耐えられないからだ。
ボクやストックの呪文の獣は、時間逆行があるから成立していたもの。
普通の人間では、決して手が届かないし、扱えない。
そしてその程度の範囲なら、ダンジョンの門を通ると強制解除される。
門を生成する魔術で、対策可能だ。
「その魔獣、ダンジョンに出たことってあるの?」
「ないよ……そうか。そういうことだったんだ」
シフォリアも納得したようだ。
「門の生成は、ボクらのアウラの鎧でも扱える。
前は結構な補助の重ね掛けが必要だったけど、改良してね。
他にも使い手もいるし、なんとかなるよ。
もちろん、二人に倒してもらった方が早いんだろうけどね?」
「それは、お任せください」
「奴らなら、斬り慣れてるから」
そうか。
二人とも……未来では本当に大変だったんだな。
「じゃあ二人とも、沙汰を言い渡す」
二人が生唾飲んで身構えてる。
いやそこ、そんな真剣に構えるの?ノリいいな??
「君らの情報を書面共有せよ。
終わるまで食事は抜きだ」
「がふ」「そんな……」
娘たちがシートに沈んだ。
「終わったらいっぱい抱きしめて。
好きな物たくさん作ってあげる」
「ほんと!?」「お母さま今すぐ帰りましょう!!」
復活早いわ。逞しいな。
「だーめ。
お楽しみはこれからだし、お弁当だって用意してあるよ?」
「「いだたきます」」
切り替えが早いわ。
…………まぁいいか。
ストックがとっても楽しそうだし。
ボクもとっても楽しい。
いいドライブになりそうで――――
「見えて来たよ。最北の山頂だ。
夕焼けには……間に合ったね」
◇ ◇ ◇
「こんなに標高が低いのに……遠くまで見えるんですね」
クエルが、後方の山脈と見比べながら言う。
ここは全体が「コンクパール山脈」というけど。
実は「コンクパール山」は最北のここ。
中ほど――もっと南の、高いほうじゃない。
登山家たちは、高い山々を目指すのだけど。
かのコンクパール公爵がその名をつけたのは、ここだった。
「『まさにこの山こそ、半島すべてを睥睨できる場所だ。
ここに当家の名をつけさせて頂けるなら。
それはどのような領土を賜るより価値がある』
だって」
実は西の連邦の三日月も、ちょっと見えたりする。
広がる魔境の都合なのか、本当によく見えるんだよ。
山脈でももっと標高が高い方は、どういうわけかそんなに遠くまでは見えない。
「確かクレードル・コンクパール公爵だっけ?」
おや、よく知ってるじゃないかシフォリア。
大層な名前の御仁なんだよ。
半島の名をもらい、その半島が見渡せる場所に家名をつけた。
「そうだよシフォリア、よく知ってるね。
かの冒険家が、その功績から叙爵した折に述べたものだ。
またこうも言っている」
ボクも何度もここに来た。
見えるものは、そのたびに変わった。
始めは、こんなに広くは見えなかった。
あるいは、どこもかしこも美しいとは思えなかった。
最初に綺麗だと思ったのは……いつだったか。
たぶん、友達ができて。
彼女たちと、少し遠出するようになった頃。
皮肉にも。
その友達6人を殺したときが、最も美しく見えていたと思う。
時間を戻ってからも見に来ているけど。
……ボクが一番きれいに見えるのは、景色じゃなくなってる。
この場所は。
ボクの隣に立つストックが、とても美しく見える。
今は……娘たちも、とてもきれいだと思う。
次投稿をもって、本話は完了です。




