D.シフォリアの深刻な話:ハイディ一味新人に聞く、ストック評……ではなく。
――――ストック評は割愛されました。もっと別の話になった。
「はい、ではちゃきちゃきいきましょー!」
「はい?」
「まってシフォリアちょっと……ではない、大いにまて」
「まちます」
ストックが震える手で、我らが娘の片割れが持つ、腕輪を示す。
「次は私、ということか?」
「はい。私のかっこいいお父さまの分を収録してきました!」
ストックはテーブルに突っ伏した。
「あー、シフォリア。せっかくだからしばらく待ってあげて。
たぶん、ボクのをクエルが持ってきた時点で、覚悟はしてるから」
「はい。大いに待ちますとも」
そしてシフォリアはテーブルにつき、ボクが注いだお茶を遠慮なく飲み始めた。
焼き菓子を皿に取り分けて出してあげたら、バリバリ食べだした。
ストックは悶えている。しばらく帰ってきそうにないな。
最近、またパンドラをあけがちなストックが帰ってきた夕刻。
煮詰まったボクはストック分を補給していたが、シフォリアがやってきた。
煮詰まってるっていっても、結構進捗はあるんだよ?
実はハイニル――――リコには、探し物をしてもらっててね。
今、人探しの天才は大忙しで、手が離せないものだから。
ほら、例の「聖女ウィスタリア」とか。
実物がいる可能性があるって言ったら、リコは大張り切りだった。
他にも、再現現象の発生状況とか調べてもらってる。
今のところの報告を鑑みるに、ドーンや連邦の人々の認識喪失はなさそう、という見立てだ。
まぁ無くなっちゃったら洒落にならないので、対策はしておくけど。
この点は、マリエッタとアリサに頼んでる。
例のちっちゃな神器で悪さできそうでね。
それがうまくいくかもしれないんだ。
ボクが考えていて、煮詰まってるのは……別のこと。
頭抱えて唸ってるこの子が、ずっとボクのそばにいられるように。
今少し、できることをしておきたいんだよね。
お茶を一口。
ん……そういや今更だけどさ。
今日は特に吹くようなことはないだろ?
「シフォリア。前の……クエルが持ってきた腕輪の中身は、君も聞いたんだね?」
「聞きましたよ~?お母さま。魔性のお父さま、最っ高!」
「それだよ。今回も同じ話になるんじゃないか?」
娘が左手の人差し指を振りつつ、ちっちっちっとか言いやがった。
…………躾け直しだな。
「まぁそこは聞いてのお楽しみってことで~。
……あら?なんでお母さまおこなの??」
「ん。後でね」
「ひぇっ」
シフォリアもボクの娘だ。クエルとは双子。
クエルとはまた別の未来から来ている。
なお、姉がクエルで、妹はシフォリアだ。
産まれた順序は逆なんだが、シフォリアの熱い妹主張でこのようになっている。
甘えん坊でおバカを自称しているが、根はとてもまじめで努力家だ。
また、真実を見抜く目を持っており、何らかの武術の至りを得ているとみられる。
エリアル様に近い力だ。
その能力・実力については――内緒、と言われた。これはクエルからもだ。
気配を上手に隠しているから、底が見えていない。
二人とも、かなりの武を得ていると思うのだけど。
10歳までにそこには到達していないから、それ以降。
クエルは17歳、シフォリアは15歳に亡くなるまでの間に、鍛えたのだろうな。
ま、娘から子どもしたいと言われて、断るもんじゃない。
なので二人は業務や戦闘には参加させず、勉強に努めてもらってる。
マドカとアリサは学園に入るまでの間は仕事を覚えてもらうつもりだから、その逆だな。
クエルとシフォリアは、学びが満ちて来たら仕事に入ってもらおう。
で。
「ストック?」
彼女ががばっと上体を起こした。
「そうだ。そもそも私はあまり交流をしていない。
今回は何も悪いことはしてないぞ!
みんなとも普通に仲良くなれたしな!」
あれが悪いことって自覚くらいはできて何よりだ。
三年前は、ちょっとした接触でボクの友達を落としかけていた魔性の女ストック。
ボクも確かにきれいだと思うが、他の人間からすると非常に魅力的に映るらしい。
特に女性に対しては特効で、ロイドの侍従の間ではファンクラブができている。
ボクは正式な婚約をもって、名誉会員に招かれた。
たまに茶会に誘われ、行っていたりする。
もちろん、ストックには内緒だ。
さすがに赤裸々にいろいろ語ったりはしないが、ボクから見たストックなどを話したり。
逆に彼女たちの話を聞いたりしている。
お茶とお茶菓子がうまいとよく褒められる。それでいいのか侍従たち。
で。いろいろアプローチ方法などを整え。
今ではストックも、女性を篭絡せずに普通に接することができるようになっている。
こいつそもそも、人の目を見過ぎなのだ。ボクにするのと同じノリで見るんじゃねぇ。
なので貴族の倣い……もっと茫洋と全体を見ることを徹底させた。
その上で、接触する場合は体の箇所を慎重に選ぶように指導した。
素手なんか触れるな。ある意味半島女の急所だぞ。そういう文化なんだ、もっと理解しろ。
どうもストックはたまに、半島文化圏の意識が抜けてることがあるんだよな……。
ちゃんと貴族令嬢はできているのに、不思議だ。
なお、聞いた感じキース宰相がちゃんと注意してたのは、対男性のところ。
対女性については注意を受けてなかったせいで……そのせいでこんなことに。
まぁ確かに、男性に対して同じことやらかされたら、大変なことになっていたしな。
「じゃあ、早速何をやらかしたのか聞いてみようか。
シフォリア?」
「ほいさっさ!カチッとな!」
「やらかしたの前提!?」
やめろ突っ込みがおいつかねぇ。
というか最初は誰だ?またアリサからか?
次の投稿に続きます。
#本話は計4回(8000字↑)の投稿です。




