1-6.同。~今そこにいる、未来たち~
~~~~ボクはこんなもんだと思ってるが、やっぱみんなはおこだな。そりゃそうか。
何か、叩くような音がした。
軽くはあるが、はっきりと。
「触らないでっ」
「ぁっ。すみま、せん。リィンジア様」
「失礼」
リィンジアが、心配したウィスタリアの手を、跳ねのけたようだ。
ウィスタリアが一瞬、ひどく傷ついた顔をして――その顔は、すぐに隠された。
彼女は穏やかな印象の表情が常に出ているが、正直。明らかに仮面だ。わかりやすい。
リィンジアが一番奥の席に座りに行って。
ウィスタリアが控えめに追いかける。
君もへこたれんねぇ。
ストックを見ると、ちょっと肩を竦めた。
人前だし、そういう仕草は控えたほうがええんやない?モンストン侯爵令嬢。
まぁ気持ちはとてもよくわかる。めんどくせぇ。
ボクらもスノーやメリア、キリエのすぐそばに座る。
彼女たちも、椅子に腰を下ろした。
「いい啖呵だったわ。スノー」
「ギンナに褒められると、むず痒いのだけど?」
「やらなかったら、遠慮なくけなしていたわよ」
「容易に想像できるわね……」
二人はこう、適度に衝突するような関係に落ち着いている。
今もたまに、正面からの殴り合い……組み手をしたりするようだ。
かえって、気安い間柄になっているようにも見える。
「まぁ君が言わなかったら、メリアがどう切れるかわからんし。
よかったんじゃない?」
「姉上、そう怖いこといわな……ひっ」
「…………大丈夫だとも。私は冷静だ。
よくやってくれた、スノー」
「は、はい」
先の、痛い目合わされた王太子の伴侶――王太子妃の下り。
その人がメリアの「実母」である。
性懲りもなく帝国が同じ手を使ったので、当然メリアはおこだ。
しかし、その。
実の妹と、友達が。同い年で、義理の親子関係になる。
兄弟ではない。親子だ。何か脳がバグリそうだ。
「だが次の制裁は任せてほしい」
「だめ。学園で決まりになったから、私刑はしないように。
委員会に入ったら?風紀のやつ。
懲罰はだめだけど、取り調べくらいはできる」
「そうしよう。ありがとうハイディ」
即決かよメリアこわっ。
およ、前の席から……こら。手は振っちゃだめでしょ大人しくしなさい。
視線を向けると、怒られたように肩を縮こませたその子は……シフォリア。
隣のクエルと二人、ボクの大事な、娘だ。
今年から二人は、経営戦略科高等部だ。ボクらの三つ上だからね。
年上の娘というアレな存在だが、ボクが……未来で産んだ子で間違えない。
その記憶が、ボクにはちゃんとある。
四年前。
ボクらは、ゲームの展開をこの半島人に押し付ける、核とも言える存在と戦った。
そいつの力の源泉が『ゲームのヒロインの未来を人柱にすること』だった。
その未来とは、子どもを持てる可能性。
そのままそいつを倒すと、養子すら持てなくなるところだった、そうだ。
ブチ切れたボクは、未来からストックとボクの子ども、という決定した事実を引き寄せた。
我ながら、なにしたのか実はよくわかってない。滅茶苦茶だ。
それから四年、二人はこの時間で、今も暮らしている。
ボクらが子どもを実際に設ければ未来に帰るはず……ではあるんだけど。
本人たちの希望で、その回避を模索中だ。まだちょっとかかりそう。
10歳まではいいんだけど、二人ともそれより先の未来に破滅が待ってるみたいなんだよね……。
それは同じ立場になったかーちゃんとしては、なんとかしてやりたい。
せめて帰すなら、その破滅を避けられると確約できてから、だな。
一方、シフォリアから見て、クエルの反対側に座ってる二人。
彼女たちも未来人だ。マドカと、アリサ。
それぞれゲーム『揺り籠から墓場まで3』のヒロイン、クレット・リングと。
悪役令嬢ナズナ・リングの役だった。
未来から連れてこられ、原因を打破したが、そのまま残った。
帰る見込みがないし、本人たちの希望もあるので、そのまま受け入れている。
四人で同い年なせいもあるのか、よくつるんでいる。
ボクとしては、娘たちの友達になってくれて、とても嬉しい。仲良くていいね。
この四人もパンドラに住んでいるので、朝叩きだした子たちだ。
高等部は今日、明日からのカリキュラム決定があるので、午後までかかる。
なので食いだめと言わんばかりに、朝飯をたらふく食っていきやがった。
君ら欠食はさせてないし、お弁当も持たせたろ???
朝からそんなに食べる必要ないやんけ。自重しろや。
ほんと、その栄養はどこ行ってるのやら。
良く育って……そだって……。
うん。背は伸びてるね。
メリアとかギンナに抜かれてるけど。四人とも。
彼女たちの向こうには、赤髪の女性が。後ろを向く彼女と、少し目があった。
そのにやりは、大変ね?ってことかよ。ダリア。
先に言及した、魔女姫サレス・アーサー……イスターン連邦稀代の大魔導師、ダリアだ。
まぁもうアーサーじゃないし、連邦の姫でもないんだけどね。
彼女はボクらの五つ上。今年18になるので、高等部三年だ。
本当は、もう一人うちには高等部三年生がいるんだけど。
彼女は、この入学式ではこっちの席には座らない。
しかし。今日は結局だいたいみんなが学園くるから、大変だったんだよなぁ。
幾人かは朝早かったし。ボクら初等部組が一番最後だ。
高等部は、もうちょっと早くに出て来てたんだよね。
で、それより早かったのが……今最下段に入場してきた人たちの中に、いる。
入ってきたのは本学の教師陣だ。
次の投稿に続きます。




