D-2.同。~妹との間にあったこと~
~~~~何かやらかしたとしても、前の焼き直しだよなぁ?ボクはそう思っていたんです。
『あいつもうやだ。おうちかえゆ』
「…………」
「…………」
「はいここまでです!だれで……」
「ストオオオオオオオオオオオオオオック!!
ボクの妹に何をした!?」
「ち、ちが、ちが!?」
「さすがお母さま、すぐわかりましたか」
わからいでか。
「質問内容は『ストックお父さまを恋人にできるか』。
『伴侶の方と比べてどうか』の二点です。
スノー叔母様は、二番目を拒否されてお部屋に戻りました」
シフォリアが何か得意げに言う。
だがボクはそれどころではない。
「どういうことだねストック」
「……………………たぶんあれだ、と思う、んだが」
ほほう。思い当たる節はある、と。
それは何よりだ。
「続けたまえ。妹が幼児退行してびっくりしただけだ。
怒ってはいない。
だが問題があるとみられる。
ボクは解決せねばならない。
そうだな?ストック」
「すまない、ハイディ」
「いいんだよ。君のためにできるなら、なんだって喜ばしい。
それで?」
「ん。ちょっと組み手を、だな」
「組み手」
そう。君が、スノーと。
そう……。
ボクは席を立った。
これはボクが悪い。
ストックにしても、周りにも注意喚起してなかった。
「すまないがシフォリア。しばらくお茶しててくれ。
ストック、行くよ」
「はぁい。いってらっしゃーい」
「今からか!?あ、ちょ、ハイディまって」
これつまりさ。
他もってことだろう?
なら一つ一つ、迅速に対処せねば。
スノーはすぐ見つかった。
その……運動用の施設でトレーニング中だった。
一息つけそうなタイミングを見計らって、声をかける。
「スノー」
「あねう……ストック」
「その節は大変申し訳ございませんでした」
ストックが腰をがっつり曲げて頭を下げてる。
少しだけ嘆息し……置いてあったボトルをスノーに渡す。
彼女は受け取って蓋を開け、中身を流し込んだ。
タオルで汗も拭いてやる。
「ありがとう姉上。
それと。謝られると困るわ、ストック。
私が未熟なのは確かだし」
存外、スノーは落ち着いた様子だ。
「それで?ぼっこぼこにされて、鍛え直そうってわけか」
「忌憚なく言うわね姉上……。まぁそういうこと。
ギンナも強かったけど、格が違うわね。
全力だとどうなるか、ちょっと気になるけど」
「単独ならギンナだな。ストックには戦術以上の札がない。
距離をとられた時点で負ける」
「近距離なら?」
「ストックの圧勝」
「でしょうね……。練度が違うもの」
かつてボクは、ストックとボクの友達を合わせた8人なら。
ボクとストックは最下位だ、と述懐したが。
これはその通りだ。ボクとストックには戦闘能力しかない。
他の子には何かしらの戦術~戦略能力が備わっている。
予言とか、正語りだってそういうもののうちだ。
だがボクとストックにはない。
まぁお互い奥の手くらいは持ってるし、神器超過駆動は戦術能力相当だが。
あれは代償が高くつく。乱発・常用はできない。
今生では呪いの拳を得たが、呪文の力はすぐ使えなくなった。
ある種の再現はできるが、きつい制限付きだ。
だが。ことが単純な近接戦闘なら。
ボクとストックがツートップだ。
ダメージが与えられないメリアだって、制圧はできる。
特にストックは、武の至りを得てないのが不思議なくらい練度が高い。
だからまぁ、魔導や能力なしの一対一の組み手なんてストック相手にしたら。
そりゃ相手は転がされるだけだ。ギンナだってそうなる。
下手するとストックは、エリアル様あたりを上回るぞ。
なお、ボクとストックが全力で接近戦した場合。
ボクが彼女の要所を突いて、無力化するのが先か。
彼女がボクに一瞬触れて、ボクを破壊するのが先か、という勝負になる。
実力は拮抗で、後はほぼ運で決まるな。
「頭を上げて頂戴、ストック」
「その。さすがハイディの妹だと思って、つい」
つい何度も転がしちゃったのか。
あるいは、スノーが何度も再戦を挑んだな?
この子、結構負けず嫌いだからな。
「あら。それは嬉しいわね。
ある程度は鍛え直すから、そのうちまた手合わせ願うわ」
「ああ。それはぜひ」
んむ。
「スノー。ストックが魔性の女だって話、聞いた?」
「ああ、ビオラに聞いたわよ。
私は別にそんな風に思わないけど?」
「ちょっとコツを指南して、回避できるようになってる。
ただずっとそうだったせいでこの子――――ボッチなんだよ」
「がふ」
ストックはお倒れになった。なんだそのひ弱メンタルは。
「ああ、そうなの……。
人付き合い、苦手なのね……」
「社交とか礼儀は完璧なんだけどね。
人の上に立ったこともある。
けど対等に近い関係だと、あまり経験年数がない。
だからまぁ、ボクが後でフォローはするし、責任は持つので。
好きなだけやっちゃってください」
「ハイディ!?」
復活してすごいお顔になってるし。
「姉上……スパルタね」
「ボクがいないと人と付き合えないとか、それはまずいし。
ボクは依存がしたいわけじゃないんだよ。
ストックと並んで、一緒に歩みたいんだ」
「ハイディ……」
別の意味ですごいお顔になっとる……。
人前でしていいやつじゃないから。
「ふふ。ご馳走様。
じゃあ適度に弄らせてもらうわね」
「スノー!?」
「ん。スノーくらいだとちょうどよかろ」
「それはどういう意味かしら姉上……」
「君だって対等な子には恵まれておらんだろ。
ギンナとがっつりぶつかっておいて、実は器用なほうですとでも?」
「んぐ。それを言われると弱いわね……。
わかったわ。
改めて、よろしくねストック」
スノーが手を差し出し――――
「ああ。ありがとう、スノー」
ストックがその手を取った。
………………しまった油断した!?
次の投稿に続きます。




