4-2.同。~金の精霊の加護を賜る、銀の位~
~~~~なぜこんなことに。だが一番わからないのは二人が「なぜ入学式にいなかったのか」だ。ボクの見間違えではない。
リコは忍という武術の一門の出。そして忍は同時に、諜報活動に携わるものたちでもある。
おそらく先の身の上は、諜報活動のためのものなのだ、とは思うが。
それを公式に名乗るということは、ドーン……ロイド家経由で紹介、身分を得てここに来ているのか。
なぜハイニル・ロールとして来ない。どういうことだ。
普通に常任議員様でええやろ。
なお、常任議員は議決票のある行政職のような向きが強く、能力ある共和国員なら誰でもなれる。
基準がめっちゃ厳しいけどね。
で、彼女たちの病気……というか、症状についてだが。
過魔力化症は、全身の魔素がほぼ魔力になってしまうもの。
病気というより体質だ。
症状としては、体力のなさなどに現れる。
ただ何らかの理由で本当に全部魔力になると、体が動かなくなる。
場合によっては、内臓の働きが止まり、危険だ。
多発魔結化症も体質に近いが、こちらはもう少し深刻。
内魔結晶ができやすい。気づかぬうちに重大な疾患を患う可能性がある。
二人とも、定期健診のほか、普段の生活でも気を付けたほうがいい口だ。
リコがそうなのは知ってる。
以前の時間で、診たことがあるから。
しかしこれ……学生身分という荒業で、パンドラこようって魂胆か?
常任議員として研究目的で来るのは、どうも時間がかかってるらしいんだよな。
だから苦肉の策ってことかねぇ。いやなんでそんなに来たいんだよ。
なお、リコについては表向きの身分の説明のみ、パンドラ内で共有されている。
彼女の裏の顔を知っているのは、ベルねぇとギンナ、ストック。
そしてスノーとビオラ様だけだ。
「見るのはいいが、なぜボクに」
「学園長に頼まれちゃって」
「むしろそうなら、学園長はなぜ最初からボクに頼まなかったし」
まぁ、頼んだ理由はだいたいわかるけどねぇ。
ボクはこの手の症状にも詳しい。
「んぐ。あなたは経営戦略科でしょうに」
「はぁ。教壇には立たないとはいえ、使ってくれていいんだけどな。
まぁ意図は機会があったら、学園長に聞くよ。
他に注意点は?」
「オリーブには、人に魔力を分け与えられる力があるわ。
注意してね」
この場合の注意とは、ばれて騒ぎにならないように、ということか。
いやいっそこの組み合わせは……なるべくこの二人、一緒にいてもらったほうがいいか?
多発魔結化症は魔素が不足しやすい。
魔導を使う場合は、外から魔力を供給したほうがやりやすいはずだ。
ただリコの気質的に……あまり女の子をそばにおかないほうがいいのはいいんだけど。
カワさんの子になんかあっちゃ悪い。本人たちの希望ならまぁいいとしても。
しょうがねぇなぁ。
「わかった。後は任せて」
「さっすがハイディ!じゃ、後でね。
二人とも、この子を頼ってね」
ボクに二人を押し付けて、エイミーは朗らかに去って行った。
「さて。まだ時間もあるから、改めて自己紹介ね。
王国所属研究所パンドラの職員、ハイディだ。
ああ、貴族もいるけど……ごめんねリィンジア嬢。
面倒だから、学内では砕けて話すから」
「構わないわよ」
リィンジアが返事をよこした。
ウィスタリアと違って、割とこの子はボクに好意的だな?
ところで娘が吹いてるんじゃが。なぜだねシフォリア。
職員って名乗りが気に食わんのかおおん?
「さて。それでだけど――」
「魔道具科にも顔は利くし、私も面倒見るわ。
よろしく、リコ。オリーブ」
ダリアが入ってきた。
「ダリア。君戦略科でしょうに」
「戦略科高等部だけど、魔術にも魔道具にも知り合いは多いもの。
何かあったら質問してくれていいし、名前出してもいいわよ」
「えっと……?」
リコの頭に疑問符を浮かべている。
まぁこやつ、皆の素性は知ってるんだろうけど、すっとぼけてるな。
こうなった以上、あとでちゃんとみんなに説明しておこう……。
「そこのダリアの前の名前は、サレス・アーサー。
連邦の元魔女姫」
「「「「えっ」」」」
「今は違うけどね。ダリア・シルバよ。よろしく」
「シルバ、公爵!?」
脇から驚きの声が。リィンジアか。
「違うわよ。
私は公爵家に養子入りした、マリーのお嫁になっただけ。
公爵家の次代ができたら、私とマリーは分家を作るわ」
なお複雑な話だが。
実はシルバ家の最年長に、ビオラ様がいる。
公爵はボクだが、その後見として入ってもらった。
まずボクを公爵にしてシルバ家を復興。
そこにビオラ様が籍を移してビオラ・シルバとなった。
ビオラ様はボクの血縁に当たるので、一応可能だった。
そしてビオラ様の養子という形で、マリーがシルバ入り。
ダリアはそのマリーと結婚し、嫁入りした。
なお、エイミーもシルバ姓となっている。
他の貴族家でもいいと思うのだが、なんか押し付けられた。
エイミーが功績を残せば、次はマリエッタが入ってくる。
爵位名と姓は普通分けるものなのだが。
国際結婚を兼ねている者も多いため、ちょっとややこしくなってくる。
そのためうちは、シルバ公爵家かつシルバ家だ。
ある種の初代ということでもあるしね。
まぁボクがわざわざそうしたわけではなく。
偉い人に丸投げしたら、なんかそうなったんだけど。
あとそうそう、娘たち。どっちかというと、これらはあの子たちのための措置と言ってもいい。
クエルもシフォリアも、シルバ姓だ。未来のものと、同じ。
この二人は、王国行政の契約の関係で、急いでシルバにしないとまずかった。
マドカとアリサに関しては、ちょっと保留になっている。
彼女たちに関しては、別に急がないんだよね。
未来で王国民だったわけじゃないので、急に生えてきた子で通る。通してる。
通るもんなのか?いいのか国家権力。
次の投稿に続きます。




