C-9.同。~最後に、君の嘘と秘密を愛でよう~
~~~~肝心なとこの記憶がないとは、どういうことだボクよ。これはまた牛鳥を食べなくては。
はっ。
気づいたら、知らない部屋だった。
和室?で。布団に横になってて。
隣には……いつか見たような、とても艶っぽいストックがいて。
首を回して周りとみると、低いテーブルに積まれている、空の容器。
…………たまごうちゅうを開闢させられたんだろうか、これ。
なるほど。丸羽鳥の卵がなかったのは、これが理由か。
牛鳥も……うん。味には覚えがある。
でも記憶が飛んでる。そんなにうまかったのか。
「ストック、あの。
ボク、ちょっと記憶飛んでるんだけど」
「ああ……少しぼーっとしてたしな。
ふふ。もう目が覚めてしまったか」
なぬ。なんか珍しく強気ストックだな!?
どんだけボクを好きなようにしたんだね。
このムッツリさんめ。
「今日はえらく強気ってか強火な雰囲気だねストック。
こういう時は、素直可愛くなっちゃうのに」
「んー。なんでだろうな?」
お。それは……もしかして。
「あの子のことは、言っちゃいけなかったんだよ。
そういう約束で、力を貸してもらってたから」
「義理堅いなハイディは。
前の時間のこと。誰も知らないだろうに」
「そう思ってると、急に真実を突き止められるんだぞ?
ボクは詳しいんだ」
「…………言われて見ればそうだな」
――――ということは、意外にバレバレ……?
バレバレだよ。何呟いてのさストック。
「ん?そろそろ聞かせてくれる気になった?」
ストックがすごい勢いで半立ちで下がりだした。
下がりに下がって、ふすまのところまで行ってしまった。
次の一言によっては、そこから逃げかねんな……。
さて。どれを出してみたものか。
ん……あれだな。言い逃れできないやつにしよう。
「そうだな。君が本当はコンクパールの後。
何年生きていたのか、気になるな?」
「ッ!!??き、気づいて、いたのか」
「動揺がひどいな。気づくに決まってるだろう?
聖人ができるまでの期間が早すぎだ。
フェニックスとは構造が違いすぎる。
だがまぁ、一度過去に作ったことがあるなら、あれくらいだったろうな?」
三年余り前、マリーに神器をプレゼントしたときのこと、だ。
はっきり言って、工材があっても出来上がるのが早すぎた。
ボクはフェニックスの後に残されたもので、何か作れないか?と聞いただけ。
そしたらストックが、あのとんでも神器を作ってきた。
僅か数日のことだ。
ボクの推測では。
あれは、前の時間。コンクパールで石になったボクを。
救い出すために、ストックが作り出した神器だ。
おそらく、フェニックスがあったから、ストックは死ねなかったのだ。
その後何とかして、フェニックスから聖人を作った。
同じ工程だから、今回も早く作れたわけだ。
ボクとしては、気になるのはその後、ストックがいつまで生きてたのかな?くらい。
だってどうせ。
「で。ボクの体は石から戻せたけど。
動かなかったか、別人だったかのどちらかあたりかね?」
様子を伺いながら、おそらく逃げ出せるように力をためていたストックは。
全身の力を、抜いて、大きく息を吐いた。
「……お前も何か、知り得ないものを知る力を持っているんじゃないか?」
「そんなものないよ。
まぁこの物事をほとんど忘れない脳みそは、ちょっと特別製かね」
魔素制御は偉大だ。
おかげで頭の回転も速くなり、物はほとんど忘れず。
ついでに、何か優秀なセンサーまで多数ついている。
たまに記憶飛ぶけど。
さっきみたいに飛ぶの、本当にごくまれだけど、あるんだよねぇ。
ただ最近、ちょっと多い、かな?
しかし、知り得ないものを知る、ね。
思い返せば、だからいまだにマリーは、ストックをへたれ呼ばわりするのかもね?
あの子は予言の力で、何かを知っている。
それが理由でストックをそう呼んでいる。
マリー相手でもあるまいに、あそこまで煽るのには理由があると思う。
たぶんこういう……意気地がなくてボクに言えない秘密が。
ストックには、まだあるんだろう。
多少気にはなるね?証拠がないから、黙っとくけど。
「…………はぁ。白状するよ。
半島が魔界になるまで……7年余り生きた。
その後は聖人を壊して果てた。
それで、お前の体は……」
「石から戻したら、聖女ウィスタリアが目覚めた」
ストックが目を見開いて、しかも少し青ざめてる。
「君、さっきのリコの話に反応しすぎだよ。
聖女を復活させるってだけなら、過剰だ。
ボク絡みで何かあるのだと思い、繋げた。
合ってるだろ?」
「…………合ってる。
お前を恐ろしいと思ったのは、前の時間の王都以来だ」
「そりゃいいね。
あの頃のボクくらいにはなれているのなら。
また君を――――救えるってことだろう?」
ストックがはっとして。
目をそらして。
上を見上げて。
俯いた。
…………言えない、か。
「ま。詳しい経緯はまた聞かせてくれよ。
さっきの話、中に共有した方がいいモノがあるはずだ」
「…………あるのか?」
「ボクが喚んだアウラの忌み名は。
『ウィスタリア・アウラ』だぞ。
関係があると見るべきだ。
君が会ったウィスタリアの情報は、余さず寄越してほしい」
マドカやアリサのことを鑑みるに。
その備えと対応は、必要だ。
来ないだろう、何もないだろうと見積もるのは、楽観が過ぎる。
「わかった。帰ってから、書き起こそうか」
「頼むよ。
他にもたんまり隠してるんだろ?
ボクはそれでいいから、元気出せよ、ストック」
「は?いや、いいのか???」
「いいよ。いい女ほど、秘密が多いってね。
内緒にしてることが多いのは、前の頃から一緒じゃないか」
「…………すまないな」
「ふふ。そういう煩悶があるから、君は綺麗なんだよな、ストック」
「や、えぇぇえぇ……?」
「ボクみたいに、枯れた女よりよっぽどよかろ」
「別にハイディは枯れてなど……あー。いないと、思う」
珍しく弱気目になったな。無理せんでもいいのに。
「ところで。
色っぽい時間は……もう終わり?」
「んっ。今日はその……終わりで」
今日って……そういや外も暗いな。もうそんな時間か。
「じゃあ支度して寝ちゃおうか。
まずお風呂かな。部屋に浴室ついてるみたいだし。
いこ?」
「…………ん」
ちょっと記憶飛んじゃったせいで、堪能感が薄いし。
イチャイチャもちょーっと足りてないけど。
まぁいいか。
共和国にはきっと、また来る。
その時もう少し、楽しむとしよう。
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