3-3.同。~その先に、聖女を見る~
~~~~今生でも人死にに立ち会ったりしたことはあるが。ちょっと今回は、規模が大きそうだな。
呪いのついての話を続ける。
「けどこのケースの場合、それを使っても呪い失敗となって、術者に返るんだよ。
失敗したら、術者は死ぬ。場合によっては縁者にまで呪いが返る。
つまり穏便に済ませるには、術者に呪いを辞めさせるしかない。
だが聞かなかった」
「利益の提示くらいはしたんだろうに……」
……せっかくだから、思いついた与太話でもしとくか。
まだ理性が残ってるうちに。
ストックの髪から、いい匂いしすぎるんです。くらくらする。
「もし、それが信仰だったら?」
「は?聖教は呪いを崇めるということか?」
「ん……なんというかさ。
ボクらのイメージする聖教は、ロード共和国の聖女派の方が近いんだ。
寛容で、寓話をたくさん集めてて。
でも聖国のそれ、聖書の教義はだいぶ違う。
正直、二つは同じ聖女を信仰しているとは思えない」
寓話集という体裁だが、共和国の残しているもの――経典はとても情報が正確らしい。
聖女が生きていた当時の内容を、かなり正しく残しているのだとか。
だがこの内容が、聖教の聖書にはほとんど反映されていない。
聖教聖女派とは言うものの、大元からして別の宗教だとしても納得がいくレベルだ。
「どちらかは聖女ウィスタリアじゃない、と?」
「あるいは、両方同じだけど、見方が違うというか……。
聖女ウィスタリアは存在し、両方とも認識している。
けど、信仰しているのは、共和国の方だけなんじゃないかなぁ」
「じゃあ聖国の方が信仰しているのは、何だ?」
「例えばだけど。
聖女リィンジア――とか」
「は?」
意外なものかねぇ。突拍子がないのは認めるが。
ヒロインと悪役令嬢が、その背景すらも対。
ありそうな話じゃないか。
現に、リィンジアも現世に蘇っているわけで。
ま、この辺は掘り下げても情報がない。考えてもしょうがないのだけど。
おっと、二人と言えば。
ちょっと印象を聞いてみたかったんだよね。
「ところで、君の元カノはどうたった?」
ストックがすげー吹いた。
むせてる。
背中撫でながら、やさしく聞く。
「何年も一緒にいたんだろー?
で、彼女で合ってるんじゃないの?」
この「合ってる」は。
ストックが前の時間で、ボクが石になった後に出会った、ウィスタリア。
そしてこの時間で、学園に来たウィスタリア。
二人が同一人物なんじゃないの?という確認だ。
「ぐっ……印象はまぁ、そうだ。
だが付き合った覚えはない」
「そうだね。信じてるよ」
ボクらは四年ほど前に婚約し、めっちゃラブラブになった。
それでまぁいろいろ話していたりしたわけだが。
ある時、彼女の黙っていることを、ようやく聞き出せた。
ストックは……嘘をついていた。
あるいは、真実を話していなかった。
彼女は、コンクパールで死んだわけじゃない。
石にはなった。だが神器フェニックスの効力で、生き延びたのだ。
あれは結晶化に対して、強い抵抗力があるからね。
使用者が死ぬのを、許さなかったのだろう。
そうして生き延びた彼女は、旅しながら神器の改良を始めた。
ボクを石から救うために、神器・聖人を作り上げたんだ。
より再生能力に特化した神器なら、結晶化を回復できるのではないか、と考えたそうだ。
だが石から戻ったその女は、ハイディではなく。
ウィスタリアを名乗った。
『ウィスタリア』役の<ウィスタリア>だったのだ。
ボクらの「ハイディ」や「ストック」のように。
「ウィスタリア」という名前の魂がいる。
…………この話には、たぶんまだ語られてない内容があるけど。
まぁそれは今はいいか。予想はついてるしね。
「で、その元カノ「元カノじゃない」はい。
ウィスタリアは聖教に謡われる聖女で。
しかもゲームの流れ……学園から、身の破滅までを語ったんだろ?」
この辺はストックに白状させた。
必要な情報だと思ったからだ。
そしてそれは……あたりだったようだ。
「ああ。私が、世界が魔界になって平和になる様を見せた礼として、な。
まぁ平和といっても、隣人が増えた、くらいの状態ではあったが」
「人間同士だって争うんだから、そら平和のうちだろ」
「違いない」
そしてこの、ストックが聞いたウィスタリアの話により、いろいろとつながった。
この話はちょうどその頃、アウラの変身の力が使えなくなって悩んでいたボクに、一つの知見を与えてくれたんだよね。
時系列に直すと。
まず最初、非常に古い時代に聖女ウィスタリアがいて。
彼女が死後、およそ1000年後に転生したのが、ゲームの主役相当の『ウィスタリア』。
ところがその後、ゲームの役として魂を固定されたんじゃないかな?
役とはいうけど、空っぽの器じゃなくて、それ自体にも魂があるというか。
だからこそ、役にも強制力があって、中に入った魂は自由に行動できたりできなかったりする、と。
その役が何万年、あるいは何億年と続いて。
つい最近、精霊アウラの力を得たボクとストックが。
『ウィスタリア』と『リィンジア』の魂を、その体から解放した。
精霊の忌み名として力を使えたということは、その魂が体を持たずに、精霊として存在するということ。
そしてしばらく時が経って、それが使えなくなったということは。
二人の魂がどこかで受肉した……ということ。
ストックの話で<ウィスタリア>が存在すると確信したボクは。
ミスティたちにお願いして、生まれただろう彼女たちを探してもらった。
そうして来歴の怪しい、二人の人間を見つけたのだ。
次の投稿に続きます。




