C-8.同。~かつての共犯者、その本懐。そして肉の三……?~
~~~~その。いい子、なんだけどねぇ。正直ちょっと苦手だった。こう、控えめに見えて前のめりで。
「あー……それ言わなきゃダメか。気が進まないなぁ」
「言ってください」
まぁそうだろうようでも気が進まないんだよう。
「惚れたって言われたから、断ったんだよ。
そしたら。では代わりに、とその名を贈られた」
「「「「惚れた!?」」」」
「…………そう、でしたか」
…………ハイニルはガチな人です。
ストックよりもさらに、恋愛なら女性じゃなきゃダメってはっきりしてる方。
たびたびボクを見る視線が妖しかったし、怖かったのでお話した。
そしたら先の流れとなった。
なんでボクなんかをそう思ったのかは、さっぱりわからない。
ちなみに、忍が名を差し出す、という風習は他の一門にも存在するのだそうだが、形骸化しているとのこと。
差し出す名を、普通は持っていないからだ。
だが箒衆は別だ。その奥意で、「魂の名」を自力獲得するらしい。
そして名を差し出した相手に、忠誠を誓うんだと。
正確には名っていうより……合言葉なんだけど。
「目帚」というのは合言葉で、名ではない。
この子の魂の名は、<リコ>という。
なおリコって名前は、普通に使うこともあるそうで。
「目帚」の方が、この風習に属する……。
特別な相手にしか教えない名称、なんだそうだ。
なかなかにややこしい。
「もちろん、名前の方も知ってるが。そっちも言っていい?」
「はい。もう特にお疑いはしておりませんが」
「ん。じゃあよろしくリコ。
ボクは伴侶もいるし、君が万が一、またそうなっても答えてあげられないけど。
できれば今度は、ちゃんと仲良くしたいね。前は忙しかったから」
「ええ、御屋形様――――ハイディ」
彼女の瞳が元の、赤の差す黒目に戻った。
「で。ここまで言って申し訳ないんだけど。
ボクの事情で、『目帚』の名は一時君に返上したい」
……また殺気が濃くなった。
けど、当のハイニル――リコは涼しい顔だ。
「我々をパンドラに招くわけにはいかないから、ですね?」
「そうだよ。カール氏に仕えてるんでしょ?
その状態の君たちを、王国の研究所には入れられないもの。
忍びの風習は特殊だ。周りを納得させられない」
「はい。お立場は承知しております。
…………いつまでお預かりすれば?」
「少なくとも、常任議員は辞めておいで。
何か目的があってなってるんでしょ?」
前の時はこの子は常任議員ではなかった。
少なくとも、ボクが巡り合ったときは。
「…………本懐は果たしたく思います」
「前の時間のときは、君のそれは聞いてないんだ。
……まだ仕込みがありそうだし、その間に聞かせてくれない?」
頭首が穏やかに接する様子を見て、周りは調理に入っている。
「畏まりました。
そう大したものではないのです。
聖女様を――――再びこの地上に、と」
「なるほど。ストック、たぶん違うから待ってね」
口を挟もうとしたストックに抑えてもらう。
ストックの中でつながったのはつまり、ボクを聖女にしようという話だと思う。
すごいいきり立ってるし……なんだどうした。
けどここは共和国。聖女派の人間が言うなら、それは。
「二人はたぶん、ハイニルから聞いて知ってるんだね?」
「うん」
「そうね」
「ストック。1000年前の聖女は、一般的には竜神山という聖国の山で没したとされる。
だが経典の記述はそうじゃない。
『お隠れになった』となっている」
「…………亡くなったときの表現じゃないのか?」
ん?ああいや確かにそういう言い回しもあるけど、めっちゃ古語だぞ?
あ、でも……ゲーム元の地球ではもう少しある言い方なのか?
このクレードル半島では、もう使われていない千年単位で昔の表現だ。
「そういう表現もあります。年代的にも、まだ使われていたころかもしれません。
ですが、言葉の意味そのままではないか、とも言われているのです」
「いや隠れたって……生きてはいられないだろう」
「そこがわからんという話さ。
で、この子はそれをテーマに常任議員になった以上。
革新的な内容を発表し、指示を得たと考えられる。
合ってる?」
「はい。本当にただ、どこかに隠れたというのは資料から証明しました。
ただどこにお隠れになったのか、また今どのような状態なのかは不明です。
そこを調査し、可能ならお帰りいただく。
それが私が常任議員を務めるにあたっての主題です」
「そうか。となるとまぁ……王国と共和国がもう少し仲良くなって。
常任議員の君が、その命題を研究したいという名目を持てば、パンドラに来れるかもね?
調査はともかく、その先はどっかで腰を据えて研究したいところでだろうし。
まぁそれだけだと、名はまだ預かってもらうことになるけど」
「ふふ。御屋形様は手厳しいですね。
ですがご提案は謹んで頂戴いたします」
「お、ハイニーもウチくるの!?」
ベルねぇの家はここやで。
「簡単ではないと思います。政治的な折衝、交渉で時間もかかるでしょう」
話す彼女をしり目に……何かベルねぇとギンナが視線を交わして頷いた。
何をする気だね、君たち。
お。なんかカウンター向こうでも交錯が。
ひょっとしてそろそろできてきたかな?
「『預かり』である以上、こちらも返してもらえるように努力はするよ。
パンドラに来るのは、その一環だな。
まぁ確かに少々時間がかかるだろうけど、ゆっくりやってほしい。
どうせ、調査の方だってまだ続けるんだろ?君らはそれが本分だし」
「はい。格段のご配慮、ありがたく存じます。
ではそろそろ」
そして牛鳥料理を振舞われたわけだが。
ボクは……こっからしばらくの記憶がない。
次投稿をもって、本話は完了です。




