1-2.同。~現に追いついた幻。いるはずのない二人~
~~~~最近ストックは忙しいので、実は数日ぶりに会う。ストック分が足りな過ぎる。
「さて。時間はまだあるけど……講堂行く?」
「そうしよう。皆もいるだろうし――――」
「たっ!?」
「ごごごごごめんなさい!!」
何か聞こえた。門の外側だ。すっと手を離す。
ちょうど門のど真ん中付近。敷地の向こう側。
背丈から、おそらく初等部と思しき女学生が二人、ぶつかったようだ。
…………あれ、は。
藤と白の髪の色。長さ。赤い瞳。顔。
そして胸元の、ロザリオとブローチ。
すべてが記憶に、重なる。
前のめりになってるストックを、手で制する。
……この場で遭遇するとは。運がいいんだか、悪いんだか。
「王国の平民はしつけがなっておりませんわね!」
いや、王国民は半島じゃ最高水準の平民だからな?
あとその子、王国民じゃねーから。
「ひぃ!お貴族様!?申し訳ありませんお許しおおおお」
「縋りつかないでくださいまし!?
このリィンジア・ロイドに平民が気安く触れるなど!!」
前に出ようとするストックの、目を見る。
まだダメ。
「なあああ!?モンストン侯爵令嬢!!
あああああ……私終わった……。
せっかく入学試験通ったのに……」
悲嘆にくれつつ下座る構えなところ、君結構強かでは?
しかし土下座、ね。この半島にはない風習だ。
「ゲームの描写には」存在するけどね?
「違います!わたくしは!!」
ん。ここまででいいか。
やはり、あれの流れの通り。
でも同じ……ではないような気がする。
そもそも、役者が違うし。
ストックにそっと目配せする。
彼女が頷き、前に出た。
「ウィスタリア聖国のロイド公爵家、そちらのリィンジア様ですね?」
「っ。何ですのあなたは。盗み聞きとは、趣味が悪い!」
たぶん君の声は後ろの建物――寮の中にすら響いとったで?
「申し訳ございません。ですがその誤解は、やはり私が解かなくてはなりません」
「……どういうことです」
ストックが貴族の礼をとる。
「名乗りが遅れました。
モンストン侯爵の娘、リィンジア・ロイドです。
本校では特に、精霊に賜った名・ストックを名乗りますので。
そちらで覚えていただければと思います」
一度直り、ボクを手で示した。
ボクも礼をとる。
「こちらは我が婚約者。ハイディです」
「経営戦略科に入学致しました、ハイディと申します」
「…………ご丁寧に。リィンジアですわ」
多少ぎこちないが、あちらのリィンジアも礼をとった。
聖国民なのに眉根一つ寄らなかったのは、合格点だな。
あそこは、同性婚が禁忌だ。
「あわわわわわ、う、ウィスタリアです!」
ついでに隣のウィスタリアちゃんも頭を下げた。
「なんで平民が名乗るのです!割り込むんじゃありませんわ!!」
「ひっ、すみませんリィンジア様!?」
「名前を呼ぶことを許した覚えはありませんわよ!!」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
この二人、仲良しさんだな?
埒が明かないので、割って入る。
「失礼いたします。
聖国からおこしで、経営戦略科に入学なさる、ウィスタリアですね?
みな同輩なのですから、そう畏まらず」
「「は?」」
「ここにいる四人は、みな経営戦略科初等部入学者です。
今年は本科の入学者が多く。
学園長からの指名で、私がお世話をさせていただくことになっています。
ハイディです。よろしく、ウィスタリア」
「よ、よろしくお願いしますハイディ様!」
「様は不要です。
リィンジア様。聖国の社会事情には相応、理解を示すつもりですが」
「……なんでしょう」
「この学内においては、身分差由来の叱責は控えられたほうが、よろしいかと。
あとで思わぬ恥をかきます」
「そのようなこと、あるはずが!」
あるんだなぁ。
実際、ストックにはそれで詫びられたことがあるし。
「例えば、公表されている学園考査の点数、とか」
「っ」
リィンジアがちょっと、ウィスタリアを睨んでいる。
ウィスタリアは萎縮してるけど、へこたれない構えだ。
「例えば、先に大発見をされたマリー助教授。
平民の出でらっしゃいます。
聖国の出身ですから、ご存知では?」
「あのような才媛が、なぜ王国に……!」
おやそっちから噛みつかれた。
マリーは4年ほど前、資格を得て学園の講師になった。
その後さる研究成果をもとに、異例の速さで助教授へ。
その内容が内容なので、今や一躍、時の人である。
非常に感慨深い。
「公表された通り、聖国から追放されていたからです。
国籍は残されていましたが、晴れて王国民となられました」
「王国が、何か、したのでしょうっ」
「行く当てなく彷徨っておられたところ、国所属の研究機関パンドラがお雇いしたという経緯です。
確かに王国は、何かしましたね」
リィンジア、めっちゃぐむむしてる。
次の投稿に続きます。




