2.王国旧王都エングレイブ。忍び寄る呪いの徒。
――――ついに来たか。破滅の足音たちよ。世界ではなく、人の悪意よ。
式典後。
初等部は寮に入らなければ、これ以上の用はない。後は帰るだけ。
ウィスタリアとリィンジアはアウラ寮だったので、これは送り届けた。
そして敷地裏手から離宮に帰るダンと別れ。
スノー、メリア、ギンナをパンドラの転送路に送り出し。
最後に、ストック。
「じゃあ後で」
「ああ。手間をかける」
手を握ろうとして――人目があるので、避ける。
転送路は管理の方が見てるからねぇ。
おのれ。もうちょっとだ。がまんがまん。
「すぐお迎えに行くから、待っててね。ストック」
頷き、彼女が一人、転送室に入っていく。
行き先は、王国北方領、ルビィ大公家所有の中型神器船だ。
帝国国境付近の北西をうろうろしている船で、ストックは今、そこでお仕事中なのだ。
見送り、ボクはボクで別の転送室に向かう。
まぁストックのお仕事は昨日で終わりで、今日は引き上げだけである。
ちょっと交渉事があって、それでの用事だった。
パンドラ絡みではないので、ビオラ様は頼れなくてねぇ。
半月ほどかかってしまって、いつもそっちにストックが行くものだから。
ボクはもう、ストック分が足りなくてしょうがない。
校門でぶつかったのは、ちょっとした遊び心もあるが。
ただ、触れたかったからでもある。
一応、ボクもではあるが。
ここ数年で、ストックはこう、女性らしい柔らかさがついてきてだね。
きめ細やかで、ふわっとしたお肌の感触とかこう――たまらんのですよ。
どこ触っても柔らかい!固いところは、それはそれで!!
あ”あ”~~~!はよ撫でまわしたいんじゃ~~~!!
はっ。いかん、よだれ出る。すれ違う管理者の人に不審の目で見られてしまう。
落ち着けハイディ。ストックの残り香で我慢するんだ。
すー。
はー。
よし。
8年前。彼女とこの時間で再会したての頃は。
そりゃあもう、女同士とか無理では?
少なくともストック以外は絶対無理やでボク??とか思ってたもんだが。
今じゃもう、ストックならなんでもいいや、って感じだ。
本当に大丈夫なのか、確かめた――あのもう遠い夜から、ずっと。
少しずつ、毎日のように触れ続けて、七年も八年も経って。
誕生日に交わした大事な言葉は、もう八回。
互いの誓いの指輪が、薬指にあって。
すっかりボクは、蕩かされてしまった。
男でも、女でも、もうなんでもいい。
でも、ストックじゃなきゃ、いや。
ストック以外の女性は、前から無理だなって思ってた。
仲の良い友達相手でもダメだ。想像だけですごい怖気が走る。
これは今でも同じ。
でも最近、なんか男性もダメなんだよな……。
前はこんなもんだろ、って思ってた視線に、耐えられなくなってきた。
人前で肌とか、ちょっともう絶対出せないかなボク……。
なのによりにもよって、前はさっぱりなかった胸囲が出てきたんだよなぁ。
食糧事情が良くなり過ぎたか?
まだうっすい方だが、それでもたまに視線を感じる。
9割がたストックだけど。
ストックは淑女で恥じらいがあってしかもむっつりなので、直視はあんまりしてくれない。
だから隙を見て尻とか太ももとか背中を中心に、見せたりするけど。
あの視線はどれほどいやらしくても、嫌じゃないんだよな。
でも男性のそれは、即怖気につながっていかん。
ここんとこ、厚着で体型を隠せる服が欠かせない。
それもあって、制服は落ち着かないんだよね。
ひらひらは好きなんだけど、あまり着ていたくはない。
どっかで着替えてくるんだったかしら。着替え、持ち込むようにしようかなぁ。
これ、ボクはストックのものだー!っていう、自己主張みたいなもんかなぁ。
妙に、自分を衆目に晒したくないという欲求がある。
マリーに責任者押し付けちゃったのは、合理的側面もあるんだけど、その辺も理由なんだよねぇ。
目立ちたくない。
前はそんなの、気にしたことなかったんだけど。
おっと、ここだ。通り過ぎるところだった。
守衛してる管理者の人に、胸元のカードを外して見せる。
「ハイディ・シルバです。エングレイブへの転送をお願いいたします」
「ああ。申請時間通りですね。お仕事ですか?シルバ公爵」
「はい。スタッフの出迎えです。
戻らず、船に参りますので」
「分かりました。お気をつけて」
守衛の人がカードを魔道具で読み取って……部屋のロックを開けてくれた。
中の行き先はこれで、旧王都エングレイブになったはずだ。
先の通り、ストックがいる中型神器船はルビィ大公領の北西くらい。
実はパンドラが、領の北東にいる。
だがパンドラから神器船には――間に帝国領があるので、直接いけない。
なので、最初に旧王都に転送。そこから神器車でルビィ大公領に行く。
ルビィ大公領側からさらに神器船に向かい、ストックを拾う。
領に戻り、領内を通ってパンドラに向かう。
何なら、ストックが一人で走って帰れる距離なんだけどねぇ。
まぁせっかくだから、ドライブしようとなったのだ。
二人っきりで。
二人っきりで。
…………。
うひょー!
次の投稿に続きます。
#本話は計5回(9000字↑)の投稿です。




