2-2.同。~古都に潜むもの~
~~~~段取りってものがあるからな。焦りはしないさ。けど……待ちきれない。
スキップしそうになるのを自重しつつ、扉を開け、入室。
扉を閉め、中央の制御結晶へと歩く。
カードはもうしばらく用がないので、ポケットに入れておいて。
球形の結晶に手を置き、静かに待つ。
すでに転送路は開いているようだ。
少しの浮遊感があり――――
『転送完了です。お疲れ様でした』
旧王都、旧学園跡地の転送施設まで一瞬でやってきた。
魔力流による質量転送。
近年まで謎の現象だったが、その解明が少しずつ進んでいる。
ダンジョンの門とは、近いけど違うものなんだよねぇ。
部屋を出て。
管理者の人に挨拶しつつ、外を目指す。
新旧王都間をつなぐ転送路は、施設入ってすぐのところだから……まぁ外はほんと目の前なんだけど。
扉を潜る。
今朝見たような、敷地。
手入れも行き届いている。
ここは旧王立魔導学園の跡地。
建物はそのまま残されており、国の行政施設に使われているそうだ。
中の機能だけが、そっくり新王都にうつされた形である。
旧王都エングレイブ全体から見ると、ここは中心から北東あたりになる。
ちょっと回るけど、貴族街の隅にシルバ邸を用意してるから、まずそこ行くか。
王都は新旧両方ともそうだけど、丸い感じの街だ。国全体を模している。
中央に王城と、行政施設。その北東くらいに学園。
貴族街と平民街を分ける環状の堀があって、橋がかかっており、街を二分している。
内周の貴族街側には門があり、守衛もいて、基本用がない人は入れない。
ただ堀の外側すぐの通りは、貴族も来るような商店が立ち並んでいて、活気がある。
王都を巡るなら、この環状大通り沿いを行くのがいい。
というわけで歩きやすい大通りを目指し、てくてく歩く。
ちょっと早足になってきた。
学園跡地南東の門に向かい、守衛さんに挨拶しつつ、外へ出て。
さらに大通りを、南へ。
旧王都もまだまだ人が多い。遷都から三年以上経つけど、活気に満ち溢れてる。
今の役割は、純粋に王国領土の中心地、物や人の経由地だ。
新王都はそもそも、王国領土の西の元魔境に建っている。
そっちに領土を作ってるのはシルバ領だけ。ほかはまだだから、人の中心はこの旧領側だ。
もちろん、移行してからもこちらはそのまま人が住むんだけどね。
少し歩いたところに馬車の乗り合い場があったけど……人が多いな。
これなら、目的地まで歩いたほうが早いか。
街の巡回便は便利だけど、早く移動できるってほどじゃないしね。
淑女み投げ捨てれば、跳ね飛んですぐ着けるんだけどねぇ。
王都外周の通りを、南の方へ廻っていく。
シルバ邸は貴族街の南西寄りで、行きづらいところなんだよなぁ。
幾度か行ったんだけど、歩いて行くのは初めてか?
邸宅の堀を挟んだ向こう側が、冒険者ギルドの旧王都支部なんだよね。
ギルドかぁ。しばらく行かない間に、行けなくなっちゃったからなぁ。
昨年、正式にタグを返上した。ボクが持ってちゃいけないからね。
ダンジョンには、ギルドに話を通せば入るのはいいんだけど。
依頼は出せないし受けられない。
魔物の買取はしてくれるが、普通嫌がられるな。
もうちょっと利用しておくんだったなぁ、冒険者ギルド。
旅しながら毎度ギルドに泊ってた頃が懐かしい。
…………思わず早足になってたせいか、そのギルドがもう見えてきた。
別に走ったりしなかったよな?大丈夫だと思うが。
いかんいかん。落ち着こう。早く会いたいが、淑女は人前で走らない。
さて、外周寄りのギルドは無視して。
内周側には堀があって、橋がかかってて門がある。
南西門から入ってすぐがシルバ邸だ。いつ見ても、割とでかいなぁ。
橋に向かう前に、ギルドの方を少し見たとき。
あれ?
何か今、赤い、光、が?
それにあの霞むものは――――
ギルドの前に立っている女の人が、何かを呟いたと思った瞬間。
ボクの意識は途絶えた。
◇ ◇ ◇
――――っ!
意識が復帰した。
急いで瞠目、脳の魔素を最大活性させる。
目を、開ける。
周囲の景色が鈍化し、状況が入ってくる。
さっきの霞を考慮し、魔素を体外にも展開し、広げる。
何らかの理由で自分の意識が奪われた場合には、備えていた。
その備えのうち、一つが働いたようだ。
危機的状況というより、意識のなくなっていた時間で判断しての復帰だな。
あれ?でも機能が働いた形跡は、ないな。なんだろう……。
まぁいいや。
おそらく……意識を失っていたのは五分程度。
ここは旧王都の、北かな?北門が見える。
そして数十人、見えない人間がいる。
見えないが、視線を感じる。
……狙いは、ボクか。
次の投稿に続きます。




