4-4.同。~神器学は別にキッチンから始まったりはしない~
~~~~マリーは一時お誘いが大量に来て大変だったが、すぐ結婚したのを背景に、毒を吐いて片っ端から撃沈したそうな。
『あと講義の前に。気になっている方もいると思いますので』
あ、例の件かな?
『聖国の出身者は、午後に説明会。
および引率をつけての、一時帰国が実施されます。
転送先にご家族の方がお待ちですので、ご相談ください。
詳しい事情などについては、後日学園からも通達があります』
法術科のあたりを中心に、少しざわつく。
それが静まるころをまって。
『では神器とは何か。その定義及び。
発見された新しい元素[Hr]の概要から説明していきます』
再び、マリー助教授の声が響いた。
ちらりと横を見ると。
ウィスタリアが、心配そうにリィンジアを見ていて。
一方のリィンジアは、講義に集中していた。
…………やるじゃないか、悪役令嬢。
「[Hr]が魔素と魔結晶を結合させた後の様態について――」
オリーブのこんな質問から、マリーと彼女のバトル?が始まった。
『この結合様態は数万種が確認されており、法則性は――』
「法則についての再現実験は――」
『共和国で魔術ベースで進められており――』
「他の魔導での検証は――」
『法術と魔法は本学にて――』
早くおわんねーかなー。
『では他になければ』
「あの!結晶の結合解除については!!」
教室がざわつく。
誰だって一瞬で、連想ができる言葉だったからだ。
つまりそれは、魔結晶ができた者への、救いはあるか、ということ。
ボクは答えようとするマリーを、目で制した。
彼女はボクを見て。
『続きは隣の研究室でにしましょう。
昼休みでよければ、おいでください』
「は、はい!」
オリーブが元気に返事をし。
……おや?リコがこう、何かすごく驚いたような顔で、オリーブを見てる。
その表情は一瞬で、すぐ隠れてしまったけれど。
まさかオリーブ、リコの多発魔結化症を治したいとか、そういう……?
この二人、見てても他人というには少し距離が近いけど。
まだ知り合ったばかりだろうに、何かあったのだろうか。
『内容については、いずれの講義で披露することにもなるかと思いますので。
皆さんはそれをお待ちください。
では今日はこれまで』
ちょうど鐘の音が鳴った。
慣れたもんだね、マリー助教授。
しても……。
次々と質問を飛ばしたオリーブ。
彼女の隣で、黙々とメモしながら魔術式を書いていたリコ。
エイミー先生や。ずいぶんな子らを置いて行きましたな??
◇ ◇ ◇
魔法棟三階大講堂脇、『神器学』研究室。
その日の昼。少し広めのその一室は――――
ただの食堂と化していた。
多い。パンドラでの食事よりは少ないが、人数多い。
経営戦略科のうち、ボクの友達や妹や娘やらが全員来てる。
ダンはさすがに、貴族の子と食堂に行ったようだ。
リィンジアとウィスタリアも、食堂だろうな。
まぁさすがに彼女たちはお招きしてないしねぇ。
いや、別にパンドラの面々も招いた覚えはないんだが???
で。それに加えて、例の二人も現れた。
質問に来た……はずだが。普通に混ざって食ってる。
なぜだ。
というか作った弁当はどうしたパンドラ職員ども。
早々に食べすぎだろ君たち。
おう、先生方はなんでこっち来た。
特にしれっと混ざっていっぱい食ってるエイミーとベルねぇ。
マリーはともかく、君らは自分の研究室に帰れ。
昼休み始まってすぐここへ来て以来、マッシュを作り続けるボクの手は高速回転が止まらない。
芋と豆を皮をむいて素揚げし!煮潰して!味付けて!
「へいお待ち!」
おっと連邦ラーメン屋の癖がうつった。
最近、ようやくパンドラに招聘できたもんだから、つい。
作ってもらう一方、ボクもたまにその技を学ばせていただいている。
「うま」「うまい」「おいしい」「二つ前の味ないですか?」
今遠慮がちに前の味を要求したのはリコだな!?
よぅし出してやる。さりげなく混ざりやがって。
ストックが高速で野菜や果物を切り、それでも足りないからとメリアが米を炊き始めた。
後半はお握りが参戦し、奴らの腹を埋めてくれることだろう。
今はマッシュあるのみ!!
「ハイディ、パンケーキが食べたいです」
新任教師が堂々としたもんだなミスティ!
「ちょっと待ってて。クリーム冷やしてるし、ストックが準備中」
「やった」
何名かの目が、ぎらりと光った。
…………見間違いではないと思う。甘味に飢えすぎだろう。
しょうがねぇ。ボクは欠食令嬢の味方だ。やってやらぁ。
次投稿をもって、本話は完了です。




