1-8.同。~幻にも矜持がある~
~~~~ビオラ様は名誉教授ってやつだ。学園には所属してないが、他にもたびたび論文を寄稿してる。
式次第が進んでいく。
学園所属の演奏家たちの調べに乗せて、園歌の斉唱。
実は、魔導詠唱を複雑に組み合わせたものらしく。
学のある教授たちの方が、熱心に歌う。
魔導歴史学の教授とか、涙が頬を伝ってるし……。
ガチ勢こわ。
学園長、来賓の挨拶と続き。
しばらくして。
『次は新入生代表から。経営戦略科、ウィスタリア。前へ』
「はい」
そして予定のご挨拶。
後ろの席から出てきたウィスタリアが、しずしずと階下へ降りて行く。
一番下まで行って。講壇を、ベルねぇに譲られて。
…………おや。彼女の教師陣、おそらくベルねぇやマリーを見る目が変だな。
ある意味、分かりやすい子だ。
ウィスタリアはマイクに向かい。
ブレザーの内側を、まさぐって。
……あっちこっち探して。
何かキッとこちらの……ボクじゃないな。別のところを見た。
ちらりと後ろを見ると、リィンジアが手の甲を口元にあてて、ちょっとにやりとしている。
……別に彼女が原稿とったとかじゃ、ないんだけど。
そんなそぶりはないし、はっきりいうが今も持ってない。
ではなにさ今の仕草は。ただの挑発か?
犯人はおそらく。
ボクは、ちょっと魔法科エリアの方を見た。
固まって座っている、先の皇子と、その取り巻きたち。
ま、今回はいいか。だが2アウトだ。
あと一回何かやったら、締めあげてやろう。
『私は!平民で、孤児の出で!』
……この、出だしは。
ゲームの記憶にある、ヒロイン『ウィスタリア』のものだ。
開始時の試験成績が優秀だと登壇し、そして述べるもの。
ウィスタリアの苦労話が朗々と響き渡る。
聖国から魔都に渡り、しかし後に王国に送り届けられたこと。
孤児院に入ったが、そこは魔物に滅ぼされたこと。
西に東に彷徨ったが、行く先々でお世話になった人々が亡くなったこと。
そして魔都に戻り、縁あって学園に来られたこと。
…………嘘だ。
彼女の来歴は、うちの名探偵ミスティや契、約した忍の箒衆が調べてある。
王国に来たことはないし、近年魔物に滅ぼされた孤児院だって存在しない。
聖国から魔都に渡った「ウィスタリア」もそもそもいない。
それはボクのことだ。ボクは魔都へは行っていない。
ボク以外にウィスタリアという名を持つ子も、同じ道を辿ったりはしていない。
王国と魔都については確認済みだ。
聖国側は難しかったが、箒衆の長――リコがなんとかしてくれた。
彼女の表の顔は、ベルの妹。ハイニル・ロール常任議員。
伝手も使ってくれたのだろうな。
得た情報は、今のところ正確だ。
そういや、彼女はボクと同い年だから、来ようと思えば学園に入れるんだが。
さすがにいろいろ忙しいし、いない……よな?
特に、そういう連絡は受けてないし。人が多くて、いるかどうかはさすがにわからん。
調べる方法はあるけど、それをするほどでもなぁ。
今度会ったら、聞いてみるか。
ウィスタリアの演説が続く。
彼女の話はとても真に迫っていて、結構な人が聞き入っている。
事実には反する、はずだ。
だが……これ。勘だが。今の事実を語っているわけではなく。
彼女の体験を語っているのでは、ないだろうか。
遠い、過去の。
彼女の正体の予測は、ついているのだけど。
証拠がないんだよなぁ、証拠が。
どうしたものか。
『私は魔力すらありません。ですが縁あった、この学園で』
彼女がおそらく……リィンジアを見る。
睨むようで。慈しむようで。不思議な視線だ。
『必ず望みを、叶えます』
その一言だけが、ゲームになかった。
挨拶は、終わったようだ。
静かな中、手を叩いた。
ボクの拍手につられ、ちらほらと音が鳴る。
リィンジアも手を叩いている。意外だが……やっぱさっきのはただの挑発か。
最終的にその音は、意外なほど大きくなった。
壇上のウィスタリアが呆けている。
……どういう情緒だろう。
なんだろうなぁ。最近周りじゃ、素直な子しか見なかったから。
なんか彼女は、特級にめんどくさい系な予感がしてしょうがないよ。
いや、「ウィスタリア」ってそういうもんか?
ボクもそうだもんな。
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