C-7.同。~フライング再会~
~~~~まさか芋を出されるとは。魚や野菜、肉もたっぷり食べた。よかった。
案内され、個室の一つに通された。
個室と言っても、小料理屋くらいの広さがあり。
部屋の中に、調理スペースが普通にある。
座敷かと思ったが、四人掛けの四角いテーブルだ。
給仕の方に椅子を引いてもらって、座る。
カウンターの向こうにあるキッチンに、男性の料理人が数名。
そして……黒く髪波打った髪、黒に少し赤のかかった目の少女。
奥から暖簾をくぐってキッチンに入ってきた彼女は、髪を括り、布を頭に巻いた。
装いは他の料理人の方と同じ。背は少し高いけど、年の頃はボクと一緒に見える。
その。
なんで、ここに、いるの?
ちょっとだいぶ、予想外だし。
わざわざ会わないように、予定、外したんだけど。
思わずベルねぇを見る。
「紹介するね。その子がハイニル。私の妹」
ハイニルと紹介された子――ハイニル・ロール常任議員がカウンター向こうで頭を下げた。
つまりここベルねぇのおニューの実家か!?
やられた!!善意だし、予想外だ!!!
「ハイニー。その子たちが話してた、ハイディとストックね」
「ハイディです。初めまして」
なんとか平静を装って挨拶する。
「ストックだ。ハイニルと、そのまま呼んでも?」
「はい。本日は評議員でなく、料理人としてお持て成し致しますので。
こちらもハイディ、ストックと呼ばせていただいても?」
「かまわな……どうしたハイディ?」
ダメだ。首筋を伝う汗を抑えられない。
いや……これは。未来の彼女にいいって言われたからな。
初対面の今、言った方がいいだろう。
後で出すとこじれる。
息を深くし。
覚悟を決める。
「『目箒』」
カウンターの中……だけではない。
見えない各所から、仄かな緊張が伝わる。
「皆さん、関係の方のようだ。
後で話すとこじれるので、今お話したいのですが」
ハイニルの少し切れ長の目が、ベルねぇやギンナ、ストックを見て。
「構いません。呪いの子とは伺っていました。
しかし一同、その名を告げた経緯は聞きたく思います。
――――御屋形様」
ぐ。この扱いに慣れないから、言いたかなかったんだけどよう。
というか、会うならもっと後だと思ってたから……油断した。
今回はお会いするスケジュールから、ボク逃げてたんだけどなぁ。
隣のストックの目が、少々痛い。
ベルねぇとギンナからも、めっちゃ説明を求める視線が来ている。
しょうがねぇ。
「ストック。前のコンクパールに至るまで、ボクは船を降りてから丸三年だ。
それにしちゃあ、少々鮮やかだったと思わないか?」
「ん?それはまぁ、ハイディだしそんなもんだと思っていたが。
……人手があったということか?」
察しが良くて助かります。
さすがにボクでも、あの期間で半島を生かしつつ殺す手を、一人で打つのは無理だ。
計画と実行は全部自分でやったが、情報収集の手が必要だった。
伝手ができたのは完全に偶然だったが。
「そ。王国寄りだった共和国の重鎮と結びつきが深かった、忍の一門。
箒衆って一派なんだけど。
王国が滅びる折、諜報戦に負けて落ち延びたこの子たちを、ボクが拾った。
経緯は――――襲われたところを、返り討ちにした」
「…………ほぅ」
ハイニルの目が鋭く――青みが混じり、濃い紫になった。
しかし、この程度の殺気はそよ風みたいなものだ。
彼女が本気なら、気配の前に首が飛ぶ。
忍とは、元は武術の一流派だそうだ。
…………特に箒衆は、脳の魔素制御を得意とする。
ボクの技に非常に近いものを使う。
特に幼くして忍頭となったハイニルは、超人的な魔素制御の技術を持つ。
単純処理能力なら、ボクを上回る。
今は先の通り、王国寄りの重鎮、すなわちカール・ロール氏に着いている。
養女であるのも事実だが、いろいろあって先代を失ったところ、一門ごと拾われたそうだ。
そしてその恩義に報いるため、持てる力をいかんなく発揮。
昨年あたりに常任議員にもなったはずだ。
常任議員に選ばれるのには、前提として高い情報処理能力がいる。
由来は魔導でもなんでもいいんだが。
それがまぁやたら追われたり負けたりしてるのは、強すぎるからなんだよなぁ。
箒衆にしろ、ロール家にしろ、共和国内の主流派ではない。
なのに常任議員を二人も抱えていたり、影響力が大きかったりで目をつけられやすい。
カール氏本人が、政治にあまり関わらないせいもあるが。
政治に深い関係を持つのに、ここには政治に長けた人がいないんだよな。
公選議員あたりはともかく、常任議員は政治力関係ないからね。
「神器船クレッセントの責任者として、王国滅亡の事件中心にいた当時のボク。
これを捕えようとしての動きだったみたい。
で、全員をぶっ飛ばした後。行く当てがないっていうから仕事を頼んだ。
報酬は魔物肉の定期提供。君らの武は、対人はともかく対魔物は厳しいからね。
どこも飢饉で食糧不足だったから、それで契約してもらえたよ」
この子たちの武は、魔物が苦手だ。
倒せないだけで、対処はできる……魔境だって一人駆けできるんだけど。
魔物を倒して食料を入手する、って真似はできなかったから、それをボクがやった。
ボクは前の時間では神器使いだったから、これはお手の物だった。
目元をさくっと切れば、特大の肉の塊の出来上がりだ。
魔境を往き、狩りをするの自体は大変だけど。
「筋は通っています。そこまではいいでしょう。
ですが、名を預けるとは思えません」
そう。契約くらいは、報酬があって他と利害が被らなければ受けてくれる。
ただ、先の名前、は特別。
時を超えても、変わらぬ忠を誓った証だ。
次の投稿に続きます。




