2-4.同。~これを蒼き蜂が舞い、刺し貫く~
~~~~本当にストックはボクに甘い。……ありがとう。また助けられた。
我が愛車の気炎が、濃厚な力となっていく。
それを開放する時が来た。
アクセルをふわりと離し――シフトレバー先端についてる、ボタンを押し込む。
レバーとハンドル操作を開始。
光が蛇行しつつ、駆け抜ける。
一射目。青い車体は連中のど真ん中まで突っ切り。
左前角を起点につんのめって、後部車両を振り回した。
魔力流が当たるが……やはり消えないな。だがこいつは特別製だ。
ただの呪装火砲ではない。「呪縛効果が乗った」呪い。
つまり、補助魔導なのではなく、そのものに強い効力がある。
魔力流や魔導が効かなくても、こいつはすこぶるよく効いてくれる。
それは呪文。効果は本来のものより弱いが、ボクが再現した獣の力だ。
こいつはメリアの……フジツボの獣の力を利用したもの。
仮に名をつけるならば、金剛呪装といったところか?
6人ほど、当たった奴は動いてこない。
体に侵入した雷光で、当分は身動きもとれない。
では。
再びレバーのボタンをオン。
数度ため込んだフラッシュスタートが、起動する。
二射目。蛇行しながら、後部車両を振り当てていく。
反応の鈍い奴は片っ端から跳ねられ、倒れていく。
幾人か、宙に跳び上がって逃げた。
まぁ悪くない手だな?神器車が飛ぶわけないもんな。
だがクルマが飛んじゃいけないなんて、誰だ決めたんだ?
こいつは……ネモフィラは空も統べる。
レバー先端についてるスイッチを切り替え――ロック解除。
ボタンで、溜めた力を噴出できるようにしたのとは、また別の機能だ。
残りのエネルギーを使いつつ、ショートキックでフラッシュできるようになる。
ニュートラルまで戻し……アクセル。
レバーを僅かに倒して、フラッシュスタート。
赤い神器車は、高空まで跳び上がった人型の魔物を追って。
空に打ち上がった。
そのまま一人に当たり。
そこを起点に車体を制御し直し、レバーをニュートラルにしてアクセル。
今度はシフトレバーを球の下側まで、一気に倒す。
より低空にいた一人に、恐ろしい勢いで衝突。
軽い衝撃。
またアクセルからレバー操作し、キック。少し高め近くにいるやつに向かう。
これを、後部車両を振り回して吹き飛ばし。
最後に……地上付近に一人、残っている奴にフラッシュ。
光の速さで飛び込むクルマは、そいつも彼方まで吹っ飛ばした。
着地。地面を滑らせ、車体を安定させる。
かつて時間を戻った時にできなかった、運転駆動。
例えば、車体が完全にひっくり返ったときの復帰。
例えば、林等で逃げる魔物の追撃。
例えば、空中での継続戦闘。
ネモフィラはそのすべてを可能にした、ボクの傑作だ。
大型、小型、人型問わず跳ね飛ばす戦闘車両。
それがこの、ブルービー・ネモフィラ。ボクの新しい愛車。
クルマに頼らず、技術でそれが実現出来りゃそれの方がいいんだが。
足りないので、ボクは開発して補った。
そしてこのクルマを乗りこなせるのは――ふふ。なんとボクだけだ。
あのアっさんに、弟子に越えられたとまで言われたぜ。
クルマで空を飛ぶなら、ボクがNo.1だ。
2番目はマリーかな。
自分で作った人型神器・不死者以上の高空軌道。
これを実現するのに苦労したんだよなぁ。
ネモフィラは速く、そして自由だ。空の女王と呼ぶにふさわしい。
しかしまぁ。
確かに強いし、脅威だけど……これだけで倒れてくれるとか、楽でいいな。
こっからさらに強くなって向かってくるやつとか、いたからなぁ。
アレに比べれば、可愛らしいもんだ。
……おなかは結構いたいけど。
当たった瞬間、自分から飛んだものの、それでも効いた。
あれ?なんかこっちに、旧王都の方から誰か歩いてくる。
直剣片手に歩いてくる、隙のない、革鎧の――
「うっわ。娘つっよ」
ネモフィラが外の音声を拾った。
思わず窓を開ける。
「お母さま?」
母が。アリシア・ロズ・エングレイブ……王妃その人である。
何でこの人が、ここに。
「通報受けてすっ飛んできたのに。もう片付いてるとは」
なんと。
「そいつらには目をつけててね。
呪いを使ったら駆けつけられるようにしてたんだよ」
「そうだったんですね」
「まぁね。確かハイディがくれた情報でしょ?
準備してたんだけどねぇ。ごめんねぇ、手間かけちゃって。
残りはこっちでやるから」
残り??
「この傀儡の呪いは、一度発動したら支配下の者がすべて魔物になる。
これだけじゃない。国中でもっとなってる。
だから、君が安全に確保できたなら、後は始末しておくだけ。
カサンドラ、よろしく」
お母さまの肩に何か……白い毛玉のようなものが乗っている。
それが、ボクをじっと見ていた。
次投稿をもって、本話は完了です。




