2-5.同。~かくて子の因果は、母に祓われた~
~~~~かーちゃんその冒険者っぽい恰好はなんだね。まさか暴れ回ってたりするのか?今も??
え、あれ精霊??いやえ、まさか???
かーちゃんは火の精霊、サラマンダーの使い手では????
ボクの母が。猛獣――まるで虎のように、笑う。
その右手を、天に掲げる。
そして唄う。聞いてはならない、名前を。
━━━━『サン・カサンドラ・サラマンドラ』。
ふわりと毛玉が浮いて。
一気に天へ上る。
そして世界が――輝く昼になった。
眩しくは、ない。
ただ、明るい。
空のすべてが、白くなる。
天に向けた王妃の手が、降りる。
無数の柱が、地上に降り注ぐ。
王都、だけじゃない。
たぶん……この国中、いたるところに。
呪いに反応して、そこに降りているのか?
近くの、ボクの倒した者たちにも降りて行っている。
そして……光の柱の中を、何か黒いものが登っていく。
空が、白から、黒へ。光の柱も、収まる。
柱に飲まれていた人は……特に別条はないようだ。
なんだ?呪いだけを吸い上げた?
「普段は焼いちゃっておしまいだけど、今回は王家特別製。
全部返しちゃおうね。ソル、ルナ」
━━━━『『エングレイブに祝いあれ』』。
別の、力ある言葉が響く。
まさか、王家精霊との合体技??
空の黒が、半分だけ白くなっていく……。
いや、スケール大きすぎてわかりにくいけど、黒い方が横を向いたんだ。
東を。
「明日の王都は晴れ。東の空には――――」
王妃の腕が振るわれる。
罪に、罰を。
「死の灰が降るでしょう」
黒い光が、放たれる。
あまりに大きくてわかりにくいけど……たぶん、聖国の上空で炸裂するんだろう。
そうして。
自称聖なる国に。
死の呪い返しを、振りまくのだ。
天の太陽が消えて、また静かになる。
実感というか、現実感が沸かないけど……これで終わったんだろうか?
失敗した呪いの結果は、原因に返る。
聖国は……大変なことになるんじゃなかろうか。
「学園には、結構聖国から来てる子とかも、いるんですけど」
「そういう子は貴族の子だから大丈夫。
呪いの使い手は宗教関係者……枢機卿とかだって、調べついてるから」
そうなのか。
そういやボクを浚ったのも、枢機卿じゃなかったかな。
やべぇのか、あそこの宗教家は。
「まぁ結構な呪いだから、あの国の中枢はいなくなるんじゃない?」
聖国は、宗教関係者が国の政治を牛耳っている。
貴族は領地は持つものの、中央の政には口を出せないらしい。
「それはまた、大混乱ですね」
「だろうね。警告はしてたし、突っぱね続けた結果だよ。
もちろん、あとの備えはばっちりだ。
君の友達は――優秀だね?」
あー……つまり。
螺旋輪廻を解除する、例のミスティの計画に乗らなかったのか聖国は。
王国に反発し、対立。独自の道を行こうとして――こうなった、と。
で、その後の混乱を収める手段も手配済み、か。
あと抑えられてないのは共和国だけ、だが。
あそこは帝国と聖国の間諜が跋扈してたから問題なだけで、本体は健全なんだよね。
いやそれにしても。
何で連中、ボクを狙って切り札を切ったんだろう?
「奴らはボクに、何らかの価値を見出してるんですか?」
「どうも、聖女の生まれ変わり、らしいね。向こうでは」
「はぁ?」
聖女って、千年前の聖女ウィスタリアか?
いや、生まれ変わりにしちゃあ、雑な扱いだったぞ?
誘拐されてた頃のボク。
まぁその説は完全に間違いではないけど。
人違いだ。
「聖女を上に据えて一発逆転、にしては雑では?」
「あんまり言いたかないけど……生贄に使うらしい」
「……何らかの呪いを使用、または強化するために、と」
「そう。やんなっちゃう」
そりゃ雑にもなるか……。
合点がいって、すっきりしたわ。
ひでぇ国だ。
よその国を呪いすぎて。
結局自分の墓穴を掘ったのか。
「ボクもやんなったので、癒されに行ってきますね」
「お、今日ストックちゃん迎えに行くの?
気を付けてね。一応、国内は警戒強めにしとくから」
「助かります。予定はお知らせしてる通りですから」
「あいあい。せっかくだから、じっさまにも会っといで」
ルビィ大公家は、アリシア母上の実家だ。
じっさまというのはご当主、アレクサンド・ルビィ様だな。
貴族のドンで、まだ現役。
ちなみにボクの祖父はその息子の、ゴンザレス・ルビィ様だ。
今は国防長官をやってる。なのでルビィ大公家にはいない。
「分かりました。ストックもお世話になってるので、ご挨拶してきます」
「ん。
…………えっとね。ハイディ」
なにかちょいちょいと手招きされたので。
クルマを降りて近づく。
「はい」
「無事でよかった」
そっと抱きしめられた。
…………人前じゃねーから、怒れねぇや。
ボクからもちょっと、抱き返す。
「ボクが呑気にしてられるのは、大人がみんな頑張ってくれているからです。
ありがとう、お母さま。おかげで幸せです」
「ええ子や……ん。娘分補給完了。
じゃ、後始末やっとくから」
身を離すと、母は手を振って元気に旧王都へ戻っていった。
いいのかなぁ、いろいろと。
…………この倒した人たちも、放置でいいってことだよな?
「あ、そうそうハイディ」
あれ、行ったと思ったのに戻ってきたぞ。なんだ。
「ストックちゃんを、離しちゃ駄目よ?」
…………スノーがかつて言ったのとは、真逆の意見だな。
ありがとう、お母さま。
「はい。決して離さぬよう、備えました」
「んむ。さっすが私の長女。
応援、してるから」
今度こそ、本当に行ってしまった。ダッシュで。
…………もしかすると。
ストックが最近してることとかも、知ってるのかな?お母さま。
ん。ボクも頑張ろう。
ボクはとりあえずネモフィラに戻り。
北へ向かう街道を、走り出した。
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