5-2.同。~輝きをもって、外道を制す~
~~~~こんな形で、またダンジョンに来ることになろうとは。厄、落ちるかなぁ。
召喚即変身。
状況により必要だと考え、つけた機能だ。
なお、「二人いれば」phase3はちゃんと起動できる。
忌み名は使えないけど、ちゃんとアウラの加護は受けられるんだよ。
ボクは魔素を展開し、鎧を起動。
ストックの体からは赤い宿業が渦巻き、彼女もまた立ち上がった。
ストックはどうも……宿業そのものをエネルギーとして使えるようだ。
波を操る呪法を体得しているから、かもしれない。
本来、宿業というのは力ではなく、証というか、閾値というか、そういった程度のものなんだが。
ストックはそこからエネルギーを取り出し、自らの力とできるようだ。
だから祝いの獣も独力で至れるし、アウラの鎧も起動できる。
ボクは、あの呪いを反転した祝いの獣には、自力じゃなれないんだよね。
技術の補助が必要だ。
『……不気味なほど静かだな』
そうだねぇ。
ボクにはちょっと、嫌な音が聞こえているけど。
この鎧は魔素を使って起動するせいか、より感覚が広く使える。
『静かではないし、静かに見える理由は分かるよ。
…………確認しにいく?』
『腰が引けそうだが、しょうがない。行こうか』
歩いて静かに移動し、そこを目指す。
近づくたびにはっきり聞こえるようになる音は……。
『咀嚼音……』
にしか聞こえないよねぇ。
そして徐々に見えてきたのは、大量の「食べ残し」。
おそらくはグレイウルフが……9,10頭分だな。
今食われているのが、11頭目。
それに何体もの「何か」が群がっている。
全身が黒い結晶で覆われている……ようにも見えるが。
関節等はむしろ、あれは魔物の硬皮じゃなかろうか。
魔物の皮膚に、結晶がついていると思えばよさそうだが。
『ハイディ』
『ダメだ』
小声でやり取りする。
スマッシュで倒すと、予想だが「取り込まれた人が死ぬ」。
あれをやるしかないんだが……。4,いや6体か。
『スマッシュからブレイクだ。どうだ?』
『…………わかった。やってみよう』
消耗が大きい。問題はこっちが持つか、だが。
最大の必殺技で、まずは当たる。
相手の実力を測るにも、それがいい。
『黒 点 よ』
『星 空 よ』
二人、礼をとる。
ストックが跳び上がり。
ボクは駆けだした。
連中が気づくが……遅い。
もう、紫陽花のポインターが奴らに狙いを定めていて。
藤の囲みが、お前らを逃がさない。
動こうとするやつは、藤に掴まり止まる。
動き回るやつは、紫陽花が追いかける。
『紫陽に』『紫藤に』
黒炎が駆け、紫陽花の花壇が、淡く太陽のようになる。
閃光が駆け、藤蔓の棚が、歪な星座となる。
『『輝け!!』』
二人駆け抜け、地にまた立つ。
振り向く我らの視線の先で。
結晶が砕け。
魔物の皮膚が……剥がれて行く。
魔素は乱した。もう動けない、はずだ。
『ギャアアアアアアアアアア!?』
『痛い、いたいなんだこれ!!』
『ヒィィィィィ……』
悲鳴が上がる。
……悪趣味な。
『行くぞストック』
『ああ』
腕輪を逆に回し。
両の腕に、魔力の緑の光が灯る。
一人三体……ギリギリだが。
『フッ』
『シッ』
二人駆け寄り、三体ずつに次々と拳を叩きこむ。
残された硬皮に、電撃のような光が走っていく。
『『結晶、粉砕!!』』
二人、力ある言葉を唱える。
魔術が起動し――結晶と魔物の結合を分解していく。
六人、人が倒れ込んだ。
…………息はありそうだ。特にケガもない。
痛い思いさせて、ごめんなさい。
『…………まずいぞ、ハイディ』
何が……言いかけて、気づいた。
咀嚼音が、まだ、する。
しかも、止んだ。
おい、スマッシュはともかく、ブレイクはしばらくエネルギー切れだぞ。
慌てて腕輪を戻しておくが、まだ魔力が溜まるのに時間がかかる。
『逃げる……』
『わけにもいくまい』
…………六人は、そのまま担いで運ぶには、ちょっと多い。
置いて行けば、犠牲になる。
変身を解けば、運搬はできるが。
その場合は、嬲り殺しだろうな。
相手は魔力流が効かない可能性が、高い。
ただの神器車では、的がいいところだ。
ネフティスはただの神器車ではないが……どうだろう。
この硬皮。まともにやって敵うかどうかは、五分といったところだ。
『倒した上で逃げるか』
『人が取り込まれていた場合は?』
それは……しょうがあるまい。
『一緒に精霊に罰せられてくれる?』
『もちろんだとも』
さっきくらいにスマッシュして。
それで止まったら、変身を解いて逃げるのが現実的なところか。
数が多かったり、どうしようもない場合は――覚悟を決めよう。
五体ほど、ゆらりゆらりと歩いてきた。
……?なんか、様子が違う。
『色が違うな』
『うん、緑だ。硬皮も、灰色くらい』
配色が違う。
異なる種。
あるいは……人を取り込んでいない。
二人頷き、構えたところで。
「おっじゃましまーす!」
えらく陽気な、聞き覚えのある声が響いた。
次の投稿に続きます。




