1-4.同。~淑女と令嬢を、友に紹介する~
~~~~三十路で初等部かー。そうかー……。
無視してるといえば、魔導はともかくだね。
呪いとか。神器とかもそうか。
普通乙女ゲーには出てこねぇだろ。
まぁ実際のところ、ゲーム内ではほとんど出ないみたいだけど。
あるんなら使ってやろうと、ボクはその辺の研究が専門だ。
時間を戻ってすぐ……およそ7-8年前は、その呪い――呪法がボクの唯一の武器だった。
あの時猛威を振るった『呪文』の力は、もう使えない。
自身との深い因縁を辿って発動する技で、恨まれてるという認識がないと起動しない。
ボクの相手は6人の友達だが、彼女たちに恨まれてるなんて、さすがにもう思えない。
4-5年前、連邦に行ったときは神器の研究が役に立った。
最終的には、愛車サンライトビリオンに眠っていた、精霊を目覚めさせるまでに至った。
ただ……ゆえあって、今ビリオンは手元にない。たぶん、もう乗れないだろう。
しかもあの時使えた精霊の力『ウィスタリア・アウラ』は、ある時を境に起動しなくなった。
そっと、隣を歩くウィスタリアの方を見る。
……この子、視線に敏感そうだから、注意しないと気取られる気がするんだよね。
ま、何がどういうことになったのかは、おいおい確かめて行くとするか。
やっと講堂・真ん中の列の一番奥――経営戦略科初等部向けのエリアについた。
幾人か、今朝送り出した子たちが先に座っている。
式典に際しては、ある程度決まったエリアだけ提示されて、そこに自由に座っていいことになっている。
席に入る前に、後ろから来たストックがさっと回り込む。
今日は気が回ってて素晴らしいな、ストック。
ボクがでしゃばるとこじれるからね。さっきはごめんよ。
「お二人、先に紹介を致します。
初等部経営戦略科入学の四名。
まず私の姉、メリア」
「メリアです、よろしく」
「ファイア大公家のご令嬢、キリエ・ファイア」
「キリエよ」
二人、もう結構背の高くなったメリアと、キリエ――ギンナが立って簡単に礼をとる。
二人とも、すらっとして制服がよく似合うなぁ。
ストックまで加わると、あれ、ここ初等部だっけ?ってなりそう。
女の身長が伸びるのは多少は早いもんだが、それにしたって限度があるだろう。
ちょっとそこは羨ましい。もう少しは伸びたいものだ。
メリアは、元はクレードル帝国第三皇女カレン・クレードルだが。
帰化・改名・養子入りしてメリア・ロイドとなった。
キリエの「ギンナ」という名は、ある種の魂の名なので、公には名乗らない。
成人したら切り替える、って本人は言ってるけどね。
ストックの場合は、リィンジアともろ被りするから、事情がまたちょっと違う。
ボクの場合は正式に四年前、『ハイディ』になったので、この名乗りで問題ない。
ん?一瞬、ウィスタリアがものすごい顔をしたような。すぐ戻ったけど。
…………ひょっとして、知った顔だったかね。
「それからあちらのお二人。
コニファー・エングレイブ王太子殿下。
ダン・エングレイブ王子殿下」
「コニファーよ。初めまして」
「ダンだ。よろしく」
二人は立たず、挨拶した。
ダンもまた体格に恵まれて、すくすくとでかくなっている。
4年前や、前の時間よりは、だいぶ険のとれた顔をするようになったなぁ。
コニファー……スノーは、だね。その色気どっかにぽいしてきたら?
別にこう、みだらな恰好をしてるわけじゃない。だいぶつつましい。
でもこう、主張が。なぜ妹は凹凸にばかり栄養が行ったのか。食わせ過ぎたか?
12のぼでぃじゃねぇよなぁ。
ボクと同じもの食ってるはずなんだが、どこで差が出た。
あるいは婚約者といちゃつきすぎなんだろうな、こいつ。
今朝も、学校行きたくないって駄々こねて、人前でいちゃついていやがったし。
叩きだすのに苦労した。なぜかボクが。
一応解説しておくが、正式に王太子になったのが王女のスノー。
ダンは長男にあたるが、スノーに何かなければ、いずれはファイア大公家に養子に出される。
本人は、もうそのつもりみたいだけど。
この国では、精霊が王と王妃を決める。
二人そろっているのが条件の一つで、加えて生まれた子の中で「こいつだ!」ってのがあるみたい。
本来はもう何年か、政争しながら席を決めるんだけどね。4年前に一発指名でレース終了となった。
次の王はスノーで。王妃はその伴侶たるビオラ様。
女性同士というのは……この国では稀にあることらしい。
男性同士というのもあるとか。そうなる基準は、よくわかっていない。
王国では、長く法で同性婚は認められていなかったけど。
数年前から、この国王と王妃のケースを踏まえ、法改正し、緩和されている。
ボクとストックを始め、幾人かはその恩恵を与る形だ。
なお非公式の話なので、もう表には出ない点を解説しておくが。
ボクはこの二人の、実の姉だ。三人で三つ子。
元の名はウィスタリア・エングレイブという。
そこのウィスタリアと名前被っちゃうし、正式にその名になる前にちょっとあってね。
ボクは公式でもハイディとなったので、残ったのは血縁関係だけだ。
それを知り合い以外に聞かれるとちょっと面倒なので。
二人とは幼馴染、ということにしてある。
二人がボクのいる神器船パンドラによく顔をだしていたので、と。
この点は事実なので、そう紹介するのは問題ない。
それで姉呼ばわりするのは、人にはあまりよくはとられないだろうけどね。
でもなんか二人とも、つい姉上って言い出すみたいなんだよね……直らないらしい。
ま、ボクとしては別にいいが。
特にダンは、四年目にその。いろいろあってから。
ボクには普通に接するようになった。
自分が長子でいる必要性が、なくなったからなのか。
何か肩の力も抜けた様子で、のびのびとやってる。
そしてスノーとは、たまにいがみ合ってる。しょうのない弟妹たちめ。
何か見惚れていた二人――リィンジアとウィスタリアが、慌てて礼をとった。
「せ、聖国のリィンジア・ロイドです」
「ウィスタリアと申します」
…………ふぅん。良い礼だね。ウィスタリア。
次の投稿に続きます。




